その夜は比較的忙しかった。
深夜というには早い時間だったが、若いカップルが来店し、丁度カウンター席が2席空いたところに座った。
二人は20歳そこそこ?
どこぞの当時流行のデザイナーズブランドの新しい?洒落たスーツでキメている。
席に着いたあと、少ししてオーダーを聞きに行くと、彼の方がメニューも見ずに。。。。
「僕はマティーニ、彼女にはギムレットを」
と注文した。
「ん?」と思ったのだが、まぁ、とりあえず私が作ってお出ししてみた、、、
よせばいいのにすりきり近くまで入っているカクテルグラスで乾杯をしたため少しこぼれてしまい、一口飲んだあとには、、、二人は顔を見合わせながら、、、「思ったよりもキツイんだね」とコソッと小さな声でつぶやいた。
賑わっている店内ではあったが、私にはハッキリと聞こえていた。
若いカップル(当時は私も十分に若かったが)が流行のスーツに身を包み、週末の洒落たバーで飲んだことも無いマティーニとギムレット????恐らくかなり緊張していたのではないだろうか???
どこぞの雑誌のお洒落なデートマニュアルに載っていたとおりに実践していたのだろうなと思ったが、逆にあまりにもマニュアルどおり過ぎるあたりがこのカップルの生真面目さが良くわかって面白かった。
こちらからは何も話しかけなかったのだが、結局そのあと二度とグラスに口をつけることなく小1時間ほどおしゃべりをして帰っていった。
帰るときもマニュアルどおりとはいえレディーファーストに徹し、格好つけている彼がかわいく思えた。
あれから20年以上経過した。
あの二人がその後どのような人生を過ごしているのかは全く知るよしも無いが、良い家庭を築いていることを期待しているのはいうまでも無い。