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Midnight Tripper

深夜の街や酒場で繰り広げられるさまざまな人間模様を実体験を元に脚色を加えて書き綴ってみたいと思っています。

その夜は比較的忙しかった。


深夜というには早い時間だったが、若いカップルが来店し、丁度カウンター席が2席空いたところに座った。


二人は20歳そこそこ?
どこぞの当時流行のデザイナーズブランドの新しい?洒落たスーツでキメている。


席に着いたあと、少ししてオーダーを聞きに行くと、彼の方がメニューも見ずに。。。。

「僕はマティーニ、彼女にはギムレットを」

と注文した。


「ん?」と思ったのだが、まぁ、とりあえず私が作ってお出ししてみた、、、


よせばいいのにすりきり近くまで入っているカクテルグラスで乾杯をしたため少しこぼれてしまい、一口飲んだあとには、、、二人は顔を見合わせながら、、、「思ったよりもキツイんだね」とコソッと小さな声でつぶやいた。


賑わっている店内ではあったが、私にはハッキリと聞こえていた。


若いカップル(当時は私も十分に若かったが)が流行のスーツに身を包み、週末の洒落たバーで飲んだことも無いマティーニとギムレット????恐らくかなり緊張していたのではないだろうか???


どこぞの雑誌のお洒落なデートマニュアルに載っていたとおりに実践していたのだろうなと思ったが、逆にあまりにもマニュアルどおり過ぎるあたりがこのカップルの生真面目さが良くわかって面白かった。


こちらからは何も話しかけなかったのだが、結局そのあと二度とグラスに口をつけることなく小1時間ほどおしゃべりをして帰っていった。


帰るときもマニュアルどおりとはいえレディーファーストに徹し、格好つけている彼がかわいく思えた。


あれから20年以上経過した。
あの二人がその後どのような人生を過ごしているのかは全く知るよしも無いが、良い家庭を築いていることを期待しているのはいうまでも無い。



いつもは深夜まで忙しい店なのにその日は比較的引きが早く、午前1時過ぎには静かになった。


カウンターには女性が一人で飲んでいた。
すらっとしており長身でスタイルの良い美人、飲んでいたのは確かフィンランディアウオッカのロックだったはずだ。


2杯目に口を付けたあたりで彼女が話しかけてきた。

「聞きたいことがあるのだけれど、いいですか?」


何のことかと思えば、「一般的な日本の人はフィリピンの人を下に見ますか?」と。

難しい質問だ下手に答えられない。


「そういった人も少なくは無いけれど、みんなでは無いですよ」
と中途半端な答えをしてしまった。


彼女は「そうですよね」とポツリとつぶやいた。

「あなたはどうですか?」

と問われたので、


「私は特に差別はしていませんが、その人が好きか嫌いかということの方が重要ですね」と、また微妙な答えをした。


しかし、その後も彼女と色々話しをしていくうちに仲良くなった。
日本語が上手な彼女はマニラ出身のフィリピン人なのだそうだ。

ホステスとかではなく、かなりのエリートらしく、仕事で日本、アメリカ、フィリピンを行ったり来たりしているらしい。英語も完璧なのだそうだ。


たまたま近くのホテルに宿泊していて、何となく飲みたくなってふらっと入ってきたらしい。お酒も強く、4~5杯飲んだ頃だろうか、、


「何時までですか?」と質問された。

4時で閉店と告げると、そうではなく私の帰る時間を知りたかったらしい。


片付けをしてからなので5時近くなると告げると、、、残念そうな顔をしたが、彼女は「あなたは私のことをもっと知りたくないですか?」と言ってきた。


どんな意味で言ったのかは判らないが、意味深だった。
「もちろん知りたいですが、今日は私に時間が無いので残念です」
としか言うことが出来なかった。


彼女は残念そうにしていたが、間もなく会計を済ませ、「また東京に来た時に飲みに来ますね」と言い、店を出て行った。


しかし、その後彼女を見かけることは無かった。
あの日、彼女の誘いに乗っていたらどんな展開になっていたのだろう?


20年以上経過した今でも記憶に鮮明に残っている出来事だ。


比較的静かな夜で、誰もいなくなった店内に午前1時過ぎだったか、ひとりの女性客が来店した。

近所の雑貨店に勤務している美樹さんだった、いつもはその店の女性オーナーと2人で来るのだが、、、


「美樹さん、今夜はひとり?しかもこんな遅い時間に???」


「うん、今日はひとりですよ、明日は休みなので、たまにはひとりで飲もうかと思って・・・・(笑)」


なるほど、いつもオーナーと一緒じゃ愚痴も言えないよな、妙に納得してしまったのだ。


美樹さんは20代中頃のバイク好きの女性。

バイク仲間の彼氏がいると言う話しはいつも一緒に来るオーナーさんから聞いていたが、、、その彼氏には会った事は無かった。


小一時間、くだらない話で盛り上がり、時計を見たら午前2時半。

実を言うと、私は少々空腹で、食事がしたかったので誘ってみることにした。


「今夜はヒマだから今から閉めて片付けるので、その辺で飲みませんか?」


との誘いに快諾してくれたので、早々に片付け、近所の居酒屋に入り、飲みながら色々話をした。


そういえば美樹さんとは初めて飲むのだった、、、週に1回程度はオーナーさんと来店されていたので良く知ってはいたけれどプライベートな話しはした事が無かったのだ。


気さくで化粧っ気の無い小柄な美人。


さすがに明け方近くなったので、お会計をしたのだが、、、

店を出た後、「もう帰らないとダメですか?」と彼女が言う。


私はもちろん大丈夫なのだが、、、あとはやっているのはカラオケボックスくらいしかないだろうと思ったら、「じゃ、歌いに行きませんか?」と積極的な彼女。


閉店時間の午前6時まで居座り、さすがにお開きにしたのだが、なぜか帰りたく無さそうなオーラを出していた彼女、タクシーで送ろうとしたら、、、


『大丈夫、近いから歩いて帰る』


と言い、逆に私がタクシーに乗って帰るのを見送ってくれた。

何となく彼女の目が寂しそうに感じたのだが、、、


何事も無かったように数日が過ぎ、今度は例のオーナーさんが一人で飲みにやってきた。


「あれ?今日はひとり??」


と私が聞くと、オーナーさん曰く、「この前、美樹ちゃんと早朝デートしてたでしょう???近所で噂になってるわよ」と。。。


「いや、暇だったので早めに閉めて居酒屋行ってからカラオケしてただけですよ」


と反論したら、「何にもしなかったの?」の質問。

ホントに何にもしてなかったので「何にもしてないですよ」と言ったら、、、


「あ~~あ、美樹ちゃん可哀そう」と怒られてしまった。


美樹さんは実家のお母さんが重病で、急遽実家に戻らなくてはならなくなったとのこと。

店も退職して、丁度実家に帰る前日に私のところに一人でやってきたらしいのだ。


どうも、オーナーさんの話だと美樹さん、私に気があったらしい。

彼氏とも少し前に別れていたとの事、ホントかどうかは今となっては知るよしも無いが、確かに帰るときの寂しそうな目は気になっていた。


その後、美樹さんの消息はわからず、二度と会う事も無かった。

幸せになっている事と信じたい。


今よりもまだ若く、10年以上も前に一人で小さなバーを任されている頃、そんなことに鈍感だった頃の話しだ。