比較的静かな夜で、誰もいなくなった店内に午前1時過ぎだったか、ひとりの女性客が来店した。
近所の雑貨店に勤務している美樹さんだった、いつもはその店の女性オーナーと2人で来るのだが、、、
「美樹さん、今夜はひとり?しかもこんな遅い時間に???」
「うん、今日はひとりですよ、明日は休みなので、たまにはひとりで飲もうかと思って・・・・(笑)」
なるほど、いつもオーナーと一緒じゃ愚痴も言えないよな、妙に納得してしまったのだ。
美樹さんは20代中頃のバイク好きの女性。
バイク仲間の彼氏がいると言う話しはいつも一緒に来るオーナーさんから聞いていたが、、、その彼氏には会った事は無かった。
小一時間、くだらない話で盛り上がり、時計を見たら午前2時半。
実を言うと、私は少々空腹で、食事がしたかったので誘ってみることにした。
「今夜はヒマだから今から閉めて片付けるので、その辺で飲みませんか?」
との誘いに快諾してくれたので、早々に片付け、近所の居酒屋に入り、飲みながら色々話をした。
そういえば美樹さんとは初めて飲むのだった、、、週に1回程度はオーナーさんと来店されていたので良く知ってはいたけれどプライベートな話しはした事が無かったのだ。
気さくで化粧っ気の無い小柄な美人。
さすがに明け方近くなったので、お会計をしたのだが、、、
店を出た後、「もう帰らないとダメですか?」と彼女が言う。
私はもちろん大丈夫なのだが、、、あとはやっているのはカラオケボックスくらいしかないだろうと思ったら、「じゃ、歌いに行きませんか?」と積極的な彼女。
閉店時間の午前6時まで居座り、さすがにお開きにしたのだが、なぜか帰りたく無さそうなオーラを出していた彼女、タクシーで送ろうとしたら、、、
『大丈夫、近いから歩いて帰る』
と言い、逆に私がタクシーに乗って帰るのを見送ってくれた。
何となく彼女の目が寂しそうに感じたのだが、、、
何事も無かったように数日が過ぎ、今度は例のオーナーさんが一人で飲みにやってきた。
「あれ?今日はひとり??」
と私が聞くと、オーナーさん曰く、「この前、美樹ちゃんと早朝デートしてたでしょう???近所で噂になってるわよ」と。。。
「いや、暇だったので早めに閉めて居酒屋行ってからカラオケしてただけですよ」
と反論したら、「何にもしなかったの?」の質問。
ホントに何にもしてなかったので「何にもしてないですよ」と言ったら、、、
「あ~~あ、美樹ちゃん可哀そう」と怒られてしまった。
美樹さんは実家のお母さんが重病で、急遽実家に戻らなくてはならなくなったとのこと。
店も退職して、丁度実家に帰る前日に私のところに一人でやってきたらしいのだ。
どうも、オーナーさんの話だと美樹さん、私に気があったらしい。
彼氏とも少し前に別れていたとの事、ホントかどうかは今となっては知るよしも無いが、確かに帰るときの寂しそうな目は気になっていた。
その後、美樹さんの消息はわからず、二度と会う事も無かった。
幸せになっている事と信じたい。
今よりもまだ若く、10年以上も前に一人で小さなバーを任されている頃、そんなことに鈍感だった頃の話しだ。