ネタバレを含むため、注意してください。
雨が降っていた。
まさにmol-74の季節だと言わんばかりの天候だ。
環境が変わった。
世間が変わった。
常識が変わった。
常に変化する状況で、僕は疲れていた。
正確には、「疲れた」と言えない自分に疲れていた。
だから、この日を迎えた時は正直乗り気じゃなかった。
行って良いのか迷いが毎日のように押し寄せてきた。
でも、大切な人たちだから、行かなければ後悔すると意を決した。
カーテンのような射幕を通して見ることができる4人の姿。
ライブの幕開けと同時に『目を覚ましてよ』が鳴らされる。
かずきち兄ちゃんが問いかける歌は、僕らに直接言い聞かせているように思えた。
目の前にいるのはモルカル、僕は何を見に来た?この場にいるなら今を楽しめ。
タイトル通りに目を覚ました僕は、耳にピリピリと響くサウンドに懐かしさと嬉しさが込み上げた。
挨拶も無くすぐさま『Playback』に移る。
モルカル特有の駆け足を鳴らすドラム、でもその中で浮き足立つ心模様がベースを通して始まる。
体がふわりとする感覚、これこれ。
幕の向こうの4人の表情は落ち着いている。
それでいて高揚感が後半に向けて大きく高鳴る。
すると曲のラストのサビで紗幕が下ろされた。
歓声はない、だが眩しいその光景に誰もが興奮したはず。
マスクの下で流れる涙が温かい。
ようやくメンバーの笑顔がはっきりと見れた。
『ノーベル』の花が溢れる。
ギターのゆーとさんは嬉しそうにギターを振りながらメロディを奏でる。
音が体を包んで曲に引き込んでいく。
何度も体験したのに、どうして忘れてしまっていたのだろう。
なんて、悔しさを感じる暇もなく、脳は楽しむことだけを考えている。
鍵盤に移動したかずきち兄ちゃん。
『エイプリル』の音が以前よりソフトになったと思ったのは僕だけだろうか。
四季を感じながら吐き出される息、カラフルで深く優しい。
確実に縫うりょーまさんのベースと、ゆーとさんのギターメロディのコントラスト。
まるで曲同士が血管で繋がれたように、脈打つ『あいことば』に場面は切り替わる。
自分が主人公になったような感覚は出会った頃から変わらない。
その日の感情によって雰囲気が変わる『フローイング』、この日は寒色系の世界。
僕の心はどんどん暗い底まで沈むのだけれど、必ず最後には一筋の灯が見える。
大声で泣きたいくらいの感情が押し寄せる。
そして青色の『アルカレミア』だ。
照明ひとつでこの曲も大きく変わる。
僕が思い出されたのは、やはり雨の降る街の景色。
「どうか思い出して それがまた僕になる」
心臓が自分でも意識できるくらい高鳴っていた。
特に僕が驚いたのは『夜行』、『Saisei』、『瞼』の流れだ。
『まるで幻の月をみていたような』をリリースする頃まではどちらかというと暗い曲が多く、僕は布団の中で聞くことが多かった。
そうすることで彼らの楽曲を用いての自分だけの世界が作れたからだ。
その頃の主人公が、この3曲が収録されたアルバム『Saisei』でまた現れたと思った。
逃げているように思える足早のリズムは、実は進むためのもので。
「いつか僕らは生まれ変われるかな」という台詞は、弱気な意味ではなく、至って前向き、希望的観測のようなものでは?
主人公は、弱気な僕から顔を上げる僕に意識が変わっていることに気づく。
「皆さんは夢を見ますか?」と言葉を投げたかずきち兄ちゃん。
『瞼』この曲で必ず思い出させられるのは、大切な友人達のことだ。
なぜこう恐ろしいくらいに感情に寄り添えるのだろう。
カッティングひとつで、奏法ひとつで宥めていく。
「ここからは明るい曲が続くのでよかったら立ってください」
そう言ってオーディエンスを促し『Strawberry March』へ。
『開花』の歌詞にある「終わりを告げた始まり」という言葉が好きだ。
どのアーティストも最後は盛り上がる曲を置くのがほとんどだが、モルカルのライブは特に花開く優しい音と笑顔で観客を見送る。
少しでもこの音を、光を、言葉をポケットに詰め込んで一緒に現実を歩んでいってほしい。
そう言っているように聞こえる。
なるべく笑って、また会いましょう。
最後の最後まで降り注ぐサウンド、リズムを纏わせて彼らは僕らに魔法をかけた。
多分、また会えるおまじないも添えて。
ライブ終わりのツイートでゆーとさんが呟いていたが、確実にこの日のライブはこれまでのライブでも上位に入るほどの素晴らしいライブだった。
状況なんて関係ない。
眩い光と、演者・観客の思いが一つになることでライブは成り立つ。
それが最大限に発揮されたライブが今日だったのだ。
そして、かずきち兄ちゃんが何度も言った「配信も含めて今日のライブを見てよかったなと思ってくれたら嬉しい」という言葉。
当初の僕自身の気持ちがバカみたいだった。
揺らいでいる暇はないのだ。
大切なものを引き出しに閉じ込めたままにしていたなんて。
『Teenager』で羽ばたき、知らない間にその大切なものは大きく成長し、たくさんの人に自慢したいほどの輝きを放っていた。
スポットライトに照らされた4人の姿を見た時、あの頃の4人と変わらなすぎて顔が綻んだ。
ここにずっといたのに、おかしいなって笑ってしまった。
またひとつ宝物が増えました。
『Answers』という曲です。
end