其の旅人、今を担い明日を歌う

 

 

 僕が初めて彼らのライブを見たのは2011年の夏だった。

 目に見えない恐怖が生まれていく日々に自粛という2文字が広がる。そうして多くのライブが中止されていくにもかかわらず、音楽を求めて足を運んだフェスでは多数のアーティストが変わらずに音を鳴らしていた。その中でもひときわ距離が近く、僕の心へ次々と入り込んでは曲による〝強さ〟を与えてくれたのがストレイテナーだった。

 それから約2年が経ち、ストレイテナーはメジャー10周年に〝21st CENTURY ROCK BAND〟と銘打った武道館公演を成功させた。その名の通りの旗を掲げながら彼らは常に堂々と時代を走り続け、いつだって僕達の心に変わらない〝強さ〟という灯をともしてきたのだ。

 

 2018年は結成20周年、メジャーデビュー15周年という大きな節目を迎える。

 そして昨年10月には、そのアニバーサリーイヤーに向けて初のトリビュートアルバムのリリースを行った。同じミュージックシーンを歩んできた同世代だけでなく先輩・後輩のバンドが集結して出来上がったアルバムは、僕の期待をはるかに超えた圧巻の出来栄えだった。参加アーティストそれぞれがハナから自分達の物であると言わんばかりのプライドを曲へ込めている。曲がめくられていくたびに闘志にも愛情にも似たものが音として見え隠れするのだ。

 

 「同世代のバンド仲間が集まって、最高のトリビュートアルバムができました。今回はその楽曲を中心に演奏していきたいと思います。」

 ボーカル、ホリエアツシは自信に満ちた笑みを浮かべながら挨拶をする。

 赤い照明がステージ全体を照らし出すとナカヤマシンペイのドラムによる水を弾くようなビートから、ひなっちことベース日向秀和の巧みに駆けるスラップへと続く。『DISCOGRAPHY』のサウンドでコーストのフロアが一気に縦揺れを起こす。

 彼らのメジャーデビュー作となるシングル『TRAVELING GARGOYLE』や、ライブでは欠かすことのできないアグレッシブかつソリッドなサウンドの『KILLER TUNE』、イントロからド派手なサウンドでフロアを踊らせる『From Noon Till Dawn』といった新旧のロックナンバーで容赦なく会場中をかき混ぜていく。

 

 変わらないロックナンバーもあれば、新たなアレンジによって生まれ変わった曲もある。ファンの間でも根強い人気を持つ『SAD AND BEAUTIFUL WORLD』は、鍵盤によるイントロで儚げな美を表現したかと思えば、すぐさま超絶エモーショナルな温度へと切り替えていく。青から赤へ移りゆく美麗。そのギャップはまさに彼らにしかできないリアレンジの仕方だろう。全身全霊、大いに体を使って音を放出させていく大山純のギターサウンドにオーディエンスもヒートアップする。

 そして熱が冷めないうちに昇り始めた『冬の太陽』を穏やかで優しいオレンジ色の光が包み込む。後半に向けていくにつれて再びビートが熱気と同期して上昇する。そのため、曲が鳴り終わった直後のわずかな空白の瞬間はロウソクの火を勢いよく吹き消したような沈黙に感じた。全力を出し尽くした4人の息遣いが聞こえてきそうなほどシンと静まりかえった会場内に拍手が広がるとまた新たな火が灯され、一気に温度が戻ってきた。

 

 煌びやかなミラーボールの下で「朝まで踊ろうぜ!」とホリエが会場を煽ったのは『Alternative Dancer』だ。今ではあらゆる会場をダンスフロアに変化させてきたこの曲も革新的となったアルバム『COLD DISC』で色濃く存在感を表す楽曲の1つである。これまで時代に大きく流されずに進化を遂げてきた彼らもこのアルバム発売以降、バンドとしての変化を迎えたように感じる。『COLD DISC』発売当時のインタビューでホリエは次のように語っている。

 

 「J-POPをロックバンドでやったからって歌謡バンドだみたいなのを、今更僕らも言われることはないと思うので、そこは恥ずかしくないし、逆に自分が子供の頃から聞いてきたものを見直して、やっぱりいいなって。」(ROCK’IN JAPAN 2016年 6月号)

 

 叙情的な歌詞をポップなメロディとリズムに乗せた『月に読む手紙』も、今までのストレイテナーが作り上げてきたロックバンドという固定概念を打ち砕く爽やかな楽曲だ。一見して実験的かと思えば元々のメンバーが持つ自由なニュアンス、蓄えられた歴史などによって創造されている。自然と付与される彼らの芯が太くあるからこそ、「これがストレイテナー!?」と驚きながらもスッと受け入れて彼らの音として染み渡る。

 『Curtain Falls』の壮大で胸が膨らむ行進がまさに次の年への期待を高まらせ、稲光が迸るかの如く炸裂するエモーショナルな『シンデレラソング』で再び前方エリアはモッシュピットと化し、続く彼らの代表曲『Melodic Storm』が鳴らされれば会場中は大シンガロングを巻き起こした。繰り出される曲の中で徐々に終わりへと向かっていく意識が現れる。止めることのできない時間の中で、精一杯のこの感情をステージへ届けるように多くの人が手を伸ばす。

 会場の空間いっぱいに広がる愛に包まれながら本編ラストの曲『Farewell Dear Deadman』が演奏される。セットリストの曲達がまるで1つのストーリーとなって起承転結を迎える。緩やかなテンポが運んでいくのは彼らとの思い出と、これから先の未来。メンバーに手拍子を促されるとフロア全体に暖かい照明が注がれる。体をゆったりと揺らしながら鳴らされる優しい喝采が、そのままステージを去るメンバーを送り続けた。

 

 アンコールに登場したナカヤマはドラムのそばに立って「アンコール出るまでに「ありがてえな」って言葉、数十回は口にしたね。」と会場中をじっと見つめて話した。メンバーがその言葉を噛み締めて頷く。ホリエは照れ臭そうに「こうして毎年のようにここでライブができること、本当にかけがえのないものだと思っています。」と語った。

 20周年と一口に言ってもひとつの区切りであって、その区切りが意識的に無くとも彼らは止まることなく歩みを進めていたはずだ。なぜなら、彼らを取り巻くアーティストが同じく歩みを進めているからだ。互いが切磋琢磨してこれまで多くの苦難を乗り越えてきたからこそ、思い入れのあるストレイテナーの曲をそれぞれの形で物にした。それは感謝であり、さらに先へ進むために必要な良い意味での挑発なのかもしれない。

 「昔の曲もいいなと思う曲ばかり。これからも曲を抱きしめていきたいと思います。」

 4人だけではなくファンにも楽曲の良さを改めて気付かせてくれたのはやはり仲間だったのだ。あの日、僕がフェスの会場で出会った数多くのアーティストが〝今〟を作り続けているから僕も変わらずにこの場に立っていられる。この日もいつか未来に通じているのだと思うと愛おしくて仕方がない。

 

 今回のツアーの1曲目にして、オーディエンスの大合唱が始まったのは『ROCKSTEADY』だった。今まで何度も聞いているはずなのに、何故だか歌詞が目の前に浮かぶようにして意味をなぞった。

 

《僕らは進まなくちゃ 先を急がなくちゃ

 足が言うことを聞いてくれるうちに

 君らは残らなくちゃ 後を担わなくちゃ

 星が闇を削ってくれるうちは》

 

 僕が彼らに感じていた〝強さ〟は、常に楽曲に込めた〝明日を歌うこと〟なのだ。

 努力し続けても結局は上手くいかなかったことがある。どれだけ手を伸ばしても届かなかったものがある。しかし、泥だらけになって躓きながらも進んだ旅路の中でいつも彼らの音楽は奮い立たせる力を与えてくれたのだ。

 

《走り出した日々に何を残して行けるだろう?

 まだ見えないけど

 歌われることのない想いを音にして鳴らすんだよ

 聴こえるだろう?》

 

 『ROCKSTEADY』から10年以上経って発売された『DAY TO DAY』という歌詞で、彼らは変わらぬ想いのまま明日を歌い、走り続けていることを思い知った。それはまるで「まだあの頃の夢を追い続けているんだよね」と嬉々とした表情で話されるような感覚だった。

 

 

end