K-BALLET TOKYO「マーメイド」@オーチャードホール | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

演出/振付/台本/音楽構成 熊川哲也

音楽 アレクサンドル・グラスノフ

小林美奈/堀内將平/成田紗弥/石橋奨也

 

 1週間以上も前に観たので記憶が薄れ…て……💦 もともと杉野慧さんがシャークを踊る日を取ったんだけど降板してしまい、シャークは栗山廉さんに変わり、さらに石橋奨也さんに変わるという、なんか、はぁ……そうですか…ってなりました、いや栗山さんも石橋さんも好きですけど。

 しかも、BBLマチネ「バレエ for ライフ」を観てからのソワレ「マーメイド」で、BBLの感動冷めやらぬうちに渋谷へ移動、「B for L」で高揚したままの気持ちを切り替えられない状態で「マーメイド」を観る態勢になってしまった💦

 それにしても杉野さんは「くるみ割り人形」のドロッセルマイヤー役にも名前がないし、何があったのでしょうか。K-BALLETを観るようになったのは杉野さんに惹かれたからなので、とてもとても気になります😢

 

 さて「マーメイド」ですが、熊哲は「バレエ人口を増やそうという思いから、子供たちにも観てもらえる新作を作った」みたいなこと言ってますね。その意図を知らないと、1人の男性をひたむきに愛し、結ばれずに死んでいくっていうお話は、21世紀の新作としては古いのでは? かといって2人が結ばれるハッピーエンドも陳腐、プリンスを振り切ったマーメイドが別の人生を見つけていくとか、そういう結末にはならないのか? と(私の場合)思うところですが、子供にも訴えかけるのなら童話踏襲でいいのでしょう。

 

 童話では、マーメイドに “尻尾を脚に変える” 薬を与えるのは魔女ですが、熊川版ではそれはなぜかシャーク。プリンスが投げた銛で傷つき怒ったシャークが嵐を起こしてプリンスが遭難、マーメイドが助ける……と繋げているのは、よく考えたなと思います。

 また最後も童話では、マーメイドは短剣を海に投げそこに身を投じて泡になり、そのあと空気の精になって空に昇っていく。熊川版では、マーメイドは、短剣をプリンスが寝ているベッドにそっと置いて去って行く→目覚めたプリンスがそれを見て、自分を助けてくれたのはマーメイドだったのかと理解し追いかけるも、彼女は泡になって消えていくという展開でした。このほうが「プリンスが全てを知るのがもう少し早ければ……」というドラマ性というか悲劇性は強まりますね。

 

 ストーリーがシンプルでオーソドックスな分、ヴィジュアル部分=舞台美術や衣装が際立ちました。嵐の表現は浪布を上手く使っているし、海中の世界はブルー系のグラデーション使いがとても神秘的。衣装では海の生き物たちがとても可愛い。人魚たちの尾のデザインがが工夫されていて、マーメイドのそれを取ることで脚が現れ、そのまま海上に昇っていく演出はお見事でした👏

 踊りも、良い意味でオーソドックスで、クラシック・バレエ味がよく出ている。冒頭の酒場のシーンは「白鳥の湖」の1幕にそっくり。ソロを始めパドドゥ/トロワ/シスなどが次々と踊られたり、物乞いが(道化並みに)テクニックを披露したり、父親が息子プリンスに(クロスボウならぬ)短剣を渡し海で狩をしてこいと言ったり。プリンスとマーメイドとのPDDが1度しかないのは残念だけど、マーメイドが波打ち際で倒れているプリンスを見て恋心を募らせるところでは、それを表現するマーメイドのソロがあってもよかったかも。

 

 マーメイドの小林美奈さんは、プリンスへのほのかな思いが次第に確信に変わっていくところや、プリンスが自分を見ていないことを知ったときの、スーッと心が引いていく儚げな感じ、最後、葛藤し自ら犠牲になる決心をした時の凛とした態度など、シーンに合わせた感情表現がとても巧み🎊 海の中で生き生きと踊る姿や、プリンスとのPDDでの溌剌とした動きなども良く、マーメイドを表す特徴的な腕や脚の動き、それが見せるラインがきれいだった。脚を “持った” プリンセスが砂浜を初めて歩き出すところも痛々しい感じが現れていました。余談ですが童話ではその時の感覚を「歩くたびにナイフでえぐられるような痛みを感じる」って書かれているんですよね。そりゃ痛いわ……😖

 

 プリンスの堀内將平さんはノーブルさと若々しさがあり、酒場で仲間と楽しむ姿は爽快。マーメイドへの優しさもよく出ていて、でも、彼女の恋心までは気づかず、逆に、プリンセスを見た時のハッとした一目惚れ感が、苦労を知らない王子っぽかったです😅 そのプリンセスは成田紗弥さんで、婚約式でのGPDDで見せるダンステクニックも完璧。プリンスもプリンセスも性格描写はあまりないので踊りの美しさが見せどころになりますね。

 シャークの石橋奨也さん、荒々しさとたくましさをうまく出していてダンスもダイナミック。踊る姿をもっと見たかったです(シャークの登場シーンを増やしてほしい)。そのほか、冒頭で踊る物乞いの栗原柊さんのキレの良いダンスに目を見張る。酒場の女たちや、プリンスの友人たちの踊りは華やかで楽しい。海の生き物も、海面をジャンプしながら進むイルカたち、コミカルなロブスターなど、そのコスチュームと相まって、ユニークなダンスが可愛かったです。

 

 これってマーメイドとプリンスの恋話でもなく、プリンスが2人女性の間で悩むわけでもなく、プリンセスも別に悪いやつじゃないよね(可愛い嘘をついちゃうけど「助けたのは私ではありません」と正直に言ったところで、プリンスは、じゃあマーメイドなのか?とは思わないだろうし😔 彼が一目惚れするのは先に会ったマーメイドではなくプリンセスなんだし)。マーメイド1人の行動と感情の変化のドラマなので、ダンステクニックに加えて演劇的(心理)描写力が要求されるという、難しくもやりがいのある役だなと思った次第。

 

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