玉三郎&仁左衛門「錦秋特別公演」@御園座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

 歌舞伎の感想ブログが続いてしまいますが🙇‍♀️ この次は天海祐希さんとアダム・クーパーの「レイディマクベス」、その後「キャメロット」について書く予定です(一応、予告)。

 今回は名古屋へ遠征してきました。至福の一日でございました😭 仁左玉で「四谷怪談」から「神田祭」って最強の演目構成ですね。まず心身凍るような余韻を残させておいて、次にそれを一瞬で溶かすという、心憎いともいえるこの流れ。しかもその両演目で、仁左さま・玉さまそれぞれの、闇と陽の魅力が全開してる

 

「東海道四谷怪談」

玉三郎/仁左衛門/松之助/隼人/歌女之丞/千之助/橘三郎/吉弥

 ご両人による「四谷怪談」は2年ぶり。そのときにはあった「隠亡堀の場」を今回は付けてないんだけど、その理由を仁左さまがプログラム内で語ってくださってます。が、私は、2演目めの「神田祭」はお二人とも20分出っ放しということもあり、ご自身たちの体力を考えてのことと思いました(←それで良いんですよ~☺️)。

 

 隠亡堀がないだけに、今回は玉さまお岩にフォーカスしたような舞台に感じられた。とにかく憐れでねぇ🥹 産後の肥立が悪くヨロッと奥から出てくる玉さまの、しな垂れる柳の枝木のような、今にも消え入りそうな佇まい。伊藤家からもらった薬を飲み干すまでの、指先や顔の角度まで計算され尽くされたような(もちろん完璧なまでの自然な)丁寧な所作、息を詰めて見てしまった。薬の粉の最後の1粒までゆっくり飲むところが、美しくも悲しい。伊右衛門に剥ぎ取られ着物1枚になった姿の、肩から胸にかけてのやつれた感じの、なんと儚げなこと……。不義を仕掛ける宅悦(松之助)を毅然と非難する玉さまの声には、武家の出としてのプライドがしっかり残っていました。

 醜く崩れた自分の顔を鏡で見て「これが私の顔かいなぁぁぁ」のセリフは悲痛な叫び。毒とも知らず伊藤家にお礼を言いながら薬を飲んだのかと、怨みと怒りが一瞬燃え上がったところに、生身の人間としての最後の生命力を見たような。御歯黒を付け髪を梳き、精一杯身なりを整えているのにどんどん醜くなっていく、その悲哀が玉さまの身体から絞り出されるようだった😭 最期は伊右衛門に斬られるのではなく、宅悦と争ったとき柱に刺したままの短刀に自ら倒れ込んで命を落とすのが何ともやるせないよね😢 細やかな演技を1つずつ紡ぎながらお岩さんの悲劇を形作っていく、玉さまの至芸でした。

 

 仁左さま伊右衛門、歌舞伎でいう色悪とはこういうものですよってくらいまさに色悪でした😄 DVひどいし、自分の赤子なのに愛情0.1ミリもないし、下男の小平(隼人)をあっさり殺すし。伊右衛門自身は塩治家の浪人なんだけど、敵方である高家に仕官させてもらえる!というのがお梅(千之助)との縁談を承諾する理由っていうのにも呆れる。そんな、弁護のしようもないクズ男なのに、何なの?あの、こぼれ落ちるヒンヤリとした色気💓 そして、それでもお岩のこと好きというのが心の隅っこに残っているように見えるのは、仁左さまへの贔屓目でしょうか? 伊藤家からお梅を嫁にと言われたとき、最初はたじろいで断るのはお岩への情がまだあったから……と思いたい。

 仁左さまと隼人のシーンはある意味、眼福。隼人はいつか伊右衛門を演る日のために仁左さまからしっかり吸収してね。松之助の宅悦は作り込み感がなくて自然、伊藤喜兵衛の橘三郎は腹黒さが絶妙で、乳母の歌女之丞がとっても良かったな。

 

 最後は伊右衛門の受難。死んだお岩が化けて出たと思いその首を斬り落とすとそれは内祝言に来たお梅だし、殺した小平が化けて出たと思ってこれも斬り殺すとそれは伊藤喜兵衛だし。伊右衛門が逃げようとすると、上手に青緑の鬼火(お岩の怨霊)がヒョロロロロ……と浮かんで出る😱 お岩さんの怨念に引っ張られる伊右衛門が、それを断ち切ろうと刀を手にしているところで幕でした。隠亡堀での戸板返しがないのは確かに残念だったけど、これはこれで絵面として美しい幕切れだったな。

 

「神田祭」

仁左衛門/玉三郎

 ああ、なんという多幸感✨ お二人が頬を寄せたり手を取ったりするたびに、客席から「わぁぁぁ……」「ほぉ……」って感じのジワが来る。玉さまが仁左さまのほっぺを指でチョンとつつくところなんか、観ているこちらが照れ臭くなるほどの「2人の世界」でした💞 私も口元が緩みっぱなし、ずっと口角上げて観ているの分かってたけど、どうしてもそうなってしまうのね😊

 

 浅葱幕が落ちると、仁左さま鳶頭、若い者2人を相手にちょと喧嘩します。ほろ酔いの柔らかな動きにうっとりしていると、花道から玉さま芸者が。あでやか&しなやか&美しい。七三で顔を上方に向けた時に客席からため息が溢れましたね。

 玉さまが本舞台に移ると、いよいよ2人のイチャイチャが始まります。清元が入っているとはいえ、2人にセリフはないのに目と所作で語っている、そのセリフがしっかり伝わってきます。ちょっとツレない仁左さまに甘えかかる玉さまは、粋と艶との塩梅が絶妙でまさに色香こぼれるふう。そんな芸者の心配をよそに、キリッとした所作でいい男っぷりを見せつける鳶頭。 仁左さまの流し目は、もはや甘い凶器だわ😍 若い者たちをあしらう所作も鯔背な感じ(ここでの皆さんのトンボがまたいちいち美しく決まってねー👏)。私は「親分さんのお世話にて……」のところがとても好きです。仁左さまが親分にお許しを乞うている時のパキパキとした動きからの「……人さんの前はばからず引き寄せて」で玉さまをそっと引き寄せるところね。

 

 最後、花道でもたっぷり見せてくれて、ありがとうです。玉さまが仁左さまの着物の汚れをはらったあと、仁左さまが玉さまの帯の崩れをキュッと直すところがまた素敵。そのあと2人が互いを「うん、綺麗だよ」って感じで見つめ合うところ、もうニヤニヤ笑って見ているしかありませんでした😆 こういう仁左玉による特別公演、これからもあるといいなあ。

 

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