脚本 ジョン・ローガン
演出 アレックス・ティンバーズ
平原綾香/井上芳雄/伊礼彼方/橋本さとし/上川一哉/中井智彦/加賀楓
バズ・ラーマン監督の同名映画は観ました。鮮やかな映像、ゴージャスなセット、演劇的な手法、すごく好きだった。ミュージカル版は、お話の大枠は映画版とほぼ同じだけど、登場人物のキャラ造形や関係性を少し変えてありました。
ネタバレあらすじ(長くなってしまった)→1899年パリ、経営難にあるナイトクラブ “ムーラン・ルージュ” の経営者ジドラー(橋本さとし)は資金援助を請うため貴族のモンロス公爵(伊礼彼方)にパトロンになってもらいたい。それには公爵が気に入る新作ミュージカルを創る必要がある。画家トゥールーズ=ロートレック(上川一哉)とダンサーサンティアゴ(中井智彦)はそれを制作しようとしている。
脚本に行き詰まっていた2人は、愛とボヘミアンな生き方を求めてアメリカからやって来た作家志望の青年クリスチャン(井上芳雄:以下クリス)と出会う。とりあえずお金が欲しいクリスは脚本家として参加することに。クリスが作った曲を、クラブの花形スターサティーン(平原綾香)が気に入ればジドラーに推してくれるはず、ということで彼らはムーラン・ルージュに出向く。
一方、公爵は前々からサティーンに目をつけていて、資金援助を約束する見返りに彼女とのお膳立てをジドラーに頼んでいた。しかしサティーンは公爵より先にクリスと出会い、2人はたちまち恋に落ちる。その後に公爵を紹介されたサティーンはクラブと仲間たちを救うために公爵の情婦になることを受け入れ、クリスとは隠れて逢引きを重ねる。
クリスが書いた新作ミュージカルは「女&その恋人の船乗り&女に横恋慕するギャング」という、サティーン&クリス&公爵の三角関係をそのまま重ねた物語だった(クリスがなぜか船乗り役を演じることになっていて、彼は役者ではないはずなので、このへんよくわからない🙄)。やがて公爵はサティーンとクリスの関係を知り、別れなければ彼を殺すとサティーンを脅す。クリスを守るため彼女はクリスに愛想尽かしをする。
2人の仲がこじれた状態でミュージカルは初日を迎え、その劇中劇で2人は、役としての女と船乗りではなくサティーンとクリス本人になっていく。サティーンはクリスへの真の愛を歌い上げるが、直後、患っていた結核の悪化で崩れ落ち、クリスの腕の中で息を引き取る。悲しみの中でクリスは自分たちの愛の物語を書くことを決意する。終わり。
すごく面白かった~、楽しかったです~🎊(←語彙放棄🙇♀️)。劇中劇で役を演じているサティーンとクリスが、終盤になると現実の2人との境目がなくなり、最後は劇中劇が現実の2人のドラマになっている、その変換の鮮やかさがとっても気に入りました。そしてこれは、底辺にある労働者VS有閑階級、搾取される者たちが搾取する者に立ち向かう話でもあるんですね。公爵は最初は新作ミュージカルのみに資金を出すつもりだったけど、サティーンの魅力に溺れ、彼女を自分の所有物として独占する代わりにクラブの経営権そのものを買い取ることにする。そして、クラブのスタッフが彼に反抗すると「君たちは私のモノだっ!」と冷たく言い放つのね。コワ……💦
平原綾香さんのサティーンは、いかにもどん底から這い上がってきたような(ジドラーたちは、自分たちのクラブ “ムーラン・ルージュ” を持つ前は路上でショーを見せて日銭を稼ぐ生活だった。再びそれに戻りたくないから公爵の援助はどうしても欲しいわけね)精神力や生活力の強さを感じさせ、コケティッシュだけど同時に、どことなく薄幸そうな翳りも見え隠れする女性だった。歌のパワーも心情を表現する演技も申し分なく、悲劇のヒロインを演じきっていたと思う🎉 公爵の好みでマイフェアレディ風に変身した姿はゴォォォジャァァァスでした❗️
芳雄くんはクリスチャンそのもの、二十代の青年がそこにいた‼️ ナイーヴで怖いもの知らずで恋に夢中になりハッピーエンドを信じているロマンティスト。芳雄くんは自然体で演じていた。サティーンに裏切られた(と思い込み)容赦ない現実を知って一つ大人になってからは芯の強さを感じました。そしていつも思うことだけど歌が上手い(←何を今さら😅)。歌詞=言葉の一つ一つに気持ちを乗せることの巧みさ、それらを伸びと張りのある声でメロディーに乗せ歌い上げる時に溢れ出る感情のほとばしり、歌っているんだけど、喋っている囁いている訴えている叫んでいる泣いている。やっぱり格別のミュージカル俳優ですねー🎊
そして公爵の伊礼くんがやばかった~😎 労働者をモノ扱いする最低な貴族だけど、悪役がカッコ良いと物語が面白くなりますよね。サティーンを自分の人形にしたつもりだけど本当は愛してしまっているのかも…と思わせる、ちょっとボンボンな面も見えたりしたし。また、どんなに残酷な言動を見せても悠々とした佇まいは崩さず、上流階級としてのノーブルな雰囲気を失っていない。アンサンブルと歌うロック調の歌(ストーンズのだったかな?)がクールでした。
さとしさんのジドラーがまた魅力的。即物的で日和見主義的で、したたか者、且つ、お調子者風の可愛さを帯びているところがさとしさんでした。「皆さんも “ムーラン・ルージュ” のお客ですよ!」と私たち観客を煽る仕草もさすがなもので、さとしさんの濃~い笑顔に私たちは一瞬でその気に(クラブのお客に)なるのでした。また、アンサンブルのセクシーで強烈なパフォーマンス(歌とダンス)も素晴らしかったです。まさに退廃的なナイトクラブの住人。彼らにも心の底から拍手を送ります。
舞台美術がすごい=帝国劇場がナイトクラブ “ムーラン・ルージュ” にサマ変わり!とさんざんインプットされたせいか、実際に劇場に入るとそれほどでもなかった😬 もっとすごいもの(客席やロビーも “ムーラン・ルージュ” 化しているとか)を期待していました。
既存のヒット曲を織り交ぜてあるので音楽は耳に馴染み良く、特に「Never Gonna Give You Up」「スウィート・ドリームス」「ロクサーヌ」など80年代ブリットポップスがちらちらと歌われると、懐かしすぎて密かに嬉し泣きしていましたよ。訳詩で気になった点がひとつ。サティーンとクリスとのデュエットで同じ歌詞でハモるとき2人とも「君」「僕」って歌っていたように思うけど、そこはサティーンは「あなた」「わたし」と言ってほしかった。
プログラムと、前方席ゆえの戦利品(フィナーレで紙吹雪+スポンジボールが放たれる)