東京バレエ団「ジゼル」東京文化会館 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付 レオニード・ラヴロフスキー

音楽 アドルフ・アダン

中島映理子/柄本弾/鳥海創/伝田陽美

 

 20日(土曜)の回を観てまいりました。この日しか行ける日がなかったのですが、中島映理子さんのロールデビューを目撃することに。見事でした~🎊

 中島さんのジゼル可憐、純粋、控えめ、儚げ、やがて強さと包容力、という言葉が似合うキャラ造形で、特に2幕では、ウィリとして、愛するアルブレヒトを守ろうとすることで自身も成長する(ウィリに成長とかあるのか?🙄)、そんな感じだった。中島さん自身が1幕→2幕と踊ることで次第に余裕が生まれダンスも伸びやかになっていくのと重なる……そこまで思ってしまいました。

 家の扉を叩く音に誘われて、あの人かしら?と登場した中島ジゼルの表情から、アルブレヒトは現実の男性ではなく心に描いてきた理想の王子さま……という、どこか夢見がちに彼を探しているように思えた。そのアルブレヒトが目の前に現れるとちょっと悲しそうにうつむき気味になったような。それは「この人は自分にはもったいない、自分のような村娘はこの人とは釣り合わない、無理無理……😔」という、諦めの感情が見えました。それが、いつものように彼と踊ったり語ったりするうちに再び希望が湧いてきて心を開き、この幸福はずっと続くかもという希望が芽生える、だからバチルドにも「私には誓い合った想い人がいます」堂々と宣言できた。そこから、真実が分かり心を壊して自分を失っていく過程はとても自然でした(オーバーアクションなし👍)。前半で踊ったダンスを繰り返す時の、壊れた人形のような乱れたステップに胸が痛んだ😢

 2幕は演劇性が薄い幕ゆえ、ダンスだけでウィリ・ジゼルの思いを表現しなければならないのでダンスの難易度高いですよね。中島ウィリは、最初は墓を訪れたアルブレヒトに愛情を注ぐだけだったけど、次第に彼を守ろうという強さが出ていく、そんな変化を感じました。でも、アルブレヒトへの慈愛のようなものがもう少し出るといいなあとも思い、その意味でダンスでの内面表現はまだ弱かったかな。でも、たおやかさや静謐さ、リフトされた時の空気感はよく出ていて、美しいダンスでした。

 

 柄本弾さんのアルブレヒトはしっかりノーブルで、テクニック的にも安心して見ていられる。私が思う限りでは柄本アルブレヒトって、本当にジゼルを好きだけど、先のことまでは考えていない、ま、いずれは別れなければな……と思っていそう。いかにもな貴族のボンボンでした😅 身分がバレてジゼルが心を失うところでアルブレヒトは為す術もなくボーッと立っている(ようにしか見えない💦)のも、弾さんだと何か納得してしまったりね😅 で、これは他のヴァージョンでも思うことですが、ジゼルが命を落としたあとヒラリオンに「何てことしたんだ!」と剣を掴んでくってかかるの、ほんとクズ😠 お前のせいだろうって思うし、あそこだけ見るとアルブレヒトにまったく寄り添えない。違う演出にしてもいいんじゃないかと思ってしまいます。

 そういえばこのヴァージョンでは、アルブレヒトはウィルフリードに促されてその場から逃げ去るのではなく、ジゼルの亡骸を抱えて幕となるんですね。これは2幕に続くうえで良い演出だと思います。2幕での、悔恨と失ったものの大きさに打ちひしがれる姿が生きる。弾さんの柔らかな踊りは健在で、安定のサポートとリードは中島さんも心強かったのでは? そういえば最後のダンスのところで、弾さんはアントルシャではなく連続ブリゼなんですね。

 

 鳥海創さんのヒラリオンがとても良かった。上手から獲物を手に登場するとき心持ち身体を左右に揺らす感じで歩いてきた。いかにも粗野な男というのが一瞬でわかり、優雅な物腰のアルブレヒトとの対称性を明確にします。アルブレヒトがバチルドの手にキスをしたときに「ほら、あんな男なんだぜ」とジゼルに見るように強いるところも、ジゼルの気持ちを思う繊細さのない男だと思わせます。ヒラリオン役のダンサーによっては「ジゼルよ、ヒラリオンの方が誠実そうでいいんじゃない?」と思うことが時々あるんだけど、この鳥海ヒラリオンはジゼルとは釣り合わないと思ったよ😅 とてもいい演劇的表現でした。でも、このヴァージョンでは、ヒラリオンは収穫のダンスのところで村人たちと一緒に踊るんですね。決して皆から孤立している青年ではないところが、ホッとしたり、ウィリたちの餌食になるところが悲しかったり。ミルタに懇願しながら息絶え絶えに踊るところは、鳥海さん迫真のダンスでした。

 

 他にもこの版の特徴的なところはいくつかあって、ペザントのPDDがパ・ド・ユイット(4組のペアの踊り)になっていて、キャストが結構贅沢だったこともあり(長谷川琴音・池本祥真/髙浦由美子・岡﨑司/中沢恵理子・生方隆之介/加藤くるみ・大塚卓)たいへん見応えがありました。特に男性軍のダンスがお見事。また、ジゼルが心を壊してから命を落としてしまうまでの間、村人たちが不安になったり恐れたり悲しんだりというのをちゃんと表していて、舞台全体が動揺しているようなざわつき感があるのも良かった。

 ミルタの伝田陽美さん、登場した時のエアリー感が素晴らしい。終始クールで非情でシャープ、気高さもあり、そしてどこか悲しみも抱えた、完璧なウィリの女王でした🎉 ウィリたちのダンスはいうまでもなく素晴らしいし、集団でありながら一人一人の現世での悲しい過去を背負っている感もあり、定評を覆しません。いつものことですが、アラベスクでの移動では感動して思わずうるうる来ました。

 良い公演でした。この版の「ジゼル」を携えて初のオーストラリア公演をするそうですが(ホールバーグからリクエストがあったのだと)、ぜひ成功させてほしいです。

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ バレエへ
にほんブログ村


バレエランキング

明日もシアター日和 - にほんブログ村