新国立劇場バレエ「シェイクスピア・ダブルビル」@オペラハウス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

「マクベス」

振付 ウィル・タケット

音楽 ジェラルディン・ミュシャ(編曲 マーティン・イェイツ)

奥村康祐/小野絢子/井澤駿/中島駿野/渡邊与布/原田舞子/赤井綾乃/根岸祐衣

 ウィル・タケット氏はバレエだけでなく演劇やオペラ、ミュージカル、映画など多方面で演出や振付を手掛けているそうで、私は日本では「兵士の物語」「良い子はみんなご褒美がもらえる」「ピサロ」を観ています(覚えている限りでは)。「兵士の物語」は演劇とダンスがミックスしたもので、アダム・クーパー、ラウラ・モレーラ、アレックス・キャンベルなどダンサーが演じたけど限りなく演劇に近かった(セリフも喋る!)し、他の2作は普通に演劇です。どれも面白かった。この “演劇性” というのがタケット氏の味なんですね。

 

 本作は世界初演ということなので、まず作品について思ったことから。で、やはり割と演劇味が濃かったし、物語のプロットを大急ぎでなぞっている感が強かったです。タケット氏は「……マクベス夫婦の関係性を深く掘り下げる」と言っているので、それぞれの心理描写や2人の愛の形の変化などをもっと “ダンスで” じっくり見せてほしかったな。1時間の小品だからなおさら、筋を分からせることより、象徴性や抽象性などによって作品のイメージを前面に表現してほしかった。 

 要は、バレエだからこそ見せられる表現が少なめということで、例えば、マクベスがバンクォーの亡霊に怯えるところね、そこ、奥村くんと井澤くんの濃っ厚なデュエットで見せて❗️と思った。マクベスが夫人の亡骸を抱いて嘆きの踊りを見せるところは(マクミランのよりは控えめながら)ネクロフィリア風なのではなく、野望など持たない幸せだった時を思い出したマクベスが幻想の中で美しい妻とPDDを踊るとかね。そもそも夫人が心を失っていく理由・過程もタケット氏の解釈による踊りで見せてほしいな…と思ったわけです。

 また、作品を象徴する魔女の扱いが物語の中でほとんど意味をなさないほどあっさりしていたのが残念(原作通り登場2回だけ)😔 全編通して事あるごとに背後とかに現れ踊っても良かったのでは? メインの3人の魔女のほかに6人がその精霊みたいな感じで出てくるのは面白いんだけど、その存在感が薄かったのもったいなかったです。

 

 奥村くんと絢子さんは役柄に完全に合っていました🎉 前半のPDDはとても美しかったです。奥村くんの持つソフトな雰囲気は、権力への野心などない純粋に有能な戦士であり、一方で、魔女の予言に左右されたり強気な妻に押されるまま(それで愛する妻が喜ぶならと)悪に手を染めてしまったりという弱さが(良い意味で!)感じられる。そして、いったん手を血に染めてしまってから転落し自滅していく過程の心情変化、演技がとてもうまかったです。

 絢子さんの蠱惑的なマクベス夫人は期待通りで、愛しているがゆえに夫をトップに押し上げたいという黒い野望が鮮やかに見えた。そして心を壊してからの狂気の表現、焦点の合わない眼差しなど、むしろ美しい✨ その役に没入した表現が見事でした。

 バンクォーの井澤くんも存在感がありとても良かったです。冒頭で魔女たちが踊るので、最後も魔女が出てきて締めるかと思いきや、血に染まったマクベスの首が持ち込まれ、マルカムがマクダフの手で王に叙されるところに後方からマクベスと夫人の亡霊?が現れて終わる。あの魔女たちはなんだったんだ〜😓という感想がやっぱり残りました。

 衣装は色使いがよく考えられていました。男性衣装がスカート風なのはキルトからの連想かな(「マクベス」はスコットランドのお話)。セットはミニマムで抽象性があり、可動式のスクリーンやテーブルが見立て風に効果的に使われていて、こういうのは好きです。

 

 

「夏の夜の夢」

振付 フレデリック・アシュトン

音楽 フェリックス・メンデルスゾーン(編曲 ジョン・ランチベリー)

池田理沙子/速水渉悟/石山蓮/福田圭吾/中島春菜/益田裕子/小川尚宏/小柴富久修

 シェイクスピア作品のダブルビル、その2作が性格の全く異なる作品という構成はとても良かったと思う。アシュトン版はよく上演されるから作品内容については今さらですが「マクベス」との対比でちょっと思ったことを書くと、原作(戯曲)にある、シーシアスとヒポリタが出てくるアテネの宮殿のシーンも、職人たちが森で芝居の稽古をするところも(なんなら彼らが最後に披露する御前芝居も)カットされている。なので、若者や職人がなぜ妖精たちの住む森に来たのか説明されていない。でも、それでいいんですよね。よく知られている話だからというのもあるけど、本作で見せたいのは妖精の王と王女の痴話喧嘩の顛末であり、それに人間が巻き込まれるドタバタ騒動。そして最初と最後に妖精たちが舞い踊ってお話の輪が閉じる。1時間の作品なら、これくらい思い切ったカットとフォーカスオンをしたほうが、自分としては好みだなと思いました。

 

 速水くんはオーベロンに相応しい堂々たる押し出しと強いテクニックがあり、その意味では妖精の王という役にぴったり。ソロでは空間を支配する存在感があり、ダイナミックなマネージュなど、ダンスでも魅せてくれました✨ 演技部分では威圧感というかキング然とした偉そうな雰囲気をもっと出してもいいよと思ったけど。媚薬をつける相手を間違ったパックを大袈裟に叱ってもいいし、ティターニアに対してもっと強引に出てもいいし(お話だからね)、そうすると最後に妻への愛を持って仲直りするところがもっと印象づけられるかも。

 理沙子さんのティターニアはまずとてもチャーミング、そして自由でちょっとわがままな感じもあって良かったです☺️ 演劇的表現(感情の見せ方とか)がやはりまだフラットなのが気になる、例えばロバ頭のボトムにメロッメロになってしまうところなんか、もっと色っぽさがほしかったし、喧嘩するけどオベロンがすごく好きという見せ方とかも……ね。

 石山蓮さんのパック、ゴムまりのようによ~く弾んで飛んで、それでもラインが崩れない。動物っぽさとイタズラ小僧っぽさがいい具合にブレンドされた妖精だった。ボトムの福田圭吾さんポワント技goodだし、被り物してるのに、有頂天❗️とか戸惑い💦とか感情が伝わってくるのさすがでした。

 

 今回のプログラム、1回しか観られないのですが、絢子さん&奥村くん、速水くん&理沙子さんという、個人的にとても観たかったペアが組み合わされていて、とっても幸せでした。「マクベス」は作品について思うところ色々アリですが、こういうダブルビルはまた観たいなと思います👏

 

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