「ブレイキング・ザ・コード」@シアタートラム | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ヒュー・ホワイトモア

演出 稲葉賀恵

亀田佳明/水田航生/田中亨/保坂知寿/岡本玲/加藤敬二/堀部圭亮/中村まこと

 

 ベネさん(カンバーバッチね💦)主演の映画「イミテーション・ゲーム」で描かれたアラン・チューリングの話だけど、映画で主筋になっていた暗号解読の過程は、ここではメインテーマではありません。同性愛者でもあったアランの生きザマを綴ると同時に、肉体/物体(機械=コンピューター)に対して、知性とは?思考とは?心とは?を問い続ける作品でした。圧倒されるほど良かった🎊🎊

 タイトルには「暗号の解読」と「規範に違反する」の意味が。暗号を読み解く仕事も、(男性同士の性行為は犯罪だった当時のイギリスにおいて)法律を犯す生き方も、アランにとっては自らの信念を曲げずに貫き通すという曇りのない行為だったんですね。

 

 ネタバレあらすじ(芝居は時代を行き来しながら展開しますが、ここでは時系列に書きます)→1920年代後半、パブリックスクール時代の青年アラン(亀田佳明)が自宅に学友クリス(田中亨)を招き母(保坂知寿)に紹介する。この頃すでにアランは数学への天才的才能を開花させており、またクリスに恋心を抱いている(クリスは1930年に結核で死去😭)。1939年、アランは暗号解読組織に参加し、組織の責任者ノックス(加藤敬二)のもと、同僚の女性パット(岡本玲)らと共にナチスドイツの暗号 “エニグマ” の解読に成功。

 終戦後はマンチェスター大学の研究員になる。1952年、パブで知り合った若者ロン(水田航生)と肉体関係を持つ。数週間後、家に泥棒が入り警察に報告。刑事ミック(堀部圭亮)による捜査上の質問に答える過程で、自分は同性愛者だと言わざるを得なくなる。アランは母にも告白、母はショックを受けながらも息子への愛を伝える。有罪となったアランは、男性への性欲を抑えるとされていた薬物療法を受けるが、上層部?のジョン・スミス(中村まこと)はアランを執拗に糾弾する。1954年のある日、アランは青酸に浸した林檎をかじり、死亡。41歳。おわり。

 

 なぜ林檎?というと、映画「白雪姫」を観たアランがノックスに、継母が白雪姫に毒林檎を渡すことについて話すシーンが伏線になっています。これは史実らしい。

 アランはコンピューターの研究開発を独自に行ってチューリングマシンという計算機械を考案したり、プログラム内蔵式コンピューターのデザインを発表したりと、現代のコンピューター社会の礎を築いたとも言える人らしいです。その彼が追求し続けたのは「機械は知性や思考を持ちうるか?」「機械は考えることができるのか?」ということ。それが可能だと信じた彼は、人間の心を模倣できる機械を作りたかった。

 私は最初、彼のこの研究と、彼が同性愛者であることを別々に捉えていたんだけど、突然、それは繋がっているのだと思い始めました。そして、本作は彼の職業的功績の話というより、初恋の相手クリスへの尽きせぬ愛の話ではないか、彼の研究を推し進める根っこにはクリスへの想いがあったのではないかと、2つが結びついたのです。

 なぜなら、彼の上記の問いかけは彼の中で「身体はなくても、生きている人間でなくても、心は存在するのか?」という問いに繋がっていくから。彼は中盤ではっきりと自問しています「クリスの心は、体がなくても存在するのか?」と。

 

 アランの死は検死によって自殺と断定された。でも私は、青酸に漬けた林檎を食べた行為は客観的に見れば「自殺」だけど、彼としてはそれは実験の一部だったんじゃないかと思う。アランはクリスが死んだ後もクリスの心は残っていると信じたかった。そして彼と交わりたかった。だから、“人は死んで肉体が滅びても心は残る” という持論を実証するために自分を人体実験台にしたのでは? 自分が死んだら自分の心はどうなるのか知りたくて。死んでクリスの心と出会いたい、彼と永遠に一緒にいたい、という想いがそうさせたのだとしたら、本作は究極の愛の話です。アランの気持ちを思うと切ない🥹

 序盤でアランの家を訪れたクリスは被っていたボーターハットをコートラックに掛けます。そのクリスの帽子は、シーンが変わっても最後までずっとそこに掛かっているんですよね。最後、アランは手にした林檎をその帽子の横に並べるように掲げます。もうすぐ君と会えるよ……と呼びかけているようだったな😢

 もちろん現実的に考えれば、薬物療法による心身への副作用などもあり、このまま生きていくことに絶望し終わりにしたかったゆえの自殺かもしれない。いずれにしても、彼は死ぬことで身体と心を解き放ったのでしょう。

 

 アラン・チューリングを演じた亀田佳明さんが素晴らしい🎉 ほとんど出突っ張りで喋り通す。アランはASDの傾向があったそうで、その感じをごく自然に出していたし、天才肌らしい個性的な行動(例えばクリスと母が話しているとき歩幅で長さを図るように部屋を歩いたり)を見せるところも上手い。数学理論をを滔々とまくし立てる時の陶酔した幸福そうな表情に息を飲みました。何らかの賞をもらうに相応しい演技だと思います👏

 

 脇を固める役者さんたちも適材適所👍 組織の責任者ノックス役の加藤敬二さん、自身もバイという秘密を抱えていたわけで、渋くて人間味があって、その塩梅が良かったなあ。「人は理解できないことを聞かされると恐怖を覚える。正直に生きることが人を苦しめることもある」とアランに処世術を教えるんですよね。水田航生くん演じるロンは、やはり同性愛行為で有罪になるも都合の良い供述をして条件付き釈放になるという奴なんだけど、時々見せる寂しげな翳りに彼自身が抱える闇を感じました。クリスとニコス2役を演じた田中亨くん、アランに愛される全く別の2人だけど途中から2人が混ざる感じにハッとしました。刑事ミックの堀部圭亮さんは真面目に職務をこなしてるんだけど、どこかアランに同情しているようなところが感じられました。そしてジョン・スミスを演じた中村まことさん、ありふれた名前からして、同性愛者を憎悪し絶対に許さないという当時の世間一般人を代表しているわけですね。そのいやらしさがネチネチ伝わってきて、ホントにもうっ😆 

 そして、女性に高等教育は必要ない、知的な仕事は向かない、とされた時代に生きた女性たち母親役の保坂知寿さんは息子を絶対的に愛した頼もしい母親像を力強いセリフで見せてくれました。同僚パットの岡本玲さんはキリッとした聡明な雰囲気。結婚して仕事を辞めたけどアランが数学の話を始めると目が輝きだすところ、ジワッときましたよ。良い座組による良い舞台だったです。

 

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