牧阿佐美バレヱ団「ノートルダム・ド・パリ」@東京文化会館 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付・台本 ローラン・プティ

音楽 モーリス・ジャール

衣装 イヴ・サン=ローラン

原作 ヴィクトル・ユーゴー

青山季可/菊地研/水井駿介/アルマン・ウラーゾフ

 

 ステファン・ビュリオンが6月4日にマッツ・エクの「Another Place」でパリ・オペラ座を引退、その直後に来日して、日本では最初で最後のカジモドを踊る、というのが本公演の目玉……なのですが、私はステファンに特別な思い入れはないことと💦 ステファンが出演しない回はお値段安めということもあり😅 こちらの回を観ました。もともとプティのこの作品がすごく好きなので、作品として観たいというのが第一。

 以前にTVで、カジモド=ステファン、エスメラルダ=アマンディーヌ、フロロ=マチアス、フェビュス=フロリアンの舞台を放映しましたが、個人的には、手元にあるディスク、エスメラルダ=イザベル・ゲラン、カジモド=ニコラ・ル・リッシュ、フロロ=ローラン・イレール、フェビュス=マニュエル・ルグリという黄金キャストによる1996年の公演がデフォルトになっています。何といってもイレールのフロロが、もう、ね……😍

 

 今回久しぶりに観て、この作品良い!と再確認しました。台本、振付、音楽、衣装などが好みの世界。そして牧阿佐美バレヱ団員によるダンスも良かった。海外からのゲストダンサーがいなくても存分に楽しめました。あー……フェビュス役に国立アスタナ・オペラ・バレエ団からダンサーを呼んでいましたが、彼については多くは語るまい……。わざわざ招いた意味があったのか、牧阿佐美バレヱ団にも踊れる人がいるのでは?とだけ書いておこう😑

 プティの台本では、エスメラルダが自分を冤罪による死刑から救ったカジモドと心を通わせるという、2人が慈愛や献身といったキリスト教的な愛で一瞬だけ結ばれるシーンが真ん中にあり、そこからの悲劇がドラマになるところがシンプルでよくできている。

 

 何といってもフロロの水井駿介さんが不気味で邪悪で素晴らしかったです🎉 フロロはハッキリしたキャラで造形しやすいというのはあるけど、水井さんは、フロロの人格や内面を的確に表現できるダンステクニックがあった。キレのあるシャープな身体の動き、空間を切り裂くような回転やジャンプ、鋭い足捌き、じっと佇む姿のヌメッとした空気感、その動と静のメリハリが効いている。フロロのもつ権威者(司教代理)としての傲慢さや冷酷さ、エスメラルダに対する情欲と妄想と執着、自分を引き裂く嫉妬や葛藤や自制心といった複雑な感情を見事に表現していました。エスメラルダとフェビュスの逢瀬をジーッと盗み見て嫉妬に狂い、抱こうとしてエスメラルダから拒絶され絶望するところが怖かった。

 

 カジモドの菊地研さんは踊り慣れていることもあり、自分なりのカジモド像ができ上がっている感じ。体の歪みや異質さをあまり強調していない(ように見えた)ぶん、内面の純粋性が透けて見えるようだった。個人的には、歪んだ身体は生まれた時から背負っている悲劇的な運命の象徴でもあると思うので、清らかな内面との対比ということでは、外面の醜さをもっと出してもいいと思ったけど。2幕最初で踊られるカジモドとエスメラルダのPDDが美しい。一瞬、体が正常になったような気になるカジモドが切なかったりします😢

 エスメラルダの青山季可さんは、少しキャラ造形が曖昧に感じました。男たちに翻弄される、か弱き女性なのか、意思をしっかり持った女性が悲劇に巻き込まれたのか(プティが描きたいのはこちらだと思うけど)、純粋なのか欲があるのか、可憐なのか勝気なのか、そのあたりの印象が薄かったような。ダンスは申し分ないんだけど、やはりもう少し妖艶でもよかったかも、プティが好んだ美脚見せびらかしとかね。

 

 そして群舞が冒頭から魅せるのですよー🎊 民衆、ロマの民、物乞いや小悪党たち、歩兵隊、娼婦たちなど、シーンごとに登場する彼らのダンスと衣装がとても良い。振り付けもユニークだし(兵隊のロボットのような動きとかね)、特に塊としての動きやフォーメーションが面白いです。彼らの動きはその場の雰囲気や人々の意思や感情を的確に表していて、それ事態が言葉を発していて、物語を動かしているのはメインの4人ではなく彼らのように思える時も。それを完璧に踊ってみせるダンサーたちに釘付けだった。

 

 1965年の作品ですが、サン=ローランの衣装がすごくかっこいい。様式化したデザインやその色使いが作品の世界を視覚化しています。例えば冒頭の群舞、少し燻み掛かったビビッドな色(←矛盾した表現?)の衣装をダンサーごとに異なる配色で着ていて、それがさまざまな顔を持つ民衆を想像させるし、歩兵隊の幾何学的なデザインは彼らの個性のない四角四面の特質を表している。フロロの黒づくめの衣装はevilさを強調していて、聖職者というより悪魔だった。打楽器の音色が印象的なモーリス・ジャールの音楽も良いです。ドラムのリズムが緊張感を高める効果を生み、フロロやカジモドの脳裏で鳴り響いている音のようだったりと、いろいろ意味が聞き取れました。

 とても満足のいく公演でした👏 日本人キャストで1回しか踊らないのはもったいない。次回はもう外国人ゲストを呼ばなくてもいいんじゃないかと思います。

 

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