ミュージカル「ブラッド・ブラザーズ」@東京国際フォーラム ホールC | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

脚本・作詞・作曲 ウィリー・ラッセル

演出 吉田鋼太郎

柿澤勇人/ウエンツ瑛士/堀内敬子/一路真輝/木南晴夏/内田朝陽/鈴木壮麻/伊礼彼方

 

 これ、1991年の日本初演より前にロンドンで観ていて、何故かあまり刺さらなかったんですよね。なので日本で何度か上演されても触手が動かなかったんだけど、今回はちょっと懐かしくなって観てきました。で、やっぱり、特に好きな作品ではなかったけど💦(何故だろう🙄)、役者さんたちは素晴らしく演出も手堅くて、その意味で楽しめました。

 

 ネタバレあらすじ→1960年代のリヴァプール。貧しい暮らしのジョンストン夫人(堀内敬子)は子沢山のうえに、さらに双子を出産、夫は蒸発。夫人は裕福なライオンズ家の家政婦をしていて、不妊で悩むライオンズ夫人(一路真輝)に双子の1人を欲しいと言われ、これ以上子どもは育てられないため承諾する。ジョンストン夫人に残された子どもはミッキー(柿澤勇人)、ライオンズ夫人がもらった子どもはエドワード(ウエンツ瑛士)。自分に双子の兄弟がいるとは知らされずに、2人は異なる階級の世界で育つが、運命に導かれて出会い意気投合。リンダ(木南晴夏)も遊び仲間に加わり、共に青春を過ごす。高校卒業後ミッキーは工場で働き、リンダと結婚。しかし不況のため解雇され、お金のために兄サミー(内田朝陽)の悪事に加担して刑務所へ。出所した時にはうつ病を患い、仕事もままならない。一方、エドワードは大学に進み、地元の議員になっていた。リンダは夫ミッキーのことをエドワードに相談するが、そこをミッキーが目撃。最後の心の拠り所リンダをエドワードに奪われたと誤解したミッキーは絶望し、銃で彼を撃ち殺す。その直後ミッキーも警官に射殺される。終わり。

 

 数奇な運命の双子の物語ではあるけど、個人的には、当時のイギリスの階級社会が生み出す社会的格差、貧困層の置かれた差別的状況などを突きつける作品として観ました。作者がいちばん訴えたかったのもそれだと思う。

 終盤、ミッキーがエドワードを銃で狙う現場に現れたジョンストン夫人は「あなたたちは兄弟なのよ!」と真実を告げる。それを聞いたミッキーは母に「なんで俺を手放してくれなかったんだ❗️」そうしてくれていたら俺の方がリッチで幸せな人生を送れたのに‼️と、母親が一番聞きたくなかった残酷な言葉を吐き出します😖  このシーンはとても象徴的。ミッキーの言動の裏にあるのは、裕福な家に引き取られたエドワードへの嫉妬だけど、その根っこには、出口の見えない貧困の中で生きてきた閉塞感、頑張っても越えられない格差社会の壁という社会問題があるんですよね。

 

 ナレーターという役名の男(伊礼彼方)が狂言回し的に頻繁に登場し、人の動きをじっと見つめたり状況を語ったり物語の転換に絡んだりする。演じた伊礼さんが「トートとルキーニを足して2で割ったような存在」と言っていて、まさにその通りなんだけど、黒ずくめの姿は不吉な空気を纏っていて、それはもう悪魔でした💀

 私は最初、このナレーターは双子を不幸の運命に導く存在と思っていたけど、そうではなくて、ジョンストン夫人の心に巣食う闇、夫人の運命を操るモノのようだった。そうであれば、彼がマントを広げて包み込むのが、ほかの誰でもないジョンストン夫人なのも納得です。夫人が中絶しなかったり不幸を呼ぶ迷信に囚われたりすることからカトリック信者だとすれば、悪魔の存在を信じていても不思議ではない。双子の一方を人に預けようと決めたその瞬間に、罪悪感の化身として悪魔=ナレーターが心理的に現れたのかも。

 

 ミッキーを演じた柿澤勇人くん、歌もセリフも動きも素晴らしい🎊  7歳から20代前半まで、やんちゃな子ども時代、恋に奥手な思春期、職と家庭を得て輝く青年時代、失業してすさみ、情緒不安定になって心が壊れた終盤、どの柿澤ミッキーもその時をリアルに生きていたなあ。最後の、自分をライオンズ家に渡してくれなかった母にぶつけるセリフは、心の奥底から絞り出した本物の叫びでした。

 ウエンツ瑛士くんのエドワードは役作りが必要ないほどいいとこの坊ちゃんがサマになっていました。ミッキーに誘われてちょっといけない領域に足を踏み入れるときの、ビクビクしながらも好奇心に満ちた表情が可愛かったし、彼に冷たくされたときの戸惑いや寂しげな表情は痛々しかった。

 ジョンストン夫人の堀内敬子さんは盤石な歌と演技で物語をグイグイ引っ張っていく。子どもへの溢れる慈愛と現実を生きるたくましさ、時々見せる悲しみや不安、弱さなど、どのシーンでも繊細かつ説得力のある演技だった🎉

 一路真輝さんさんのライオンズ夫人、子どもを欲する強い執着心や、エドワードへの愛が狂気を帯びた保身に変わっていく様子は、時に怖く感じるほどでした。

 ナレーター役の伊礼彼方さんがハマり役でしたね。人外の雰囲気をたたえた佇まいがゾクッとするほどカッコよくて😍  登場した途端その場を不穏な空気で覆う存在感があり、歌には人を捉えて支配するパワーがあった。

 そしてねー、コレ、ライオンズ氏役の鈴木壮麻さんのムダ使いじゃない? 全くの役不足。登場シーンが少ないし、あの美声なのにソロは1曲しか歌わないって、あー、もったいない😞  壮麻さんはもっと物語に絡む役で出るべきだし、ソロであと2曲は歌ってほしかった。

 

 舞台上手にライオンズ家の邸宅、下手にジョンストン家が住む集合住宅があり、それに挟まれた舞台中央部分が広場や街路になるだけでなく、ライオンズ家の居間にもなり、それが全く不自然ではなくシーン転換もスムーズで、上手い舞台デザインでした。また、床に映される照明の意匠が心理や状況を表していて(渦巻き模様が揺れて心のザワつきを表すとか)、最後、双子が倒れたシーンで投影されたステンドグラスの絵柄が綺麗だったな。

 

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