オンライン観劇 英国ロイヤルバレエ「ジゼル」(2021年11月) | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付 マリウス・プティパ(ジャン・コラーリ&ジュール・ペローに基づく)

制作&追加振付 ピーター・ライト

音楽 アドルフ・アダン(編曲ラーズ・ペイン)

ヤスミン・ナグディ/マシュー・ボール/マリアネラ・ヌニェス/ルカ・アクリ

 

 感想の前に→このあいだの世界バレエフェスではマシューを呼ぶべきだったよね。開催できたことには感謝してもしきれないけど、マシューを呼ばなかった点に関しては残念感が大きい😞  ロイヤルから男性がワディムだけ……個人的事情やコロナ禍で来れなくなった男性ダンサーが他にいたのではなく、男性は最初からワディムしか呼んでないって。パリオペ偏重なのは……嬉しいけど、世界バレエフェスとしてちょっとどうなの?って思ったし。有料配信で観たこの「ジゼル」のマシューすごく良かったです。来年のロイヤル来日、実現しますように🙏

 

 ヤスミンのジゼルは快活で真っ直ぐ、そして無邪気という言葉がいちばんピッタリかな。家から出て最初のステップがまさに弾むようで、あの人が会いに来てくれた!という嬉しさを抑えきれない気持ちが分かるし、いざアルブレヒトと向かい合うと恥じらってしまう姿が初々しい。彼を見つめる目はためらいながらも輝きに満ち、自分も彼に思われていると信じて疑わない純粋さを感じる。その喜びを抑えきれず踊らずにはいられない、踊ることで幸福感を2倍噛み締められる、そんな風に見ました。公爵たちの前で踊るソロは軽やかで伸びやか、とてもはっきりした踊りでした。ヤスミンには華やかさがあるなあ✨

 狂乱のシーンはいきなり錯乱したというより、しばらく事実を理解できず頭が混乱し、悲しみと絶望がじわじわと襲ってきてゆっくりと崩れていく風で、とても自然な表現でした。ライト版では、手にした剣で思わず胸を刺してしまう自殺(そうしないと墓地に埋葬されていない理由がつかないからね)だけど、刺したあとも痛みを感じていないように踊り続け、胸の血を見てようやく現実に戻り死を覚悟したという形でしたね😭

 2幕でのウィリ/ジゼル、透明感というより微かな温もりを感じました。ヤスミンの持ち味なのかも。まだ完全に精霊にはなっていなくて、人間の血・体温が残っている、そういう暖かさのある慈愛。アルブレヒトへの思いが人間のものとして伝わっているよう。墓から湧き出てベールを取られてからの回転から、素晴らしい踊り、全体を通して柔らかく滑らかで且つ大きく、腕と上体の動きに表情があったな。でも、あまりエアリーな感じはなかった(特にリフトされて宙を移動するところなど)、すごい人たちのを観てきちゃってるから💦

 

 アルブレヒトのマシューは、その外見も佇まいもマイムもダンスも、高貴でエレガントで傲慢、憂いをたたえた貴族のぼんぼんでした(マシューは目が魅力的っていつも思う💓)。宮廷の窮屈な空気、望まない女性との政略結婚、その束縛から逃げて村で開放感を味わっていたら可愛い子に出会った、つかの間の息抜きをしよう……そんな背景が浮かぶ。でも、村人に変装したのに、髪を耳にさっとなで付ける仕草が貴族のままじゃ~ん😅  マシューのアルブレヒト、1幕では完全にヴィランになっていて、これは正しい役作り。

 バチルドに見つかって「こんな格好で……ちょっと村人ごっこして遊んでただけだよ……」と照れ隠しにエヘッと笑い、バチルドがジゼルに「彼は私のフィアンセなのよ」って言うのを見て「あー、言っちゃった」という顔をし、抱きつくジゼルの腕を振り払おうとまでするの、ひどいマシュー😩  心乱れて倒れたジゼルを心配して近づこうとするけど、まだ、何があったのか何故そうなっちゃうのか理解できていない感じでしたね。ジゼルが命を無くしてようやくコトの重大さ、自分のやったことの残酷さ、そして自分では気づかなうちにジゼルを愛していたことを悟る、1幕最後の嘆きは本物だった。

 2幕でのマシュー登場時の、黒いマントに白い百合の花を抱えた姿はそのままポートレイトにしてほしいです😍  罪の意識に苛まれている表情が美しい。ダンスはエレガンスに徹し、技だけ独立して強調するようなところはなかった。最後のソロでもアントルシャは6回ほどでやめ、別のステップでも踊る。そこで拍手をもらうのではなく、あくまでもミルタに強いられて踊り続けるアルブレヒトになっていた。ヤスミンとのPDDは甘くロマティックで、2人が愛情を何度も結び合せるのが感じられました。

 

 ネラさんのミルタは夜の森を統べる女王さま感を纏っていて、目元のメイクがカッコ良い。そして、ソロでの圧倒的な舞台空間の支配力よ。踊りながら顎を上げて斜め上を向くポーズが気高くて、マシューを睨みつける時など、もう食い殺しそう……いや、眼力で射し貫きそう😱  お前は死ぬまで踊るのよとアルブレヒトを指差す爪の先にまで強い怒りと魔力がこもっている。こんなに美しくて怖いミルタは見たことないかも。

 ウィリたちも然り。ヒラリオンを鋭く見つめザッザッザッという感じで進んでくるし、ジゼルの後を追いかけようとするアルブレヒトを、逃しませんっ!ていう顔で立ちはだかるし、コワ……🥶  ところで例のアラベスク・ホップですが、脚や腕の角度があまり揃っていなくて、美しさはなかったですね。ロイヤルって群舞を揃えることをあまり重視していなくて、それは一人一人に個性があるからという考え方のようだけど(前芸術監督モニカ・メイスンが言っていた)こういう作品の場合どうなの? ウィリは確かにもとは個性の異なる人間だったけど、今は聖霊という人外の存在なわけで、その幻想的&超自然的な雰囲気を出すには、無機質さ=不自然なくらい揃っている方が個人的には好きだな。

 アクリくんのヒラリオンは、粗野な造りの上にどぎつさがあって無神経そう、ほとんど同情を呼び起こさない造形だった。時々「彼でもいいじゃん、優しいし~」というヒラリオンがいるんだけど、そうは思えない。それだけ存在感のあるヒラリオンでした。

 

 ライト版は物語の整合性や細部へのこだわりが伺えるのが特徴だけど、今回見て、貴族と村人との身分の差を明確に見せていたのに気づきました。公爵(ギャリー・エイヴィス)は尊大だし、家臣は横柄だし、バチルド(クリスティーナ・アレスティス)は高慢。ジゼルが「ドレスは自分で縫いました」と言うのを聞いて冷笑するし、ネックレスをもらったジゼルがお礼を言おうとバチルドの手を取りかけるとサッと避けた。マシューも、ヒラリオンに押しのけられ腕が触ったとき汚らわしい!って感じで顔をしかめたよね。下々と触れるのはタブーというところを見せるから、アルブレヒトとジゼルが寄り添うことがいかに特別なのか分かるし、仮にあのまま2人が愛を育んでも身分違いゆえジゼルは情婦でしかないって楽に想像できます。というわけで物語としての「ジゼル」堪能しました🎊

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ バレエへ
にほんブログ村


バレエランキング

明日もシアター日和 - にほんブログ村