脚本/音楽/歌詞 ステファン・ドルギノフ
演出 栗山民也
田代万里生/新納慎也
初日を観てきました。2011年に初演された本作、その後、東京公演だけでも5度の再演を重ねているのに、私が観るのは今回が初めてで〜す😄 さすがに、ここで観ておかねばと思ったですよ。初日を飾った田代・新納ペアは初演ペアの1組で(もう1組は松下洸平・柿澤勇人ペア)、再演時から9年ぶりのペア復活だそうで、観られて幸せ☺️
あらすじを今さら書いても……とは思いますが、作品は1924年にアメリカで起きた実際の殺人事件を基にしています(アメリカでの初演は2003年)。当時、シカゴ大学の学生だったレオポルド(19歳)とローブ(18歳)が14歳の少年を誘拐し残忍な方法で殺害。遺体のそばに落ちていたメガネが証拠となり2人は逮捕。有能な弁護士の手により死刑を免れ、懲役刑を受ける。ローブは服役中に死亡、レオポルドは35年の服役を経て釈放。
芝居の登場人物はそのレオポルド私(田代万里生)とローブ彼(新納慎也)の2人。私の5回目の仮釈放請求審理が行われるところから始まります。審理官に答弁する形で私は過去を振り返り語り始める。54歳の現在の私と、10代後半の私と彼との回想シーンがクロスしながら展開し、最後に驚愕の真実が明らかに(💥ネタバレ‼️→彼を独り占めしたかったから、私は証拠となる自分のメガネをわざと現場に残して捕まるように仕組んだ。そうすれば刑務所で彼とずっと一緒にいられる……死ぬまで😱)。
対話や独白は時々歌で語られる。音楽はピアノのみ。息遣いや心情など言葉にならないものもピアノが繊細に奏でたりしました。
2人は同性愛関係にあり、またニーチェの超人思想の信奉者でもあった。殺人の動機は「完全犯罪を遂行することで自らの優越性を証明するため」だと。でも私にとってニーチェよりも大事なものは彼。私は彼にもっと触って欲しくて、彼といつも一緒にいたくて、彼の愛が欲しくて、彼の犯罪に加担した。そして彼の自分に対する愛に疑いを抱いたとき、それを独占することを思いついた……。
「Thrill me!」。この言葉が幾度となく発せられます。「ゾクゾクさせてほしい」「ワクワクさせて!」「興奮させてよ!」「スリルを味わわせてくれ!」。そうさせてくれるものは犯罪だったり(2人は殺人の前にも放火や空き巣などを繰り返していた)、スキンシップだったり、セックスだったりする。
演出家が2人に提示したキーワードが「究極の愛」だそうです。なるほどー、それは「こじれた愛」「すれ違う愛」でもあったな。私は深く暗い闇まで飲み込んで愛を受け入れようとし、彼は薄く張った氷のような危うさの只中にある人智を越えた愛を目指した。それぞれのやり方で相手を愛したけど、最初から違う方向を向いていて、共にそれに気づかなかった悲劇……なのか?
私を演じた万里生くん。最後まで良家のボンボン風の品性を湛え、まっすぐで純粋。彼に子犬のようにまつわりつく姿、「(僕に)触ってください」と言うときの底なしの闇、かすかに触れてもらえたときに身を震わせ、形だけのキスに喜ぶ卑屈さが切ない😭 そんな私に狡猾さなど全く感じなかっただけに、真実を語ってからの変貌が凄まじかった。背筋を伸ばした立ち姿はセクシーで、護送車の中で彼を「支配した」ときの、狂気の混じった笑みには崇高さすら浮かんでいたよ。同時に、彼の内面がとっくに壊れていたことに気づかされる。その狂気と繊細さの紙一重の差が痛々しさを誘うけど、その差を超えたところまで行き着いた私こそが、ある意味で超人だよね、と思いました。
新納さんの彼、感情を封印したシャープな冷徹さにゾクゾクするも、支配者然とした不遜な言動が妙に危うかったりする。同時に、足音を立てない歩き方や私となかなか触れ合おうとしない態度に、虚無的な実態のなさも感じさせます。でも父の愛に飢え、それを独り占めしている弟への嫉妬をむき出しにしたとき、一瞬だけ仮面が剥がれ新納さんの顔が感情を帯びて歪む、そこに、ナイフの刃の上を歩くような痛さを思った😖 形勢が逆転してからの彼は急にもろく繊細に変わって見え、愛おしくなってしまったよ。愛を小出しにして私を支配しているつもりだったのに自分が私の手に落ちたと知ったとき、高慢さの塊だった彼がどんどん崩れ、断片化して消えていくようでした。
新納さんが言っているように、面白いのは、この作品は私が語る物語なので、彼の言動は私が勝手に語っているだけのものだということ。私が妄想した彼像であり、もしかしたら彼を美化したり都合の悪い部分は記憶から消したり、見えてない部分もあったりするかもしれない。彼の真実は本当のところ分からないんですねー。
最後に私は釈放されるけど、彼がいたからこその私だったのだろうから、その彼がとうに死んでしまっている今、シャバに出ても自分はもう「無い」のでは? 握った手をゆっくり開いていく私、そこにあるものは自由なのか無なのか、そんな漠然とした絶望を万里生くんから感じました。