脚本 オーウェン・マカファーティ
演出 鵜山仁
出演 浅野雅博/石橋徹郎
いい芝居だったー! 戯曲も役者も演出も。北アイルランド出身の劇作家による作品(1998年初演)、演じるのは文学座の2人、そして鵜山さんの手堅い演出。
舞台は1970年、宗教的・政治的紛争が絶えない北アイルランドの首都ベルファスト。北アイルランドは連合王国イギリスを構成するnationのひとつだけど、複雑な歴史があるので、そこをある程度わかっているほうが作品の肝は伝わりやすいかも。
ちょっと長いけど歴史→12世紀以来、イングランド/イギリスによる侵攻・支配を被ってきたアイルランドは、とうとう1801年にイギリスに併合されてしまう。
以後、特にアイルランド北部はイギリスからの移住者が多くなる。で、アイルランドの人はもともとカトリックを信仰してきているけど、イギリスはプロテスタントの国だから、アイルランド北部はプロテスタント系が優勢な地域になっていく。
1920年代にアイルランドがイギリスからの独立運動を進めた時、プロテスタント系住民の多い北部はイギリスに残りたがった。結局、南部(といってもアイルランド島の大部分)は独立して「アイルランド共和国」になり、北部は「北アイルランド」という名称でイギリスの一部になり、今に至る……。
その後、北アイルランドでは、プロテスタント側による少数派カトリック系住民への差別(政治面、住居面、就職面など)が激しくなり、1960年代から両者の衝突が頻発。本作は、そうした暴動が活発化し、イギリス政府が直接介入して、いわゆる北アイルランド紛争の時代に突入していく頃の話です。
プロテスタント側の少年モジョは中流家庭の少年で、父はこっそり浮気をしている。カトリック側の少年ミキボーは労働者階級かな、父はパブに入り浸りの呑んだくれ。共に10歳くらいの2人が偶然に出会い、一緒に遊ぶうちに厚い友情を育んでいきます。ミキボーが兄貴分でリーダーシップをとり、モジョは彼に遅れまいとついていく。ちょっと軟弱なモジョを、ミキボーが守る……少年らしい2人の関係がとっても微笑ましい☺️
彼らが観た映画「明日に向かって撃て」のヒロイズムが通奏低音のように流れています。2人は映画の中のブッチとサンダンスに憧れ「いつか俺たちもボリビアに行こうぜ」「そのあとはオーストラリアに行こうな」と、意味もわからず夢を共有している。でもある日、プロテスタント側の爆撃テロで、ミキボーの父が爆死してしまうのね💥
ゴッコ遊びに興じ、小屋を秘密基地にし、町の悪ガキをやっつけようと息巻く2人が生きている世界は、とっても狭い。その外に大人たちの事情による難しい世界が広がっているのを2人は知っているし、自分たちの立場の違いも漠然と分かっているんだけど、それは2人の友情の支障には全くならないわけです。その純粋さ、無邪気さが強調される。でも、2人の他愛のない会話の中に不穏な影が見え隠れしているのが、観客には分かるんですよね😓
ミキボーの父の死という、2人に突きつけられた無慈悲な現実。その意味を理解した彼らは、そのとき「大人」になるんだな。見てしまった、埋められない溝、拭えない過去の傷は、2人の関係を180度変えるほど大きかった😣
年月が経って再会した2人は「明日に向かって撃て」の名ラストシーン(ブッチとサンダンスが銃を手に、敵が待ち構える真っ只中に飛び出して行く)の真似を演じるところで、芝居は終わります💨 う〜ん、良い。泣いた😭
おもちゃの銃を持って外に飛び出す2人の姿は、目の前に立ちはだかる社会的敵対の壁を撃ち壊していく、未来への力と見たよ。対立を超えて結ばれた友情の絆は簡単には切れないし、それは希望に繋がる絆でもある……というか、あってほしい(北アイルランド問題は決して楽観視できるものではないけど)。2人の先にあるのは夢に描いた未知の地「オーストラリア」だと思いたいな。たっぷりの余韻を残す終わり方でした🎊
重い背景を背負った物語を、コミカルなセリフや動きで何度も笑いを誘いながら見せていく。笑い飛ばしながらも核心を突いていくのがイギリスやアイルランドの芝居らしいところだけど、それが時々切なくもありました💦
浅野さん石橋さんの少年の演技が絶妙👏 2人が遊びまわる姿がホント少年まんま。翻訳もとても良くて、10歳前後の少年の生き生きした話し言葉が自然だった。実は登場人物はもっと多いんだけど、それをすべて2人が瞬時に切り替わりながら演じるので、時々コントっぽい面白さがあり、展開もスピーディー。でもミキボーが、死んでしまった父とオーストラリア行きのことを(一人二役で)対話する幻想シーンはとても美しく、胸が締め付けられました✨