四月大歌舞伎・夜の部@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

「絵本合法衢」立場の大平次

仁左衛門/時蔵/彌十郎/錦之助/孝太郎/吉哉/萬次郎/坂東亀蔵/梅丸/團蔵

 

はぁ〜ハート いまこの時の仁左さまが尊いジュエル・red 新橋演舞場(うんざりお松は玉三郎だったんですよ~ キティちゃん×笑)→国立劇場→大阪松竹座と観てきて、どうして歌舞伎座でやらせてもらえないんだろうと疑問でした。今回、仁左さまのインタビュー記事を読んで、この作品に歌舞伎座の舞台は広すぎるのがネックだったのかなと。

 

 二役の大学之助と大平次。大学之助は御家横領を狙う分家の当主。大平次はお金がほしいだけの巷の無頼漢。目的は違えど、2人とも、自分の進む道にはだかる邪魔者と思ったら即決で切り捨てるという、短絡的な悪党ですショック

 

 仁左さま大学之助の魅力は、何と言ってもその立ち姿と、臓物の奥から響いてくるような低くてドロドロした声でしょう ハート 青白いといってもいいくらいの白塗りのお顔に、立派な五十日鬘、品格ある銀鼠や茄子紺の衣装がぴたりと似合い、最後の、着物の両肩を外して現れる白い衣装もまた映える。シュッとした体型と相まって、こういう衣装を着て仁王立ちしたポーズが本当に神々しくて、見ているだけではぁ~っとなりますね。序幕でさっそく一人を斬りながら、花道までじらし、ようやく深編笠を取って見えたお顔に、一気に惹きつけられますきらきら

 大学之助はそんなに大きく動くわけではなく、その代わり、ちょっとした目の動き(流し目キラキラ)や口元の歪みで心の内を表現する、その巧みさ。例えば、陣屋で瀬左衛門を殺すくだり。平伏しているように見せながら、刀にフッと目をやる一瞬に、瀬左衛門に対する殺意が走る。合法庵室で与兵衛をスラリと刀で切りつけて追い詰めていくときの、Sっ気を含んだ笑みはゾッとする美しさ ため息

 可愛がっていた鷹を傷つけられたと知った時の怒りの形相もすごかったけど(童を斬り殺したとき周りから「えっ……」と声が漏れた)、個人的には、童と百姓が鷹を引っ張り合ううちに鷹の羽がもげてしまうのが痛々しくて、鷹がかわいそうでしたけど 苦笑い

 それにしても、鷹野では鷹を溺愛し、お亀をモノにしたくて家臣に目配せするわがままぶり。大詰では御家相続の許しをもらいに京都へ行くんだとウキウキし、弥十郎夫婦のエア自害を見抜けないという、ちょっとユルいぼんぼん殿様ぶり。国崩しになりきれていないところがいいですね。

 

 一方、大平次の魅力は表情の豊かさと身のこなしの軽やかさ、そして色気かなハート その場その場で表情が自在に変わり、そのときの大平次の心理、気持ちの変化が手にとるようにわかる。セリフの緩急や高低も絶妙で、大平次が舞台の上で生きています。

 例えばお松の殺害です。道具屋のあとの花道でお松が「所帯でも持たせておくれよ」とねだったときの、イヤッそうに歪んだ口元 Queenly 「おりきを毒殺したことをしゃべっちまうよ」とヤンワリ脅したときのギョッと釣り上がる眉 Queenly ネットリと言い寄るお松からうるさそうに顔を背け、ふっと「殺しちまうか……?」と思いついたときのキラッと鋭くなった目 ムンクの叫び 一連の心理表現に感服です。

 一つ屋で与兵衛とお亀が別れの言葉をいじいじ交わしている間、同情してウソ涙をぬぐったり、ニヤリと笑ったり、イライラしてきたりと、くるくる変わる表情が可笑しいし、重宝の香炉を与兵衛から奪おうとするコミカルな仕草に愛嬌がありますよねニコ

 動きの細かさ、リアルさもすごいです。例えば、お道を斬ったあと一つ家に戻り、暗がりの中で血の付いた刀を草履で拭き取るところ、何かゾゾッとしました。怖かったのは、ツバメの巣に隠しておいた50両を取り出すとき、ピーピーなくツバメの雛が邪魔だってんで、一捻りで殺しちゃうところがっかり 大学之助の童殺しと同じくらい残酷でゲッとなった。

 考えてみれば、うっとうしくなったお松を殺し、女房をあやまって斬ってもアッサリ見捨て、捕えたお米にも手を出さず、大平次の女に対する執着のなさは確かに面白いです。

 

 時蔵のうんざりお松は、アダな雰囲気と姉御ぶりがほどよくブレンドされて良かった。お道と張り合うところはもう少し可愛らしさがあるといいなあと思ったけど。二役めの皐月は凛とした佇まいに品があって、こちらも適役。

 吉哉が、抑えた色っぽさと品性があって好きです。死ぬときの、回り舞台が半分ほど回転するあたりでググーッとエビ反りになったシルエットがすごく綺麗だった〜。

 仇討ちのために奔走する与兵衛の錦之助がはまり役。颯爽とした二枚目で志は清く正しく可愛い女房もいて、しかも、肝心なときに癪に苦しみ、脚を傷つけられ、返り討ちにあって自害し本望遂げられず…がーん 悲劇の優男が似合いすぎて、そこに錦之助の美学すら感じます。

 その女房お亀は孝太郎です。殿さまに遠慮なく自分の気持ちを伝えたり、体を張って敵陣に乗り込む決意をし、大学之助を討とうとするなど、芯の強い(というか気の強い?)娘役が似合います。そのお亀が殺されるところも見せて欲しかったなー。お亀が亡霊で出るところで回想風に、他の役者のシルエット+大学之助がバッサリやるとか。

 エピソード的に殺される若夫婦の梅丸と坂東亀蔵。梅丸は動きがまだ硬くてセリフも時代がかっているけど、なんといっても美しい。亀蔵はスキッとした爽やかな声が却って悲劇性を帯びます。で、グロテスクな串刺し by 仁左さま叫び 2人重なってのエビ反りが本当に美しく、傍に立つ仁左さまと合わせてまさに1枚の絵画でした。

 彌十郎は身体が大きい(身長がある)ってだけでも存在感ありますよね。前に演じた歌六に比べると、彌十郎はカジュアルな雰囲気というか柔らかさがあるなあと思いました。

 

 大物から童、そしてツバメの雛に至るまで、殺しまくる仁左さま素敵 キャッ そのほとんどが善人なのに、観終わったあとの爽快感は何なんでしょうよだれ これを受け継ぐ人が見つからないと、多くの人が言う通りなんだけど、当分は仁左さまの記憶だけで十分かな。

 

 

 

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