「オールスター・バレエ・ガラ」Bプロ@東京文化会館 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

えーと、アナニアシヴィリは辛口になってます。

 

「ラプソディ」より アレッサンドラ・フェリ/エルマン・コルネホ

 トップバッターってちょっと損な役回りなんだけど、この2人のこの作品は会場の空気を一気に一つに束ねてしまった(と思う)。終わったときには、気分は完全にバレエモード。つかみはバッチリです。

 コルホネが登場して、さっそく見せる滑るようなステップ、キレのいい回転、高いジャンプ。音楽に乗って小気味よく踊るコルホネに続いて、フェリが伸びやかなダンスを披露します。リズムをスッと体内に取り込み、それをダンスとして表現するときには身体に豊かな情感が込もっている。プロットレスなのに物語を感じさせます。そしてリフトの連続。コルホネとの相性もよろしく、リフトされて舞うフェリがとっても幸福そう。その無邪気な笑顔も手伝って、とっても清涼感あふれる作品でした。

 

「白鳥の湖」より第2幕アダージォ ニーナ・アナニアシヴィリ/マルセロ・ゴメス

 アダージョかぁ……。それを選んででも「白鳥」を踊りたというアナニアシヴィリの気持ち、分からないわけでもないけど(いや、やっぱり分からない)、今となってはマイナスイメージを与えることもあり得ると、考えたりしないのでしょうか。

 見た目はオデットだけど、上半身のしなやかさ、全体のたおやかさは薄味。安定した踊りですが、重いという意味でもある。あるいは、半分は(半分以上は?)ゴメスの安心・安全なサポートのおかげでしょう。ゴメスはサポートだけでしたけど(ご苦労さん)、ジークフリードになりきっていました。あのラテンマッチョ濃いお顔がノーブルに見えてくるから不思議。どのポーズになっても王子に見せることを忘れていない。

 

「Fragments of one's Biography」より ウリヤーナ・ロパートキナ/アンドレイ・エルマコフ 

 モノトーンの衣装のダンサーが、黒い帽子で顔を隠して登場したとき、てっきりロパートキナかと思ってしまった。バレエ・フェスのガラで踊った「タンゴ」を思い出していました。帽子を取ったらエルマコフでした。2人はスラリとした体型や長く細い手脚、小さい頭と、体型がそっくりなんですね。エルマコフはキレのいいダンスでした。派手さはないけど、ちょっと控えめなところが個人的に好きかも。

 ロパートキナは、それとは対照的な、純白のドレス姿。裾がたっぷりしたスカートで、それを手で持ちながら踊ります。腕の動きに制約がある分、足さばき、ステップの妙がポイントなんだけど、実際、素晴らしい動きなんだけど、スカートのボリュームに隠れて、肝心の足さばきがよく見えなくてとっても残念でした。スカートの裾が描くラインは綺麗なんですけどね。作品は、割と楽しく鑑賞いたしました。

 

「ジゼル」よりパ・ド・ドゥ スヴェトラーナ・ザハロワ/ミハイル・ロブーヒン

 圧巻でした。幽玄の世界に引き込まれ、時間を忘れました。ボッレとの「ジゼル」では、ウィリとなってもザハロワはアルブレヒトに愛情を注いでいたように感じたけど、ロブーヒンとでは、ザハロワ・ウィリは、アルブレヒトをかつて抱いていた愛で守るというより、より崇高な慈愛で包み込む感じ。要は、神々しいほどに別世界の人でした。細く長い手脚は空間を圧倒的なオーラと共に支配し、なのに空気のようで、遠くを見つめる眼差しはクール。絶品~。

 

「リーズの結婚」よりパ・ド・ドゥ ジリアン・マーフィー/マチアス・エイマン 

 楽しかったー。2人もこの作品では生き生きしていました。このペアは、Bプロの方がずっといいです。アシュトンらしい複雑で軽妙で技巧的なステップを軽やかにこなす2人。エイマンの綺麗なジャンプ、全く音を立てない着地。そして2人のスピーディーで溌剌とした動き。マーフィーからは、昔の、ジュリー・ケントと良きライバルだった頃の、明るくて花があったダンスを思い出しました。

 

「プレリュード」 ウリヤーナ・ロパートキナ/アンドレイ・エルマコフ

 空間を彫刻していくような、硬質な踊りでした。長身の2人の身体がシンクロして、絵的にもとっても綺麗。静謐な雰囲気にあふれた作品です。でも、初めて見る作品だから、脳に刻まれる深さがまだ浅いままで、記憶の中に埋もれてしまうなー。

 

「フー・ケアーズ?」より「君を抱いて」 ジリアン・マーフィー/マチアス・エイマン

 この作品は、マーフィーのアメリカーンな雰囲気にぴったりでした。お洒落で大人で、軽快さが加わって、洗練されている。エイマンはパリオペ風バランシンで、あくまで優雅ですけど、よかったです。

 

「ディスタント・クライズ」 スヴェトラーナ・ザハロワ/ミハイル・ロブーヒン

 抽象バレエのザハロワは、手脚がますます雄弁。ロブーヒンは外見に似合わず(!)繊細でした。ロブーヒンの容姿は好みじゃないので、ノーブルさが要求されるアルブレヒトより、こちらの方が素直に観られたです(笑)。大胆でアクロバティックなリフトの連続だけど、クラシックのテイストがあるのでエレガントでもある。ザハロワの、左右200度の開脚、ふくらはぎから甲、つま先までの完璧なライン!!

 今回、ロパートキナとザハロワを比べると、演目の選択時点で、ザハロワのほうが分があったかな。ロパートキナがどうして古典を一つも踊らなかったのか不思議です。ボリショイ組と対抗することを敢えて避けたのでしょうか。

 

「レクリ」 ニーナ・アナニアシヴィリ

 なんだかなー。感想は書かないでおこう。ガラ公演だから色々な作品を見られる楽しみはあるけど、コレ、私は引いてしまった。

 アナニアシヴィリは、今回、ちょっと痛かったです。フェリと年齢がほとんど同じなだけについ比べてしまうけど、この場合も、演目選択でフェリのほうが余裕です。いくら表現力があっても、若かりし頃とは決定的に体力が(アナニアシヴィリの場合は体型も)違うのだから、それでもまだ古典に固執するのって……。そういうダンサー人生を美しい、素晴らしいと言えるほど、私は寛大ではありません。幸いにして輝いていた頃の彼女のバレエを観てきているけど、そういえば古典以外の作品はあまり踊っていなかったかも。単に、私が観なかっただけかな? 長いバレエ人生を歩む場合、レパートリーを幅広く持つことは大切ですね。

 

「ル・パルク」より アレッサンドラ・フェリ/エルマン・コルネホ 

 フェリの「ル・パルク」を見られるとは思っていなかったから、死ぬほど幸せ❤️ 

 まったりとした昼下がり、微熱を帯びてけだるそうに、身体をくねらせるフェリ。官能的だけど、思ったほどいやらしくないのね。それにしても、フェリの身体表現の素晴らしさは不思議ですらある。ここでは、空気に吸い付くような、というか、熱を帯びた水蒸気をまとうような、粘りを帯びた動きなんですよね。少しもの悲しくもある音楽も手伝って、なぜか、涙がにじんできてしまった。

 惜しむらくは、コルホネがあまりノーブルではないこと。一応これは貴族の恋愛ゲームでの出来事で、このシーンはその最後の「解放」という章。だから白いブラウス1枚になったとはいえ、男からも滲み出る気品が必要なわけで、コルホネ自身にはそういう引き出しはなくて、フェリとの関係は違ったものに見えました。

 

「眠りの森の美女」よりパ・ド・ドゥ カッサンドラ・トレナリー/マルセロ・ゴメス

 トリを飾るとはいえ、まだ若いトレナリーにオーロラを踊らせるって、すごい勇気要りませんでした? ラトマンスキーのチョイス?

 トレナリーは可愛いくて健康的な雰囲気。こういうオーロラもありだと思うけど、踊り自体はあまり印象に残らなかったです。ゴメスはもちろん、サポートが完璧。ソロも手堅いです。振付が変わっていました。ラトマンスキーの振り付けで、プティパのもともとの振付を解読&再構築したものらしい。ゴージャス&キラキラ度が控えめになっていて、地味というか、こじんまりとまとまった感じでした。

 

 フィナーレはAプロと同じでした。男性群が順に登場して、マネージュ、ピルエット、ジャンプなどを見せて、女性群が現れたところで、ペアになって一斉に、ぞれぞれ違うステップで踊り出す。あっちでもこっちでも、自分たちの見せ場を披露しているので、もう誰を見ればいいのやら。舞台上がゴッチャゴチャで、ステップの叩き売りみたいでした。

 それぞれの見せ場を一人(一組)ずつ見せていって、最後は全員で何か美しいものを見せるという演出にしてほしかった。ラトマンスキーの美的センスを疑ってしまいます。

 カーテンコールではフェリが一番楽しそうにしていました〜。