「鬼一法眼三略巻」(菊畑)
辰之助/松緑/彦三郎/時蔵/亀蔵
三代目尾上辰之助襲名披露狂言は、昼の部が「寿曽我対面」だったのに対し、夜の部がこれです。新・辰之助は、虎蔵じつは牛若丸というお役。平清盛に表向きだけ仕えている鬼一法眼(彦三郎)が所持する源氏の兵法書「三略巻」を奪うため、その虎蔵/牛若丸に仕える知恵内(松緑)と共に、奴として鬼一の館に潜入している。鬼一の娘皆鶴姫(時蔵)は虎蔵に惚れ込んでるのだけど、鬼一の弟子(実は清盛が送り込んだ密偵)の湛海(亀蔵)も姫が大好きなので……以下いろいろあり……😓姫が虎蔵と知恵内を、兵法書がある蔵に手引きするところで終わります。
新・辰之助は昼の部での荒事とは打って変わり、この虎蔵は、本当は牛若丸(源義経)というお役なだけに完全にハマり役でした。気品と柔らかさがブレンドされた雰囲気で、少年ぽさが残る面差しは義経になる前の牛若丸そのもの。役柄の特徴もよく捉えていてセリフには芯の強さと香りがあった。その辰之助牛若丸を主と仰ぐ松緑知恵内は、奴としての無骨さと愛嬌がある。父松緑が、主従関係の “従” の立場から息子辰之助の襲名を支えている形になっていて、胸が熱くなります。
鬼一の彦三郎は総白髪と顔の皺で老け造り……なのに声に艶があるので老けて見えないのですが😅 深く重みのある声色のおかげで貫禄は十分。知恵内を追い詰めるところも威圧感があり、含みを持たせたセリフ回しも良かった。舞鶴姫の時蔵は虎蔵に積極的にアタックしていくところや、好きな人のために思い切ったことしてしまうところが可愛らしくも行動派の姫でした。
湛海の亀蔵が登場したところで襲名口上。新・辰之助と松緑を挟んで、昼の部の口上には出なかった、彦三郎、亀蔵、時蔵が座ります。亀蔵は「私は新・辰之助さんが生まれたその日に会っているんです」と。その日、芝居が終わった夜、松緑と一緒に病院へ駆けつけたのだそう。すごい出会いですね。
「助六由縁江戸桜」
團十郎/八代目菊五郎/男女蔵/梅玉/尾上右近/松緑/辰之助/鷹之資/時蔵/雀右衛門/市蔵/九團次/歌女之丞/萬次郎/家橘/新之助/齊入
いやぁ~、やっぱり「助六」は良いですわ~🎊 そして、團十郎の助六には菊五郎がベストマッチ。なんだかんだ言っても團菊の並びは唯一無二、落ち着きます。また、今回は “令和の三之助” の舞台は叶わなかったけど、かつての “平成の三之助” が揃うという、何か感慨深い舞台だったな。「助六」での大きな見どころのひとつは花道でのパフォーマンス。助六の出端とつらね、揚巻と白玉の花魁道中ですよね。これは絶対フルで見える席に座らないとダメなので、夜の部は1階席を取りましたよ👍
團十郎の助六、襲名披露公演以来なんですね。傘を差しカッカッカッと下駄を鳴らして花道を颯爽と登場した姿は “粋” が着物を着て歩いているよう。なんといっても華があるし、荒事としての豪快さと勢い、プラス和事風な色気もほどよくてね。意休(男女蔵)には喧嘩腰で向かって行き、兄(梅玉)とのやりとりではヤンチャな弟になり、母(雀右衛門)の前では神妙に腰を低くし、でもって常に江戸っ子らしい軽やかさを感じさせる。セリフも癖が随分なくなっていましたよ。
菊五郎の揚巻も負けず劣らずの素晴らしさ。色っぽさは薄味でスッとした佇まいに気高さと気品とがまとわりついてる、それが菊五郎の持ち味なんですよね。意休への悪態のつらねもスカッとしていて気持ちよく、助六を心配するようなセリフにはお姉さんぽい落ち着きが見える。團十郎と顔を見合わせたりすると、俺たち同級生で幼馴染なんだよね……という空気が感じられてほのぼのとした気持ちになるのでした。助六の花道からの引っ込み、それを見送る揚巻が上体を優雅にグーッと反らした姿の美しいこと。そこに幕がスーッと引かれて終わるところも含めて、よくできた芝居です。
お話もさることながら「助六」が演目として良いのは、助六と揚巻以外にも見せどころのあるお役がたくさんあるから、多くの役者さんにお役を振ることで皆がそれぞれのシーンで張り切れること。それで全体として華やかで楽しい舞台になることです。
例えば、髭の意休の男女蔵。堂々としていて憎たらしくてちょっと人間味があって大変よい。意休はただの意地悪爺さんではなく、頭良いし、実は助六に対して器の大きいとこを見せる人物で、男女蔵は若い分そのあたりはあとちょっとだけど、期待したいです。なぜなら男女蔵の見た目がもう左團次のコピー😅 声も全く同じ系統で、今はまだ枯れた声ではないけど同じ渋味を持っている。ニンも左團次と同じだし、これからもお父さんの持ち役をどんどん演じていってほしいです。
通人は尾上右近で、團十郎と梅玉への、芸の上での感謝の言葉を盛り込むという今までにないユニークで素敵なアドリブでした。股くぐりは、普通うつ伏せでシュルッとくぐり通るのだけど、右近は團十郎の股をくぐるとき仰向けでズリズリズリと動き、通り終わって立ち上がると「大丈夫、履いてました」って😆 で花道に出てからは新・辰之助の襲名を寿ぐ口上を述べたのも良かったな。
今回のスペシャルは福山かつぎの新・辰之助とくわんぺら門兵衛の松緑のやりとりですね。辰之助のかつぎは江戸っ子らしい軽やかさがあり、着物の裾をまくってあぐらをかき啖呵を切るところがなかなか良かった。彼に喧嘩を売る門兵衛の松緑。この前の演目「菊畑」では息子をフォローする家来になり、「助六」では息子に「ざまあみやがれ」と捨てゼリフを吐かれる役で息子を引き立てる。自分が辰之助を襲名した時はお父さん初代辰之助もお爺さん二代目松緑も亡くなってたから、後ろから支えてくれる家族がいなかった松緑。自分がして欲しくても叶わなかったものを、いま息子に精一杯の形で与えてるんだなと思い、ちょっとウルッとしてしまいました。
そうそう、幕開けの口上は新之助で、なかなか立派でした。とにかく、團十郎の助六はもう絶品で揺るぎないものがありますね。だからなおさら(と敢えて言いますが)、他の役者さんの助六もそろそろ観てみたいという贅沢な希望もあるのですが。










