振付 ジョン・ノイマイヤー
音楽 フレデリック・ショパン
フリーデマン・フォーゲル/エリサ・バデネス/アグネス・スー/マッテオ・ミッチーニ/アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ/マッケンジー・ブラウン/ヘンリック・エリクソン/ジェイソン・レイリー
大感動しました~🎊 「椿姫」は、配信やディスクは別として生舞台では、パリオペラ座とハンブルクバレエでしか観てないんだけど、そもそもノイマイヤーはシュトゥットガルトバレエのマリシア・ハイデのために本作を創ったので(1978年初演、アルマンはエゴン・マドセン)、本家のパフォーマンスをようやく生で観られたわけです。お目当てはフォーゲルくんですが、彼も今45歳。シュトゥットガルトの来日が3年後だとして、作品に関わらず彼が全幕を踊るのはもはや難しいから、これが最後かもと思って観ましたよ😢
タイトルロールであるマルグリットを踊ったエリサ・バデネス。正直いうと、エリサはお顔から受けるイメージとして「ドン・キホーテ」キトリ系キャラだし💦 クルティザンヌは高級娼婦と和訳されるけど知性と教養を併せ持った女性であり、エリサにはそういうのも感じないし🙇♀️……で、マルグリットはあまり期待してませんでした。でも観ているうちにそういうのが気にならなくなったんですよね。「踊り+仕草+佇まい=心情を語る演劇的表現」でその人物になるって、こういうことなのか、と改めて思いました。
無意識に纏っていた心の飾りを純な青年に剥ぎ取られ、本当の愛を受け、そして与えることを知ったけど、その愛する人のために自己犠牲を払い、皮肉にもその代償で生まれた齟齬を回収できず孤独のうちに死んでいく、彼女の物語がちゃんと描かれていた🎊
1幕で、取り巻きたちと一緒になってアルマンを子ども扱いして楽しむところはエリサのもつ屈託のない明るさ、と同時にプライドの高さも感じられた。その強さが、紫のPDDを踊るうちに次第に和らぎ、彼に心を開いていき、踊りの最後には一人の純な女性になっている。自分の足元にひれ伏すアルマンを観て笑いながらも、自分の中に新鮮な感情が湧いてくるのを覚えて驚いた表情を見せる、その顔の輝きに、私もハッとさせられました。
2幕の白のPDDではエリサは乙女のような無垢な喜びにあり、軽やかにフワフワと飛ぶように踊るステップが、その気持ちをちゃんと表している。そこから、デュヴァル氏との対峙で、反発、迷い、逡巡、決意、絶望と、短い間にさまざまな感情が怒涛のように込み上げては消えていくところ、まさに劇的な表現でした。
3幕のエリサは、後悔と寂しさと未練ですっかりやつれて見えた。黒のPDDでの、感情が昂るのに任せてアルマンに身を委ねるまでの葛藤と、愛に負ける心の弱さ、その苦悩の中での官能表現が素晴らしい。そして、最後の観劇に出かけるマルグリット、このときいかにも精神を崩したみたいに頬を真っ赤に塗ったりと、周りが困惑するようなメイクする人が多いけど、エリサはそのようなことはせずすっぴん風で、黒レースのヴェールかぶって現れた時は生きる屍の姿でした。マノンとデ・グリューとマルグリットのパドトロワは美しく、“あちら” に運ばれていくエリサマルグリットの弱々しさが痛々しかったです😢
そしてアルマンのフォーゲルくん。期待通りでした🎊 舞台上に居るのは生身の20代のブルジョワのボンボンだった。出自からくる甘えとわがままと自惚れを漂わせ、無謀にも身分違いの女性に恋焦がれ、(世間知らずという意味での)ナイーヴさゆえ愛する人の自己犠牲を裏切りと勘違いし、心に癒えることのない傷を負う。でも彼はひとつ大人になった、最後のフォーゲルくんの姿にはそれが見えました。
プロローグ、オークション会場に駆け込んできたフォーゲルくんアルマン、髪の毛を乱し憔悴しきった表情が彼の過去を語っているようで胸が詰まり、ああ、ドラマが始まると思いました。1幕ではマルグリットにひたすら気持ちをぶつけるアルマン。紫のPDDで彼女に頭を優しく包まれたときフッと目を閉じる。そこで、自分は受け入れてもらえたのだと悟るのかな、そのあとのパッと花やいだ喜びの表情がキラッキラ✨ 流れるようなダンスには感情の昂りが感じられ、そしてとにかく脚のラインが綺麗!
2幕の田園での白のPDD。伸びやかで大きなダンスからは幸福感がこぼれ落ちる。マルグリットと手を繋ぎ遠くを指差しながら舞台を大きく回るシーンは、決して訪れない未来を描いていると思うと、美しいけど泣けるところです。そして、決別の手紙を読んだ後の、絶望と悲しみに襲われて踊る引き攣ったような激しく鋭いダンス、痛々しかった。
3幕、憔悴しボロボロの表情のフォーゲルくん、オランプと踊る時の投げやりなダンスには、自分を捨てたマルグリットに対するというより、彼女への思いを吹っ切れない自分に対する苛立ちを感じる。そうして黒のPDD。無視したくてもできなくて、突き放したくてもできなくて、ドバドバと愛情が溢れていく、怒りと恋心とそれを制御できない自分への憐憫と、すべてが一体となった激しいダンス。凄まじかったですねー👏
終盤フォーゲルくんは端っこに立ったまま動かずにマルグリットの日記を読んでいるだけなのに、読み終わって顔上げたとき本当に涙を流していて、それ見たら私もブワッと涙が溢れてきた😭 「椿姫」観るたびに感動するけど今回ほど切なかったことないです。あの最後のフォーゲルくんの表情がプロローグの姿に繋がるのですね。そして、このあと最初のオークションのシーンに戻らず、日記を持って佇むフォーゲルくんで幕が降りるのも、彼は一生この思い出を引きずって生きるんだなと思わせる、いいエンディングですね。
アルマンの父親デュヴァル氏を踊ったジェイソン・レイリーが大変良かったです。息子の将来を考えているのだけど、マルグリットと話して彼女の人間性を認め、身を引く決心をしてくれた彼女に敬意を示す。その行動が納得できるほどの、真摯で知的で、温かさを感じさせる紳士でした。所作もとてもエレガントだったな。
この回ではデ・グリューをおどるマッテオ・ミッチーニに密かに注目していました。前回のガラ公演のときにコンテを踊ったのを観て、そのキレッキレの動きに魅せられ、デ・グリューはまた違ったダンスだけどどうなのだろうと。期待に違わず良い踊りだった。でもマッテオくん、真ん中を踊るにはあと5センチほど身長が欲しいんですよねー😓
それにしても、本作は全てにおいて本当によくできたバレエ作品ですね。カテコでノイマイヤー氏が登場し、一際高い歓声があがっていました。
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