ニュージャージーのQのクリニックで、Qは看護師を事務室に集めて、短いミーティングを敢行していた。独立開業した当初は、経営の軌道に乗らずに、しばしば黒字と赤字を行き来したが、今では均衡点を見出し、徐々に経営のほうも安定してきた。だが、油断はできない。いつどこで患者から見放され、再び経営が傾くこともある。念には念を入れ、用心は必要だった。
Q:「胎児の脳が形成される仕組みは、生成と淘汰の壮絶な進化の過程を追体験していたのか。脳はどの機能から発達していくのかというと、生まれた時は右脳も左脳も同じ働きをしている」
看護師:「そうなんですね」
Q:「知能は脳の重さや密度より、前頭葉、脊椎の比率で決まる。知能指数や記憶力の良さが先天的に遺伝することはない。右脳派と左脳派は、利き手とは無関係の精神活動に由来する」
看護師:「Okay, what is next?」
看護師がそう言うと、Qは脳外科医として日頃からも自己研鑽を積んでいて、今でも自宅の書斎のデスクの上には参考書が山積みにされている。まだその研究を極めた、いわゆる博士論文を提出するまでには至っていないが、それでもこうして口頭試問のようなことを行ってきて、次第にゆっくりとではあるが、自分の専門領域に自信もついてきた。
Q:「脳は何を栄養にしているかというと、大好物はブドウ糖(ご飯、パン、麺類、砂糖)。タンパク質は脳の基本的な機能を高める(大豆製品、卵)。DHAは脳細胞を活性化し、働きをよくする(イワシ、サバなどの青魚、マグロのトロ、ウナギ)。ビタミンB1・Eは脳の神経の働きを支える(豚ヒレ肉、アボカド、アーモンド、ライ麦パン)」
看護師:「あら、それを聞いたら、今日から試したくなりますわ」
Q:「成人男性では1日に160グラムのブドウ糖が必要。脳のお掃除屋さんであるマトウ細胞は脳の血管にへばりつく脂肪やタンパク質を食べる大食細胞の仲間。脳梗塞や脳卒中を防ぐ。アーモンドやタラコを食べるといい」
看護師:「Wonderful. You are great. Our patient can't move his right hand and right leg freely because of a stroke.」
Q:「人間が眠っていても脳は眠らない。脳死は心臓死までの過渡的な状態。You'd better get more sleep.」
看護師:「Body temperature drops during sleep.」
Q:「How many hours do you sleep a day?」
看護師:「6 hours or so. I cut down on my sleep these days. My sleep was disturbed by the sound of fire engine sirens yesterday.」
Q:「Sleep apnea syndrome, sleep disorder and so on. You have to take a sleep-inducing drug.」
看護師:「Am I lack of sleep?」
Q:「A little. You catch up on sleep. You haven't been getting enough sleep lately.」
そんな話がQと看護師の間で取り交わされていた。医師としてQが看護師の健康状態もチェックし、その予防策として、第一義的に毎日の睡眠がしっかり取れているかを確認している。