→Edit→つないだ手と手
あれからDはIとの初めてのデートで茨城県の観光名所である偕楽園に来ていた。手と手をつないで園内を歩く。綺麗に剪定された梅林が立ち並ぶ偕楽園。自然が織り成すハーモニーが素晴らしく、その中にいるだけで心が落ち着く。
I:「こういう場所もいいわね」
その言葉を受けて、Dは初めてのデートで偕楽園を選んだことにホッとした。お互いが文武で忙しい中で見つけた心休まる時間だった。
D:「今、就活中なんだって?」
I:「うん。なかなかうまく行かなくて…。どれだけ努力していても、神さまはそれを見てはくれていないんだなって思っちゃって。何だかこの世の中は実力の有無、世代間の負担なども不公平にできているなって」
D:「それを変えてくれる政治家の台頭に期待したいけどね」
I:「私たちの一票で変わるほど、世の中うまくできていない。結局は私たちの声は無視されてきているじゃない?」
政治学を専攻するDにとってはそれは耳の痛い話だった。その後、偕楽園の中でも、遠くに千波湖が見渡されるスポットに到着した。非常に景色のいい場所で、そこで語り合うのはきっとこれからの思い出に残るだろう。
I:「ねぇ、過去の日本の教授が企業組織へメール答案や卒論を無断転送しているって話…」
D:「あっ、その話なら俺も知っている。有名な話だ。嫌になるよ。俺たち学生を食い物にし、上のやりたい放題でさ。そのパンドラの教授と関連のある組織は自分とこの不正を、他社(他者)の不祥事を引き合いに出して報道している。これではいつまで経っても綱紀粛正にはならない」
I:「ホントにそうだね。いまだにその被害者は苦しんでいるんでしょ。私たちも自分たちがそうなるんじゃないかなと構えちゃうし、卒論だって警戒した中で書かないととなる。その件で履歴書も答案ものびのび自由に書けなくなってしまった。これでは日本の国際的競争力やレベルが下がるばかりだね」
D:「贈賄の容疑で立件されるだろうな」
その後、時刻も夜になってきて、二人は近くの屋台で夕飯を食べることにした。多くの露店が軒を連ね、美味しそうな匂いが鼻をつく。鼻腔をくすぐる匂いにDもIも食欲をそそりたてられる。
夜の星屑が照らす中で、二人は屋台で隣同士に座り、肉まんのようなものを注文すると、それを食べながら、
I:「あなたも就活を?」
D:「俺は正直、今はサッカーや執筆でそれどころじゃない。それに日本を揺るがす被害者の二の舞にだけはなりたくないしね。君の言う通りだよ。執筆の取材にしても、プライバシーを脅かされた監視下での取材活動はことのほか息苦しいし、委縮した取材活動や執筆になってしまう。取材源の秘匿など考えなきゃならない問題なのに、肝心の日本の本職のメディアがそれを守っていない。本当にお前たちは正規のメディアかよって思っている。情報の速報性は?情報の正確性は?俺、執筆をしていて、被害者の問題(パンドラの箱)はメディアの本質が問われているような気がするんだ。被害者はそれを提起しているような気がする」
I:「そうなんだ。まあ、サッカーで食べていけるといいね」
D:「将来はヨーロッパに行きたいんだ」
そんな話がちらほら出てくると、二人の距離はぐっと縮まり、今まで以上に辛気臭さはなくなっていた。
I:「ねぇ、この前あなたが言っていた『君へアシストを決めたら?君はゴールを決める?』ってやつ。あれにはどういう意味が?」
D:「そっちこそ、あの時俺を試すために、わざと15ー15とテニスのことを織り交ぜた」
I:「今はあなたにアドバンテージがある」
D:「俺はどちらかというとM(マゾ)。君にデュースに持ち込まれ、君がマッチポイントを握ったほうがいい。40-40だ」
I:「そう?それなら、早いとこキスでもしない?」
D:「Good deal. それは経済的にいい取引だ」
そう言って、二人の間のファーストキスが取り交わされた。肉まんを食べている最中で、突然の恋の掛詞に動じることなく、お互いに愛の糸が交差した。