Vは近づいてくるレスリングの大会に照準を合わせ、最善の準備をしていた。入念に調整し、無駄なことは排除して、イメージトレーニングを怠らない。
その中で、この日も練習に真摯に取り組むVがいた。そして、自分の練習後、今度はチームメイトで友人の⑤と㉞の対戦を脇で顧問監督と見守る。
顧問監督:「㉔首投げ。引手をとり捻るように投げる。捻るように上から下へ投げることがポイント。極まれば一気にフォール体勢に持っていける」
V:「㉕一本背負い。相手の足の中にしゃがみ込む。素早くしゃがみ、相手の正面に背中を向けて投げることが最大のポイントとなる」
→顧問監督とVの言葉の掛け合い→クロストーク
顧問監督:「㉖巻投げ。相手の腕を巻き込みながら回転する。腕をしっかり極めたら、巻き込んだ時に頭をあげることが大切」
V:「㉗カウンターアタック。横に交わして両足タックルに入る。試合でポイントをリードしている時、相手は必ず攻めてくる」
㉞と⑤は本気で対戦し、どちらにシロクロがつくか分からない中で、しのぎを削っていた。ここでも体力の消耗が激しく、その息遣いが練習場に低くこだましていた。そして、お互いがよく手の内を知っていて、お互いが相手の性格や素性も熟知しているため、対戦の中で、二人とも全く同じことを思った。一糸乱れぬその感情。
⑤&㉞(V.O.):「㉘伊調馨インタビューで、レスリングの奥深さを追求している。自分を追い込み、妥協しない。試合はリセットの場、終われば、すぐ次が始まる。どこまで強くなれるか?分からないから面白い」
激しい練習の中で、お互いが遠慮しているわけでない。相手の何もかもを知り尽くしているからこそ、そこに妥協はない。遠慮はない。それでも、この戦いは全くの五分だった。チームメイトの対戦を見るのも、強くなるための方法だ。
顧問監督:「㉜グラウンド技術。グラウンドでポイントを重ねる。試合で勝つためには、スタンドからの投げ技やタックルと同様に、グラウンドの技もしっかりマスターする必要がある。①アンクルホールド②ローリング③股さき④エビ固め」
V:「㉝アンクルホールド。足をクロスして極めてから返す。肩で相手の尻を押し、腰を立たせないようにしながら技に入ることがポイント」
→顧問監督とVの言葉の掛け合い→クロストーク
顧問監督:「㉞アンクルホールドの防御。足を伸ばした体勢をとらない。まずは腰を立てて自分の膝を曲げた状態にすることが大切だ」
V:「㉟ローリング。腕を深く差し込み密着する。しっかりクラッチしたら、右に回転する場合には左腕を深く入れて右腕を合わせる」
㉞が技を仕掛ければ、それをひらりと交わす⑤がいる。⑤が技を繰り出せば、今度はそれをひらりとしのぐ㉞がいる。時と場所を選んでいるわけではない。いずれチームメイトとは何か。親友とは何かを天から問いかけられているかのようだった。今はまだ答えは導き出されていないが、いずれその答えは出てくる。それは⑤も㉞も、そして、Vも今はまだ知らない。