Wは今日は相撲部の稽古場(練習場)で、チームメイトである部員と対戦していた。授業後の練習はことのほかキツい。体力も尽きてくる頃だからだ。それでも、他の部員仲間も必死で練習に励んでいる。それを見ると、辛い練習も乗り越えられた。「苦しいのは自分だけじゃない」。そう思って、練習に取り組んでいた。
顧問監督:「関脇以下は名誉ある三賞(殊勲賞、敢闘賞、技能賞)。十両で、待遇は天と地ほど差がある。幕下以下は『力士養成員』とされて基本的に無給だが、十両は『関取』の仲間入りとなり、給料が支給される」
Wと取り組みを行っている様子を脇で見守っている部員が相撲の極意を熱く語る。もちろん、相撲は二枚目だ。
部員:「髪型が変わる。大銀杏やちょんまげで、引退時は断髪式がある。また、付け人がつく。明け荷がもてる。そして、服装や住まいが変わり、塩がまける、ですよね?」
顧問監督:「ああ、そうだな。番付表は力士の格付けがひとめでわかるもの。ほかに行司・呼出・床山・審判委員など、大相撲を支えている人たちの名前も記されており、本場所のたびに最新のものがつくられる」
その間、Wは相手に顔面を張り手されて、一瞬上体がのけぞる。相手に右のかいなをとられた。だが、Wも相手の左の前まわしをとっている。必死の形相で、Wは喰らいつく。そして、取り組み(この練習対戦)の中で心に思った。
W(V.O.):「四股名には山や海のついたものが多い。それは江戸時代に大名に召し抱えられた力士が藩にゆかりのある名前をつけていた名残です」
そして、対戦相手も必死の表情をむき出しにし、上手投げを試みる。Wは体勢が崩され、思わず体が泳いでしまった。「ヤバい。負ける」とWは心の中で思った。
その時、クラスメートで密かにWに想いを寄せるQがこの練習を見に来た。
→その泳がされた体勢で、そのWの視界の中にQが入る
W(V.O.):「あいつ(Q)…」
その瞬間、Qの応援が力になり、Wはぐっと相手のまわしをとっていた手に力が入り、何とか体勢を持ちこたえた。この時、Wの足は俵上にぎりぎりで残っていた。土俵際の攻防で、もう少しで土俵を割るところだった。
相手(V.O.):「こいつ(W)…。なかなかやるな。手強い」
顧問監督(V.O.):「年6回の『本場所』の合間に、地方巡業や奉納相撲がある。奇数月に本場所。相撲では試合のことを『取組』という」
顧問監督:「本場所は東京、名古屋、大阪、福岡の4つの都市で年6回開催。両国国技館は国内で唯一の大相撲興行のための施設。土俵は神さまが宿っていると言われる屋形が上にある」
土俵上で激しい攻防が続き、飛び散る汗と肉体のぶつかり合いの音がけたたましく稽古場に響き渡る。体力の消耗が激しい。
W(V.O.):「横綱土俵入りには雲龍型と不知火型がある。結びの一番は最後のクライマックス」
QがWの取組を見守りながら、小声で囁く。
Q:「(小声で)その後、弓取式。本場所最終日を千秋楽。土俵上の作法もあり、勝負が決まった瞬間、軍配が上がる」
W:「勝名乗りを受ける!」
Q:「W!!」
その瞬間、Wは放さなかった相手の前まわしをぎゅっとさらに強い力で掴み、相手が上手投げを放とうとした、その力を使い、いわば、その反動を逆利用し、Wは小手投げを仕掛け、それがものの見事に決まり、その言葉通り、勝ち名乗りを受けた。
練習後、着替えを終えて、Wは勝利の女神となったQのもとに駆け寄ると、少々照れながら、「一緒に帰るか?」と問い、その言葉を受けたQは頬を赤らめて、「うん」と答えた。何とも中学生らしい。そう、まだ中学生の甘酸っぱい恋の味だ。