その後、仕事を終えたA②はその足で、Yの自宅に行き、玄関のドアを叩いた。中から、Mが出てくる。
A②:「差し入れ、持ってきたわよ。梅とタラコのおにぎり
M:「ありがとう」
そう言って、Mはいつものように中の日本間に通し、キッチンからお菓子とお茶を持ってきて、囲碁を始めた。今度はMが先手で黒の碁石、A②が後手で白の碁石だった。
A②:「詰碁には捨て石が効果的に決まることが多い。問題1、白1子が取れそうな形ですが、果たして取る手が正解なのでしょうか」
M:「何だ、これは?」
そして、次々と問題となる盤上に碁石の並べ方を変えていくA②。Mもそれに見入っていた。
A②:「問題2、急所と相手を狭める手の2つが気になります。セキにならないように注意しましょう。問題3、この問題は明らかな急所があり、そこに打ってからの攻防が肝となります。その後の攻防がどうなるか、しっかりヨミをいれていきましょう」
M:「問題ばかりで、何だか学校の宿題みたいだ」
またしてもA②は盤上で陣形を変えて、Mに問題を提起した。
A②:「問題4、『敵の急所はわが急所』という格言がありますが、互いの急所を逃さないようにしましょう。問題5、白が生きてしまったように見えますが、黒からうまい手があり、白を殺すことができます。これですね。黒1と普通に取ってしまうと、白2と打たれ生きてしまいます。実戦では思わず取ってしまいそうですが、失敗となります。これはどうでしょう?正解は黒1のサガリです。白2と打っても黒3ととれるのがポイントです。分かりましたか?」
M:「なんとなく」
A②:「問題6、生きているような、死んでいるような、非常に難しい形です。オイオトシの筋を見逃さないようにしましょう。問題7、黒がアタリの状態です。単純にツナいでよいのかしっかり読んでみてください。問題8,コウになりそうな形ですが、ダメ詰まりをしっかり読み切って白を取ってください。問題9、黒が生きる問題です。ダメ詰まりに気を付けてセキでの生きを目指しましょう」
そう説明を加えて、A②は分かりやすくMに囲碁の極意を伝授していった。「いつか私を超えて見せてください」といわんばかりに。
A②:「これは詰碁のお話ですが、私の修業時代、道場で詰碁テストというものがありました。点数がよいとお菓子がもらえたりする楽しいイベントにして、先生たちが取り組ませてくれました。自分はあまり詰碁が得意ではなかったので、なかなかお菓子をもらえた記憶はありませんが、藤沢里菜女流四冠と一力遼二冠はいつもお菓子常連だったと思います。今になって思うのは、子供の頃から詰碁が強く、読める子はもれなく活躍しているなということです」
M:「じゃ、僕のお菓子もまんざら…」
A②:「そうですね」
そう言って、二人ともにこやかに笑っていた。やっぱり囲碁だけでなく、将棋もお菓子とお茶は必須だ。長考で頭を使い、その間、息抜きに間食することはいいことだった。