その頃、警察官のYは警察署内のオフィスで、捜査に入る前に、後輩たちに業務連絡をしていた。
Y:「警察の中にはさまざまな職種がある。警察官と言えば常人をはるかに凌駕する体力や強さがないとなれないと思っている人も多いが、決してそんなことはない。職種の中にはそれほど体力や強さを必要としないものもある」
すると、後輩の女性警官がおもむろに口を開く。
後輩①:「そうですね。私も実際に警察官になってみて、そう実感しています。なる前は余計な先入観にとらわれていました」
Y:「ただ、『人の役に立ちたい』『悪は許さない』という思いは全員同じ。このような思いを持っている人はぜひ、だな」
後輩㊷:「警察官には警察庁と都道府県警察の2種類がありますよね?」
Y:「その通りだ。前者は各都道府県警察を指導・監督する国家公務員、後者はほとんどが実際に各種警察活動を行う地方公務員だ。2023年度の全国の警察官の数は警察庁が約2300人、都道府県警察が約26万人と、圧倒的に後者のほうが多い」
そんな話をしては、捜査に乗り出す前のストレッチとして、頭の中を一度リセットする。警察官とて完璧ではない。
Y:「地域の治安を守る最前線に立つ警察官。日夜街を駆け回り、平穏な暮らしを守る。警視庁亀有警察署の方のことだが、志望動機は兄の影響で警察官になった。警視庁ではほとんどの警察官が警察学校を卒業して最初に配属されるのが警察署の地域課。いわゆる、交番のおまわりさんだ」
後輩㊷:「我々と同じですね」
Y:「ああ。任務は地域の実態に合わせ、日常生活の場で起こるさまざまなトラブルや事件、事故などに素早く対応し、地域住民の安全と平穏を確保すること。つまり、地域警察は地域を守る最前線であり、新任警察官にとっては基礎を身に着け、実力を養っていく場でもある」
後輩①:「それを聞かされると、非常に身が引き締まります」
後輩たちはぐっと精神を引き締め、その制服が輝く。
Y:「勤務中は制服を着て、警察手帳、手錠、拳銃、警棒、警笛、懐中電灯などを装備する。交番勤務には数多くの仕事がある。まず、交番にいる時は、来訪者の対応。なくした物(遺失物)の相談に来る人や、拾った物(拾得物)を届けに来る人に対して遺失物・拾得物の受理、行きたい場所やそこへのルートがわからない人への地理案内、置き引きや万引きなど何らかの被害にあった人に被害届の受理など、それぞれの事案に応じて臨機応変に対処する」
そんな話をしては、警察官としての心構えや基本を叩き込む。まだこうした場があるだけいい。それもないほど激務に追われると、その忙しさから、警察官としての基礎が軽視されがちになるからだ。
そうしたいきさつも知っているから、Yは事件の核心を大切にしてきた。
Y:「それじゃ、事件の核心であるサイバー犯罪の捜査の話をこれからする」
そう言って、後輩たちに本題へと呼びかけた。