3人はその後はレスリングの練習場に着き、更衣室で着替えを済ませると、気合を漲らせて、早速試合を想定して練習に入った。
→Costume-Design→レスリングのユニフォーム
顧問監督が細かく指示を出し、試合前の士気を高める狙いで、激しく檄を飛ばす。
顧問監督:「⑫スタンド技術をマスターしよう。試合は当然ながらスタンドの状態から始まるため、いかにして相手を倒すのかが、キーとなる。そのため、まずはタックルをマスターし、スタンド技術を磨くことが重要になる。①両足タックル②片足タックル③投げ技だ」
V(V.O.):「⑬強く当たり真後ろに倒す。基本の両足タックルは、相手の脇に頭を入れて、強く当たりにいく感覚で、真後ろに倒すのがポイント。両手は相手の膝関節裏をしっかり極めることが大切だ。⑭空中で両足をコントロールしながらフォールする」
この日、Vは練習で対戦相手に、友人の⑤が入った。⑤も素晴らしい選手で、試合前の腕比べとなる。力量も申し分ない。
友人⑤(V.O.):「⑮腕を極めてからタックルに入る。①かかとを押さえることで逃げることができない」
友人⑤がタックルをすると、それがVにものの見事に決まり、ポイントを奪われる。油断すると、対戦相手の強敵は牙をむく。特に、試合で勝ち進めば進むほど、心に隙を作ってはならない。
だが、Vも洗練されてきていて、その技量は折り紙付き。はるばる日本からこのスウェーデンの地に留学してきているだけに、その心意気は半端ではない。
V(V.O.):「伊調SPとして、両足タックル後、4の字固めを仕掛ける。素早く手を持ち替えて足を極める。テイクダウン後、素早く連続技で仕掛ける。相手を回転させてポイントを稼ぐ方法も考えられる」
V:「ここだ!!」
Vが⑤の両足を封じにタックルを仕掛けるが、これがひらりと交わされる。さすがにここまで来ると、お互いが一歩も引かない均衡した戦いとなっている。それを脇で見守る友人㉞がいた。㉞が囁く。
友人㉞:「⑯バックステップで相手から離れる。このバックステップができないと、相手に足をとられて攻撃されてしまう。①相手を懐に入れさせない②相手の顔をきってバックステップする」
顧問監督:「⑰片足にしっかり当たり相手の足首をコントロール。細かくいうと、①右手で足首をとり左手で膝をとる。足をとったら、自分のほうに引いたり、横に動かしたりと相手を揺さぶって倒すのが基本だ」
V(V.O.):「伊調SPとして、片足タックルに入ったら、相手の足首をコントロール。コテ(上から抱え肩を極める)を極められた場合には、片手で相手の足首をコントロールして立ち上がる。高谷SPとして、低いタックルから相手をかつぎ、回転をしながらバックをとる」
V:「隙あり!ここが狙い目!!」
友人⑤(V.O.):「しまった!!」
Vのタックルが見事に決まり、⑤の背後を取り、ポイントを奪い返す。
顧問監督:「いいだろう。そこまでだ」
この対戦はお互いが一歩も引かず、両者同点となり、引き分けで終わった。チームメートが対戦相手となると、やはりやりにくさはある。特に、それが仲のいい友人ともなれば、なおさらだ。それでも爽快な汗を流すことができた。
練習での戦いの後、Vは⑤のほうを見ると、お互いが真剣な顔つきから、目が合って、柔和な目つきや表情へと変わった。
→Close-Up→柔らかなVの目つき
V:「オリンピックの発祥地は古代ギリシャ。今から約2800年前」
顧問監督:「近代オリンピックの第1回大会は1896年の春、ギリシャのアテネで行なわれた。それから108年、第28回大会が再びアテネの土を踏み、オリンピックは生まれ故郷に里帰りすることになった。近代オリンピックは、フランス貴族で教育者だったピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱によって誕生しました。4年に一度、世界の人々を熱狂させる平和の祭典オリンピック。ちなみに、第2回大会はフランスのパリだった」
そんなことを話すと、Vの表情は一段と引き締まり、自分が主役になるんだという意気込みで、精神を引き締めた。
→BGM:ゆず, “栄光の架橋.”