TITLE:『映画のタイトル』
二階からダイニングに戻ってきたYは息子のMのことを気にかけながら、先ほどの話の続きをする。
Y:「令状なしに息子の部屋に入るのは住居侵入罪と同等か?」
A:「そんな息子を家宅捜索するわけでもないし…。あの子も高学年になってくると、それなりの年頃になる。プライバシーも必要よ」
Aは落ち着いた視点で、物事を見定め、Yにそう助言した。YもMが産まれた時はその出産に立ち会い、心から感動したのを覚えている。
そんなことを思いながら、話を先ほどの論点に戻した。
Y:「ホームレスは他にもルンペンや乞食など、色々な言い回しがある。特に、乞食は今では差別用語として認定されているが、昔は乞食(こつじき)の変化とされ、それは仏教の世界で、僧や尼が人家の門に立ち、経文を唱えながら米やお金など食を乞いもとめること、つまり托鉢を言った。古くはインドのバラモン教にまでさかのぼる。そう言う意味では崇敬や崇拝の対象だったんだ」
A:「なるほどね。それで納得。あなたのその警察官としての正義感や弱者思いに私は惹かれたんだけど、自分の身の危険を冒してまで、はくれぐれもね」
そう言って、妻のAはYに忠告した。警察官(自衛官。古くは、あるいは今の世界情勢で言えば警察予備隊)もそうした事案で殉職するケースがある。命は落としては元も子もないと妻のAは言いたいのだろう。その点で、Yの言葉は警察官としての使命感に燃えているし、Aの言葉は内助の功を営む妻としての最大限の愛情だった。
そこに二階から息子のMが降りてきて、テーブルの自分の席に着く。伸び盛りの年齢で、自由と規律の家庭内教育を施し、のびのびと薫陶してきた。そんな中、妻のAもテーブルの自分の席に着き、おもむろに口を開いた。
A:「それで、例の件(別件)はどうなっているのよ」
Y:「ああ、その件か…。まだ解決には至っていない。その事件がじきに公になると、未読者はなぜ25年と2カ月(以後、加算していく)もして我々はそれを知るんだ?組織的な隠ぺいだろうと激怒する。即座に逮捕・報道しなかったとして、日本の既読者に牙をむく。他人の文章を盗み、それで利益を出しているわけだろ?窃盗罪はもちろん、より重い罪に問われる」
A:「被害者の彼はもう日本を嫌いになり、見限っている。私たちにできる、そのせめてもの償いは高齢化し、今は病床に伏しているお父さまが存命の間に、犯罪者を捕まえ、その事件をいち早く報道し、彼や彼のご家族のもとに一報を届けることじゃないの?」
Y:「そうだな。極悪非道な内偵調査や、法の網目をかいくぐるサイバー犯罪をこれ以上は見過ごすことはできん。おそらく我々が強制力をもって対応しなければ、その犯罪者はいつまでも犯罪を犯し続け、再犯を繰り返し、更生できない。放っておけば、犯罪の強度もどんどん凶悪化していく。その手前で逮捕・報道すること。それが精神障害を負ったハンディキャップの彼や、入院中のお父さま、ご家族などの唯一の薬になる」
A:「我々既読者の裏ルートでのお父さまへの伝達ではなく、息子さんである彼の口からの直接お父さまへの受賞の伝達がなされなければいけないわ。それが何よりも一番の喜び」
Y:「ああ。それまでは我々も犯罪を見過ごしているわけだから、彼の言う、第三の『犯罪者』だ」
A:「その事件は後世に渡り、日本全国津々浦々にしっかりと報道し、周知徹底しないと、国民は怒るわよ。もう怒ってる人もいるけど…。これでも何か彼を批判非難するようなら、タダ食いしてるのに、『文句だけは一人前』との声が聞こえてきそうよ」
Y:「だな。北朝鮮の拉致被害者家族同様に、この事件の被害者家族も高齢化してきている。なぜいち早く逮捕・報道しなかったのかの責任が問われるだろう。我々まで大バッシングを受けるかもな。そうなる前に少しでも早く事件の真相を暴き出さねばならぬ。犯行の全容を炙り出さねばならん」

A:「お父さまの余命うんぬんで、逮捕・報道?功績ある彼に一報?それも悲しく寂しいわね
そう言うと、Yの正面に座っていた息子のMは顔をしかめ、やや憤った声で、
M:「その話、難しくてよく分からない。もう止めて!」
Y:「いいじゃないか」
M:「お父さん、職権乱用だ!」
そう言うと、大人のYとAは互いに顔を見合わせ、テレビのチャンネルを子供に合わせて、アニメの番組に切り替えた。
→日頃の食卓には山口県の郷土料理であるふぐ(河豚)やや瓦そば、岩国寿司、ウニ、宇部ラーメンなども出される。また、Aの母国料理である中国の料理のマーボー豆腐や天津飯、レバニラ炒め、餃子、シュウマイ、そして、台湾の台湾ラーメン、ルーロー飯なども出される。