→CAPTION:公式戦A
次は跳馬。この段階に入ってくると、やや緊張感から解放されて、試合全体が冷静に見渡せるようになってくる。いわゆる、「試合に入った」段階。
K:「『跳馬』。前方系、ツカハラ系、前転とび、前転とび前方抱え込み宙返り、屈身クエルボ、伸身ツカハラ、伸身カサマツ、アカピアン。跳馬の成否を決める着地の止め方を徹底的にトレーニングする」
D:「新しい技への挑戦は、高さのあるマットで背落ち、腹落ちの練習から。規定演技でも行う基本中の基本の技は誰よりも美しく決めよう。抱え込み姿勢を素早く作って余裕をもって回転しよう。屈身姿勢はできるだけ小さくなって回転力をつける。1/4ひねりで跳躍に入り、後方伸身宙返りを雄大に決めよう」
この種目でTは一つ順位を下げた。だが、トップに立つ望みは十分にある。
→CAPTION:公式戦B
その次はつり輪。兄のKが骨折した鬼門の種目だ。だが、弟のTはこれを得意種目とする。心置きなく演技することを心に誓い、スタートした。
T(V.O.):「つり輪の基本『振動』と『支持』をトレーニングで身に着ける。懸垂前振り上がり支持、け上がり~脚前拳支持、後方伸身宙返り下り。美しいスイングと正確な支持を確立して高難度の技につなげる。静止は確実に2秒止める!正しい姿勢の支持で強さと美しさをアピール。のびやかな伸身宙返りを着地まで確実に決めて高い実施点を狙う。俺の好調の時の演技ができた」
鬼門の種目を終え、まずまずの得点を出し、ここで逆転。再びTがトップに立った。
→CAPTION:公式戦Aの「団体戦」
団体戦の平行棒に、単独で演技にKの代役として選ばれたT。大いにプレッシャーがかかり、何かと萎縮する。
T(V.O.):「俺は…」
K:「T!思い切って行け!」
D:「平行棒。平行棒のたしかな基礎をトレーニングで身に着けておこう。支持歩行と懸垂、スイング倒立、前振り~開脚抜き倒立、棒下宙返り懸垂、後方伸身宙返り下り。移動技にも発展する基本中の基本の技は隙なく美しく実施する。棒下系の技の基本形。全ての局面で美しい姿勢を保持しよう。演技全体の印象を決める下り技は堂々としっかり着地まで決めよう」
演技を終えた瞬間、Tは電光掲示板の得点を見た。そして、すべての演技種目を終えて、電光掲示板の順位を確認するT。
→CAPTION:公式戦Bの「団体戦」
団体戦の鉄棒に、単独で演技にKの代役として選ばれたT。大いにプレッシャーがかかり、何かと委縮する。
T(V.O.):「俺は…」
K:「T!思い切って行け!」
D:「鉄棒。床の上で徹底的に鉄棒の基本姿勢を体に覚えさせよう。後方車輪、ぬきとあふり、ホップターン、エンドー、アドラー、ヤマワキ、後方伸身宙返り下り。後方車輪は全てに通ず!減点しようのない質の高い車輪を目指そう。懸垂振動技に不可欠なひねり技のスタート地点。隙なく美しく実施しよう。バーに近い技の定番演技のアクセントになるエンドーを究める。C難度ながら玄人ウケする渋い技アドラーで差をつける」
演技を終えた瞬間、Tは電光掲示板の得点を見た。そして、すべての演技種目を終えて、電光掲示板の順位を確認するT。
→CAPTION:公式戦A
電光掲示板の順位は2位。悔しい敗戦となった。その瞬間、悔し涙を流す弟のT。それを脇で見ていた兄のKはそっと弟のTのもとに歩み寄り、優しい言葉で慰めた。
K:「よくやった。素晴らしかったよ。何も恥じることはない」
→CAPTION:公式戦B
電光掲示板の順位は1位。見事に優勝を飾った。その瞬間、嬉し涙を流す弟のT。それを脇で見ていた兄のKはそっと弟のTのもとに歩み寄り、優しい言葉で労った。
K:「よくやった。素晴らしかったよ。お前の実力だ。優勝だ」
兄と弟はそこで抱き合い、優勝の喜びを分かち合った。苦労をともにしてきて、兄の背中を追ってきた弟が大きく羽ばたいた瞬間でもあった。
→最後のCAPTIONは公式戦Aと公式戦Bのアンサンブル(半透明の映像をダブらせる形での合成映像)で、その調和が体操競技の勝負の世界を、これまでのオリンピックで日本が重ねてきた歴史を表現。