そして、控え室に戻り、そこからいよいよ本番用のメイクと衣装に着替える。

→Make-Up&Costume-Design→本番用の化粧と衣装

Qは会場に入り、舞台の上に立った。Nも舞台の中央に立って、その時を待っている。そして、Pも会場の一番前の席を陣取り、そこで#が来るのを待っている。胸の鼓動が高鳴る。
→Sound Effect→心臓の鼓動音
そして、舞台袖からNの妹の#が現れた。生き別れになり、ウクライナに亡命した#。そこでも音楽のピアノを続けていた#。涙の再会となった。
→Make-Up&Costume-Design→#の奇抜な化粧と衣装
そこで、Nと#は涙を流し、中央で抱き合う。
N:「やっと会えた」
#:「ホントだね」
それから、再会したのもつかの間、Qと#がこれまでに練習してきたショスタコーヴィチの曲を弾こうとする。Qはヴァイオリンを構え、#はピアノの椅子に着く。二人の呼吸は合うだろうか。いわば、ぶっつけ本番だ。
P(V.O.):「(フラジオレットポイントと呼ばれる倍音が出る位置に指を触れて出す自然ハーモニクスと、人差し指+小指の2本を使って出す人工ハーモニクスがある)弓を跳ねるように動かすスピッカートとサルタンド。様々な奏法がヴァイオリンの音色を引き立てる。(ポンティチェロは駒の近くを弾く特殊奏法。右手のトレモロと左手のトリルは音を細かく震わせる奏法。グリッサンドとポルタメントは指を滑らせる奏法)」
Qは美しい音色を引き出す。それと同時に、#も美しい音色を奏でる。二人の重奏が見事に溶け合う。この素晴らしいハーモニー。それを見たPも驚嘆している。「本当にこれが初めての出会いで、初めての重奏なのか」と。
ショスタコーヴィチの『革命』は美しいハーモニーを奏で、その重奏がロシア全体を覆い尽くした。そして、次に奏でるのがベートーヴェンの『運命』だ。実は、NとQはこれを機に、婚約することになっている。いわば、二人が奏でるのはウェディングソングだった。
Qも#もNも緊張の瞬間だった。固唾を飲む。そして、演奏が始まった。
P(V.O.):「楽器編(美しい音色を保つためのメンテナンス術)美しい音を奏でるために欠かせない毎日のケア。(演奏後は楽器にこぼれ落ちた松ヤニを布でふき取る)楽器の保管には細心の注意を。弓のコンディションがボウイングを左右する。(弓の毛替えは定期的に)弦は劣化する前に張り替えよう。ヴァイオリンの心臓部ともいえる「駒」。楽器の体調は楽器店や工房で診てもらおう。よい楽器は時間も場所も超え、受け継がれていく。君たち(Qと#)は完璧だ」
そう心の中で唱えると、見事なまでにQのヴァイオリンの音と、#のピアノの音が調和し、美しい重奏音が響き渡る。その音はどこまでも果てしなく流れ、ロシアの全土を感動で震わせた。
演奏が終わり、P教授は拍手を送り、Qと#はともに歩み寄り、きつく抱き合った。まるで姉妹であるかのように。そして、そのウェディングソングを聴いたNはおもわず涙ぐみ、隣にいるP教授とがっちりと握手を交わした。