場所をHの家に移す。自分の家のアトリエで卒業制作に取り掛かっていた。ここでもその特徴ある鉛筆を手に握っている。
→Props→特徴のある鉛筆
H:「画材の選び方と使い方。油絵具、油彩筆(最初は豚毛、セーブル筆などがおすすめ)、筆洗油・筆洗器、ナイフ類(ペインティングナイフ・パレットナイフ・スクレバー)、画用液(溶き油)、助剤(画面修正用ワニス)、パレット、油壷、絵具、キャンバス、イーゼル、キャビネット」
H(V.O.):「画室を整える。直射日光を遮り、照明に工夫を。創作意欲を刺激する空間づくり。下地塗り(①絵具の食いつきをよくする②絵具の乾燥を早める③発色をよくする④キャンバスの目を埋めて、筆触を繊細に伝える。描いてみよう」
そこに美大の恩師の言葉が天から聞こえてくる。(天の格言)
→美大の恩師の半透明の姿が映像で
恩師(V.O.):「静物画(モチーフ選びと配置計画)、エスキースを使う(デッサンする、縦・横配置を比較する、余白の形と動きの方向性を探る、線の強弱をイメージする、明暗のバランスを見る、前景・中景・後景を確認する、彩度を調整する、色彩計画を考える:下絵を描く、おつゆ描きをする、着彩する)、キャンバスに下絵を描く、着彩する。これは風景画、人物画、創作画でも同じ」
そこに玄関のインターホンが鳴った。Hは誰だろうと思い、玄関先に出てみる。
→Sound Effect→玄関のインターホン
玄関の扉を開けると、そこには恋人のKが右足に大けがを負い、その骨折した足にギプスを巻き、松葉づえ姿で現れた。
K:「ごめん。こんな遅くに…」
H:「うん。どうしたの?」
その姿を見て、驚くH。
K:「いや、骨折して…。次の大会はもう絶望的だ…」
H:「そうなの?それは残念」
しばらく沈黙が流れる。だが、Hはそんな意気消沈しているKを励まそうと、何かと気を配る。
H:「フランス・ハルス、フォンテーヌ・ブロー、ジョルジュ・スーラ…。この画家たちも苦難を乗り越え、のちに大成した。きっとあなたも…」
K:「でも、俺には…」
H:「ねぇ、この前、私が言っていたあなたを卒業制作に取り入れたいってやつ。あなたの写真を撮って、それを油絵の中の風景画と合成したいの。そう、私の卒業制作は風景画と人物画の融合」
そう言って、その姿を手に持ったカメラでパシャっと撮影した。
→Sound Effect→カメラの撮影のパシャっという音
これは少し無神経だったかもしれない。少しだけ反省するH。だが、気を取り直して、
H:「デッサンの基本。イメージを形で表現するためには、『しっかり観る力』と『描く技術』がカギになる。この2つは油彩制作に必要な『デッサン力』。デッサンとは、線、明暗、タッチ」
線は輪郭線、稜線。タッチはハッチング。明暗は明暗でものをとらえる意識、固有色のとらえ方。デッサンの流れは配置を決め、構造を探りながら形を整え、立体感をつくり、最後に細部を描きこんでいく。調子は階調を広げるレッスン、①余白のバランスを探る②基本の形で包み込む③垂直・水平で奥行きを探る④比率を測る⑤線を結んで位置をとらえる⑥三角形で位置を探る⑦弧を描くように形を取る⑧明暗のバランスを見る⑨中心軸をとらえる⑩輪切り線で見る⑪動きと重心のバランス⑫立方体でとらえる⑬円筒形でとらえる⑭面でとらえる⑮骨格で構造を見る。質感の表現。空間の表現(一点透視図法や二点透視図法)。
Hがデッサンの説明をしていたその瞬間、Kが怒りをぶちまける。
K:「やめろ!無神経だぞ!!」
その怒声を聞いて、Hはしばし沈黙する。重たい空気が流れる。このケガをして、運命を賭けた大会に出られない悔しさ。そして、その憤りとこの絶望の中、その哀れな姿をカメラで撮影するHに怒りをぶちまけた。
H:「ごめん。許して…」
重く長い沈黙が流れ、それを嫌ったHが、
H:「フェルメール、エゴン・シーレ、レンブラント…。 これらの画家は絵画に明暗を取り入れ、光を特徴とした絵画を。あなたにも光がきっと当たる」
K:「慰めはよしてくれ!一体俺の何が分かるというんだ!」
そう言って、KはHにくるりと背を向け、怒りをぶちまけ、帰って行った。何とも後味の悪い別れ方だった。この恋はもう終わってしまった?
Edit&Props→Hの手に握っている特徴のある鉛筆