練習に励む兄Kの姿を目に焼き付ける弟のT。こうした相乗効果を生む作業が二重螺旋状の階段となって、二人の上昇を支えている。Kは得意のゆかで、神技を次々決めると、脇で見守っていたTのところに戻ってきて、声をかける。
K:「まだ俺には改善の余地があるけど、何だか最近は技にしっくりこない」
T:「それはどうして?」
K:「上昇志向が欠けているのかも…」
T:「アニキのことだから、そうしたスランプも乗り越えられるよ。…それより、今日の帰り、マックに立ち寄らない?安くて美味しいから」
K:「それはグッドアイデアだ」
そう言って、おしゃべりをしていると、顧問監督Dが目ざとく見つけ、
D:「さあ、練習に集中しろ。大会は近いんだぞ」
そう言われ、Kは「おっと、いけね」と言い、素早く練習に取り掛かった。それを見て、弟のTも「集中、集中」と言い、あん馬の練習に取り掛かり、次々と技を決めていった。
このぐらいのレベルになると、顧問監督のDも特段教えることがなくなってくるが、そこは如何せん、まだ習熟度の薄い大学生だ。外の世界の刺激を求めて、正規の道から外れたりもする。そこを顧問監督が見抜いて、正しい方向に導いてやらねばならないと感じていた。
D:「さあ、気合を入れていけ!」
Dはそう声を張り上げ、両手をぱんぱんと叩くと、部員たちに檄を飛ばした。
練習後、KとTは早速帰路をともにし、近くのマクドナルドに立ち寄った。二人が注文したのはメガマフィンセットだった。
夜も遅く、マクドナルドの店舗の窓には外の煌びやかなネオンや景色が反射して映っている。
Reflection Shot&Gaffer→マクドナルドの窓に反射して映る外の景色と、中のKとTの兄弟二人の姿を二重にとらえる
K:「これでお腹が膨れると、夕飯を作ってくれている母さんに悪い」
T:「だね。でも、練習後は本当に腹が減る。カロリー計算もほどほどに、だね」
K:「しっかりと体重計には乗っているか?」
T:「まあね。こう見えても、体調管理やコンディションには気を遣っているんだよ」
そう言って、弟のTは兄のKを安心させた。素早く注文したメガマフィンセットが出されてきたので、二人はそれを受け取り、店内のテーブルを陣取り、そこでそれを食べた。その美味しさが口の中に溶け広がり、舌の上で弾ける。
T:「ねえ、アニキ。今度、美大の子が芸術鑑賞にとウチらを誘っているんだ。気分転換にその絵画展でも見に行かない?」
K:「絵画…。個展か…」
T:「何でも、フランスの花(華)の都パリの美大に推薦されている子なんだ」
K:「そうか…」
Kは行くか、行かないかに迷っていたが、たまには気分転換にそうした芸術に触れてみるのもいいだろうと判断し、
K:「よし。じゃ、たまには行ってみるか」
そう笑顔で答えると、
T:「そうこなくっちゃ」
とTは言い、出されたメガマフィンセットをがさつに食べ、ぱくりと素早くたいらげた。