それからPとQはカフェに入り、窓際奥のテーブルに着いて、アイスクリームを注文した。
Q:「Can I take an order?」
ウェイター:「Yes, please.」
P:「Two ice creams.」
ウェイター:「Certainly.」
そうして注文し終わると、2人は少し会話を挟んだ。
P:「なあ、Q。君は音楽をやっているけど、どうして音楽に興味を?」
Q:「どうしてって言われても…。もうずっとやっています。小さい頃にショスタコーヴィチに憧れて。それでロシアのモスクワ音楽院に留学を。そこからここに流れ着きました」
P:「I see. ショスタコーヴィチはロシアの作曲家でピアノ奏者だ。レニングラード音楽院の教授。ソ連時代の重要な作曲家の一人で、鋭い知性と感性、高度な技術が一体化した独自の様式を打ち出す。交響曲・弦楽四重奏曲のほか、歌劇『鼻』、『ムツェンスク郡のマクベス夫人(カテリーナ・イズマイロヴァ)』、オラトリオ『森の歌』、バレエ音楽『黄金時代』などがある」
Q:「I know, I came here to study that.」
P:「君はもちろんドビュッシーやハイドンを知っているだろう。でも、少なからずその音楽家たちから刺激を得るのは良くないとも私は最近になって思うんだ」
それを聞いて、Qは思わず心の中で「えっ?」と思い、その回答を待った。
P:「君ぐらいのレベルになると、あまりにそれらに埋没して、ミスリードされる危険性もある。そうならないために、あらかじめ君に言っておきたいことがあるんだ」
Q:「What's that?」
P:「ドビュッシーはフランスの作曲家。マラルメら象徴派の芸術運動の影響を受け、印象主義に向かい、従来の楽式・和声を棄て、新しい和声法・音色法に基づき、感覚的印象・夢幻的気分を表出。管弦楽曲『牧神の午後への前奏曲』、歌劇『ペレアスとメリザンド』などがある」
Q:「Yes, I know... And what?」
P:「この2人から何が言いたいか分からない?」
Q:「No, what's that?」
そう言うと、P教授はクスッと笑って、表情をにこやかにし、
P:「君はまだ青い。先日、モスクワ郊外でコンサートテロがあっただろう。それに今ロシアはウクライナと交戦中だ。その追悼を表す意味でも、知っておくといい。ドビュッシーはフランス人だ。フランスでは平和の祭典オリンピック・パラリンピックが控えているだろ?もう分かるだろ?」
それを聞いたQはハッとさせられ、自分の知識不足を嘆いた。そうだったと。その後はハイドンがオーストリアの作曲家で、オラトリオ『天地創造』や『四季』などを作ったとかなどと話し込んだ。
Q:「Professor. I have to study violin more. I want to be a famous violinist in the future.」
P:「Of course, I hope so. そうなるために、今私も最大限の援助を惜しまないし、そのための指導をしている」
Q:「スパシーバ。I play the violin. The first violin. I play "the Spring Sonata" on the violin. And I make a violin solo by myself.」
P:「そうなると、ピアノの重奏者も必要になってくるだろう」
教授のPはそう言うと、Qもにっこりと笑い、2人の間に笑みは絶えなかった。Qはロシアが今もなおウクライナに軍事侵攻している最中でも、ロシアに居残り、音楽のことを勉強し続けている。ロシアへの思いが強く、それだけ長引いてほしくないとも思っている。長引けば、それだけロシアにとっても、ウクライナにとっても不利益となる。その思いが届くといいとP教授も思っていた。