Oが南米大陸で初めて舞台にしたのはブラジルだった。南米大陸のブラジルにはびこる麻薬問題や貧困、メルコスールやBRICSに見られる経済、そして、サッカーに焦点を当てたかったからだ。その後、アルゼンチンやチリなどにも波及していき、気づけば、南米大陸のほぼ全域を網羅し、南米制覇を果たしたのはかれこれ4年前だった。2020年の1月下旬。しっかりと覚えている。その作品は南米各国の言語に翻訳され、南米の出版社や政府、有識者なども目を通している。ポルトガル語、スペイン語に翻訳され、今では南米の国民も、Oの次の作品をと期待しているのが窺える。翻って、南半球で最初に書き下ろしたのは、Oが大学4年生の卒業間際で、幼馴染の友人と卒業旅行に訪れたエジプトが初めてだった。当時は『アラビアン・ナイト』と題して、まだ未熟だった物語の構成や語彙、文章力を披瀝し、それをゼミの皆に読んでもらっていた。そこから、しばらく時が経ち、アフリカを舞台にした小説を書きたいと思って、初めてアフリカで最も長い内戦が行われているアンゴラを舞台にした小説を書いた。世界平和を願って、初めてアフリカの舞台に足を踏み入れた。その後、エジプト(アラビアン・ナイトとは違う作品)、南アフリカ、ナイジェリアなどと領域を広げていき、気づけば、アフリカも数々の国を網羅してきたことが窺える。もちろん、これらの作品もアフリカ諸国の政府や出版社、有識者の手に渡り、翻訳されてはアフリカ諸国の国民の間で広がりを見せている。Oの作品は言わずと知れた、地球規模の展開を見せている。そんな中、昨日のフランスのゴンクール賞に引き続いて、つい今し方だが、またしても私のもとに嬉しいニュースが舞い込んでいた。メールでだ。
CAPTION: A few days later. (数日後)
南米の出版社とアフリカの出版社からだった。しかも、それは2社同時だった。そのメール内容をよくよく読むと、次のように書かれていた。まずは南米のブラジルの出版社から。
ブラジルの出版社(V.O.):「(メールの文面)おめでとうございます。ブラジルを始め、南米各国の実情を踏まえた踏査は精巧なもの。緻密に練り上げられた取材にもとづく考証と、その流れるようなストーリー構成は折に触れて秀逸と言わざるを得ない。私たちはこれ以上にない喜びで、あなたに最高の栄誉として称えたい。南米文学のブラジルの最高栄誉であるジャブチ賞をあなたに授与したい。これは日本人初です」
それを受けて、Oはその現実が信じられず、何度も目を疑った。こんなに嬉しいことが立て続けに続き、受賞ラッシュとなっていることに驚きを禁じ得ない。Oはとりもなおさずに返信した。
O(V.O.):「オブリガード。南米を舞台にした小説を、飢餓や貧困であえぐ市民に捧げたいと思っている」
次に、Oはアフリカの出版社からのメールを開いた。すると、そこには、
アフリカの出版社(V.O.):「(メールの文面)このたびはアフリカ諸国を舞台にした、あなたの作品の評価についてお知らせします」
との書き出しだった。これを見て、Oは嫌な予感がした。なぜなら、アフリカはアフリカを制覇していないのと、同時に、あの未熟だった頃の『アラビアン・ナイト』があったからだ。
O(V.O.):「きっと批判の言葉か、あるいは評価に漏れたのか…」
との憶測が脳裏をよぎった。しかし、その後の文面を読んでいくと、
アフリカの出版社(V.O.):「アフリカ大陸全域を、つまり、東西南北を見渡すその視野の広さ。そして、アフリカ大陸を長年に渡って苦しめてきた内戦や貧困、飢餓、人種(部族)や宗教問題、肌の色など、多義に渡って、アフリカを想う気持ちが滲み出ていた作品でした。しかも、そのどれもがそうでした。そのグローバルな視野や国際感覚は今後もますます磨かれていくことを願っています。私たちはアフリカ文学で最高栄誉とされているロータス賞を与えたいと考えています。これは日本人4人目ですが、ブラジルのジャブチ賞との同日同時受賞は日本人初です。あなたの名前はもうすでに南半球にも知れ渡っています」
それを受けて、Oは先のジャブチ賞との二重の喜びで、思わずガッツポーズを作り、ロータス賞の受賞に思いを馳せた。そして、早速返信する。
O(V.O.):「Thanks. アフリカの賞をいただけるとは思ってもいませんでした。アフリカ各国の言語に翻訳されていたんですね。私の作品がアフリカの国民に届けられることは、非常に光栄で、この上なく嬉しく、その時の気持ちはあの『アラビアン・ナイト』を書いた頃と何ら変わっていません」
そして、しばらく時間が経ち、南半球を代表して、アフリカの出版社の社長から、アメリカのモンタナ州との時差を合わせて、電話がかかってきた。
社長:「Congratulations. 君はついに成し遂げた。ジャブチ賞とロータス賞の同日同時受賞。これは日本人初。Fantastic.」
O:「Thank you very much.」
社長:「でも、それでいいのか?日本人の君に、肝心の日本から何も賞が贈られていな…」
O:「Stop it. 私はそれが好きではありません」
Oはそう言うと、南半球を代表して、社長はクスッと笑い、もう日本がこれ以上にない「屈辱」を味わい、屈辱にまみれてしまっていることには一切触れず、次の言葉で切り返した。
社長:「さあ、次はロシア、中国、そして、北朝鮮の賞も目指そうか?」
その言葉を聞き、Oは軽くいなすように返事した。
O:「もちろん、…狙っていますよ」
それがひいては世界平和の実現であり、日本の国際的孤立を意味するからだ。世界中の国々がこぞってOの作品を評価し、高い栄誉を与えていく中で、日本だけがいまだに評価していない。最後に評価するのがOの母国、日本でいいのか。Oは日本を舞台にした小説や脚本を他のどの国よりも一番書いているというのに…。日本が世界から大バッシングを浴びる日もそう遠くないであろう。