→そして、現実の世界を表現するため、カラーの今現代の映像として
F:「おじいちゃんの言っていた、イギリスが重要になってくるとはこのことだったんだね」
Q:「あの人がついに…。信じられない」
ハワイの会見場の後方で同席していたRとQがそう呟く。これは「芥川賞・直木賞」の受賞会見の場。
大勢のメディア記者がFの記者会見の場に集まる。Fは高齢者のラフな普段着の格好で終始にこやかにメディア対応していた。晴れて、Fの書いてきた文章がついに日の目を見てのこと。Fは嬉しそうな表情で記者の質問に受け答える。
P記者:「作品はイギリスを舞台にされています。芥川賞、直木賞、そして、本屋大賞の三冠受賞は日本人初。素晴らしい。この喜びをまずは誰に伝えたいですか?」
F:「そうですね。家族、友人、過去に私を雇い入れてくれた職場の方々、そして、文章能力を開花させてくれたアメリカに」
大勢の記者がFの言葉をメモしたり、パソコンに転記していく。Fは努力が実を結び、終始にこやか。
R記者:「受賞が決まった時の気持ちは?」
F:「あれは確か、私の大好きな青春バスケ漫画『スラムダンク』の海南高校の3Pシューターの神宗一郎が言っていた言葉ですが、『ようやく僕の出番ですか。待ちくたびれましたよ』ですね」
すると、共同記者会見の場に集まった大勢のプレス関係者はどっと笑う者もいれば、それを真剣に聞き入る者もいる。Fはその瞬間、机上のコップの水を一口飲む。終始にこやか。
Y記者:「執筆歴は約四半世紀と窺っていますが、これまでの執筆人生の中で一番辛かったことは?」
F:「年配の作家の方からすれば、私の執筆歴は『まだ』四半世紀ですが、やはり20代の時のイラク戦争の是非をめぐっての記事でした。それで、読者全般に大きな誤解を与えてしまったこと。その後はしばらく筆が止まりました。タダ働きしているのも嫌だったので。本当に苦しかった。これはブログのほうにも書かせていただいています」
もちろん、この場に集まったプレス関係者はそのことを知っている。その功績も含めて、今回のFの小説の日の目がある。
F記者:「これから作家や映画業界を目指す後輩たちに何かありますか?」
F:「それは難しい質問ですね。なぜなら、私は執筆歴こそ四半世紀ありますが、作家としては今回が日本の文学賞の初受賞で新人です。無論、映画もアメリカでかじった程度ですから。ただ『夢は大きく、志は高く』といったところでしょうか」
ここにはアメリカやイギリスのプレスも駆けつけている。アメリカの記者が英語で質問する。
U記者:「F. This is U, press company. Congratulation on your fisrt novel.」
F:「Thank you.」
U記者:「I have a question. You'd had studied English and majored in screenwriting in U.S.A. At that time, there was a huge earthquake in Tohoku area, Japan. Your sister's family were victims but fortunately they were alive. When you got that notice, how did you feel?」
F:「Oh, sorry. I want to take a notice to American press companies before this press conference starts. You know, I'm not good at speaking English. Even though I had stayed in U.S.A for 6 years, actually, I have far away from English for around 8 years since I came back to Japan. 今でこそアメリカに移住していますが、英語はどうも…。So, please speak slowly and if possible you use an easy English word」
すると、アメリカの記者たちはニコッと笑い、U記者が簡潔な質問に切り換えた。
U記者:「Alright, F. There was a big quake about 10 years ago. Your turning point of your writing. How did you feel?」
F:「Of course, very sad and shocked. At that time, I could not sleep and have a meal」
それを聞いたアメリカの記者たちは表情が真剣なものへと変わり、同情を示した。そのこともここに集まったアメリカやイギリスの記者たちは周知だ。その後も記者からの質問が次々に飛び交い、Fはにこやかな表情で受け答えていく。そして、最後に日本のS記者が総括としてまとめた。
S記者:「最後に、日本の皆さんに何か一言」
F:「ハイ、日本の皆さま。Fです。ようやく日の目を見ました。苦しい中での執筆で色々と経験してきました。見えない犯罪が横行する中での別れの痛みや裏切り、極度の人間不信…。一方で、出逢いの喜びや固い忠誠、そして、連帯の醸成。一言と言われても無理なので、あとは私のブログを読んでください。この嬉しい知らせで、日米双方の被災地が元気になってくれることを願っています。」
Fはそう切り上げると、温かい笑顔をそのままにして受賞の喜びに浸り、これからの夢の続きに大いに思いを馳せた。