CAPTION:Hawaii, U.S.A.(アメリカ、ハワイ)
ここはアメリカのハワイで、ある邸宅のだだっ広いリビングで、日本人初のピューリッツァー賞(小説部門)を受賞した老父のFが、本棚から先日の日本で芥川賞、直木賞の発表があった作品を読んでいた。それに目を通した後、その作品を木製テーブルの上に置かれてあった残りの2冊の上に置き、手元にあったナイフを手に持つと、勢いよく振りかざし、それにまとめてぐさりと突き刺した。そこにはアメリカの出版社の編集長も居合わせている。
F:「どうも最近の芥川賞、直木賞の作品は好かん。どれもその人の未発表作品からのパクりで、作家自身のオリジナリティがない。これから花開こうとしているその新人中堅作家の不正な青田買いが横行している」
編集長:「もはやパクることに主眼が置かれている。故に、日本は出版不況が加速している。その原因がそこにあると分かっていながら、全国の書店員が選ぶ本屋大賞のようなものを企画しても、本が売れるわけがない」
F:「まずは大本のその人を世に出さないとな。日本人作家に日本が賞を与えず、外国が先に権威ある賞を与えるのは、日本の出版業界にとっては「屈辱」だ
そう言って、Fはその空いた本棚に、自分が書いてきた作品の本3冊を補充した。それを見た編集長はにっこりと笑い、白い歯をのぞかせていた。
そこに玄関のインターホンが鳴った。Fはゆっくりと椅子から立ち上がり、玄関先に出てみると、そこには日本の出版社の編集長と人事課長が立っていて、何でも取材と原稿の依頼に来たとのこと。Fはそれを聞いて表情が渋った。
日本の編集長:「Fさん。我々ははるばる日本から伺いました。どうか、原稿を書いていただけないでしょうか?」
この時、Fは心の中で、「何だ、それは?」と思った。未発表の小説からさんざん他人のアイデアや文章をパクり、よりによって出版不況で都合が悪くなったら、助けてくださいとその本人にどさくさに紛れて原稿の依頼に来る。何ともずうずうしい立ち居振る舞いではないか。
F:「どうもオタクらは不正をすることが当たり前になっている。パクられている本人の気持ちをこれっぽっちも考えることなく、後手後手の対応で物事を。今日ここに取材に来ているのも、遅すぎないか?」
奥のリビングにいたアメリカの出版社の編集長が何事だと玄関先に出てきて加わる。
日本の編集長:「それは申し訳ありません。著作権や特許権、知的財産権の侵害も甚だしいですよね。私たち既読者全員は給与や賞与だけでなく、そうした損害賠償も払わなくてはなりません」
F:「だろうな。メディア全体がその人に依存し、おんぶに抱っこではいけない。その人が病気や体調不良で欠けた時、あるいはその司令塔が海外へ出て行って不在になった時のことを考えろ。それが神格化した司令塔への依存の弊害になる」
人事課長:「おい、今の発言は…。こちらは日本を代表する出版社の編集長ですよ」
F:「(それを聞いたFは隣を見て)こちらはアメリカの出版最大手のペンギン・ランダムハウスの編集長だ」
その言葉を受けて、アメリカの出版社の編集長は得意げな表情で、日本からの来訪者を鋭い目つきで見た。それを聞いて、日本からの二人は恐れおののく。
F:「その可哀そうな、まだ世に出ていない新人中堅作家を世に送り出してから、私のところへ来てください。でなければ、あなたがたのやっていることはことごとく失礼です」

それを聞いた日本の出版社は恥をかいたと顔を真っ赤にし、うつむき加減になった。
F:「それと、先ほど言ったことは出版社だけでなく、日本の新聞社やテレビ局を含めたメディア全体に言えること。採用でその人を不採用にしておいて、いざその人の実力が分かったら、その人の成果を裏でパクり続ける。成果に見合った給料も払わずに。そうでなかったら、あなた方自身のスカウティングは?それが人事採用だろ?あなたがたは批判するばかりで反省がないんですよ。自分のことを批判されたら、まず批判し返すその高慢な体質。それを私の読者はものすごく怒っている。何で人材を判断しているんだ?学歴か?だとしたら、とんだ日本社会に巣食う病魔だ」
人事課長:「申し訳ありません。…失礼極まりありませんでした。今日のところはもう帰ります」

アメリカの編集長:「日本(既読者)が世界の前で恥をかいている(かき続けている)ことに気づかないのですか?」

日本の編集長:「(それを聞いてハッとする)…ええ」
そう言って、すごすごとFに背を向け、退散するようにその場から離れようとした。その背中にFはツバを吐き捨てるがごとく、追い打ちをかけるように言う。
F:「あれ、履歴書って採用のためだけに使うもんだろ?
それを背中で聞いた2人はもう恥ずかしくてその場から急ぎ足で離れた。不正や犯罪の何もかもが見透かされている。
F:「Asshole......」
そう呟いた後、Fはアメリカの編集長とともにリビングに戻り、ナイフで突き刺した芥川賞、直木賞の本3冊を、日本の新聞紙にくるみ、日本の番組が映る旧式のボックス型のテレビの画面を破壊し、その画面部分だけを金庫型にくりぬいた穴に入れ、それを丸ごと運んで、リビングの煌々と燃える暖炉に放り込み、燃やした。悪霊をお祓いするがごとく、いわば火葬場のようでもあるお焚き上げだ。不正と犯罪の横行した日本のメディアへ一石を投じ、「まずは猛省しろ」と言わんばかりに…。
アメリカの編集長:「で、今度は何をパクるんでしょうね?」
その言葉を受けて、Fとアメリカの編集長は顔を見合わせると、小さく笑い合った。嘲笑だ。

F:「後払いなんて、まっぴら御免だ。どこに食い逃げを許している飲食店がある?」

 

※サッカー日本代表。まだまだこれから。今までがあまりに出来過ぎ。いい薬になったんじゃない?だから、私はこれまでの作品の中で、「負ける」ことも書いているぞ。