CAPTION: Mount Everest, Tibet Autonomous Region. (チベット自治区のエベレスト)
チベットに入国したNは登山前にチベット自治区の日常をカメラの写真に収め、そして、論文の最終段階の校正を行っていた。このチベットの様子を記録し、文章に書き留めておきたいのと、ここからも医学的見地を盛り込んだ構成を心掛けた。さらに、中国の状況や台湾との関係性にも言及しなければならない。
そして、登山を開始した。高度がまだまだの地点で、Nは思った。
N(V.O.):「準備開始として、計画書の作成、資金と協力者、登山隊の編成、登山許可の申請、現地での手配。ホテル、サーダーとシェルパ、ポーター、ヘリコプター、車、タクティクス(戦術)。ここで言うシェルパは種族の名称だ」
隊長は背中に続く隊の仲間に声をかける。
隊長:「ゆっくりと時間をかけて登ろう。アコンカグアのこともある。これはいわばリベンジだ」
それを聞いて、Nはさらに心の中で思う。これは登山前に論文にも盛り込んだことだ。
→Visual Effect→パソコンに書いた文書を映しながら
N(V.O.):「トレーニング。これは筋持久力をあげるトレーニングで、腕立てや腹筋など、テントの中で行うストレッチングもある。そして、装備の梱包。マラリア蚊は大敵。これはヒマラヤ登山のこと。過去には地元の特効薬のおかげで助かった。隊荷の輸送、連絡網と日本出発」
チョモランマの南側、ネパールでは深く長い谷が形成されているため、6400mのABCへはアイスフォールを越えて人力で荷揚げしなくてはならない。一方、北側の中国チベットでは4000mのチベット高原が広がっているが、5150mのチョモランマのベースキャンプまでジープやトラックで入ることができる。さらに、ゆるやかな氷河のサイドモレーンをたどる6500mのABCまでの行程では、なんとヤクが隊荷を運んでくれる。このことも念頭に入っている。
隊長:「現在のチョモランマ北側の代表的なルートは、東ロンブク氷河をたどって6500mにABCを建設し、そこから7028mのノースコルを経由し北東稜から頂上を目指すというものだ」
隊の仲間:「頂上直下最後の稜線は長さ500mほどで、傾斜もゆるやかになり技術的に問題となるところはない」
N:「しかし、東側(カンシュン氷河側)に向かって雪庇が発達しているので注意が必要。ここで雪庇を踏み抜いて転落した登山者もいる」
そう呼びかけながら、徐々にチョモランマを上昇していく。高度も中腹あたりまで来た。体力の回復のために、ゆっくりと時間をかけて登る。アコンカグアの断念がここで生きてくる。
N(V.O.):「実践技術。高度馴化で、ゆっくり登ること。登山者を襲う高山病。氷河を登る。アイスフォールの登攀、フィックスロープの使い方、タイトロープを使う、アタックキャンプへ、そして頂上アタック。8700mの無酸素ビバーク」
ここで少し休憩を取り、バッグから食料を出すと、
N:「熱心なチベット仏教徒として知られるシェルパ族にとって、『火』は神聖なものの一つだ。食用できるのは、豚、鶏、水牛、羊などだ。牛の肉は宗教上タブー」
隊の仲間は酸素ボンベで酸素を吸入している。
N(V.O.):「酸素ボンベで、袖に書いた酸素の計算表、そして状況に応じた酸素量の調節」
隊長:「氷河、氷床、強風に要注意。谷やルンゼには降雪のみならず風で飛ばされてきた雪(風成雪)がたまりやすい。これは自然発生の雪崩。人為発生の雪崩もある。雪崩の発生したノースコルへの斜面や、クレバスに眠る3人の友。落石のベテランの直感だな」
そう言って、ゆっくりとチョモランマ、別名エベレストを踏破していく。徐々に高度も上がってきた。