その後にWは全ての授業が終わると、今日も手芸部に参加して、作品展覧会のエプロン作りに精を出した。学年の全員分のエプロンを作るのはまさに至難の業だ。とてもではないが多大な労力を要する。
X:「俺、昨日の夜、手縫いをしていたら、誤って針が指に刺さって。これを見てよ(そうして絆創膏を貼った指を見せる)。本当に痛かった」
¥:「血が出るけど、あのじくっとした痛み」
そんな会話をしながら、Wらはクラブの時間もエプロン作りに没頭する。針と糸を巧みに操り、それぞれのクラスに配置された色がある。配色を意識した布地と、それへの柄付け。そして、アルファベット表記のネームを入れる。これができて初めて完成と言える。まさしく徹夜での作業が続くわけだ。
今日も日が暮れるまで、正確に言うと、暗い時間になるまでクラブを続けた。教室内は照明で明るいが、それに沿って隣接している廊下は暗く、外からは光の影響で中が見えない仕掛けとなっている。
そこでWが自分の教室に手芸用具のチャコペンシルを忘れてきたので、それを取りに行くことになった。そのことをXと¥に伝え、席を立つと、小走りに自分の教室へと向かった。
廊下を走って、階段を上がり、自分の教室に辿り着き、小窓をついたドアの前に立つと、Wは思わずそこで心臓が凍り付いた。ドキッ!!Wは金縛りにあったように言葉が出てこず、一瞬ドアの前で立ちすくんだ。そこにはいじめっ子の頭である?4*が立っていたからだ。数秒間、Wと?4*が目が合い、正対したままだ。そして、?4*はドアに備え付けられた小窓が照明で反射して鏡になっているのを利用し、手で自分の髪型を整える。それが分かったWは緊張が解け、冷静さを取り戻して体に自由が戻ると、ドアを開けることなく、ただちにその場から逃げるように、すぐそこにあったトイレへと駆け込んだ。廊下側から教室の中を見るW側からは教室内の照明である光の影響で、中が見えるが、中にいる?4*側からは反射して外が見えない。
→Reflection Shot & Gaffer→ドアに反射した?4*の姿と、それを廊下側から見るWの姿
トイレに姿をくらまし、いじめっ子が教室を出て行った声を聞くと、ようやくWは精神に安寧が訪れ、教室に入り、忘れ物を取った。それでも、Wは自分の中で何かが芽生えているのを感じた。今までにない爽快感。これまで味わったことのない感情。Wは「何だ、これは?」と思った。
それからは手芸部に戻り、続きを敢行した。クラブの部員たちも真剣に作業に取り掛かり、エプロン作りに必死だった。
そして、夜も遅くなると、クラブは終了し、後は家に持ち帰っての作業となった。これまでに随分と作り込んできた。
自宅に着いたWはそのまま自分の手芸の作業場となっている家の地下室へ行き、そこで明るい照明をつけ、今夜も徹夜での作業を続けた。
W:「ええっと、あいつのネームはこれだよな」
そうして今宵も夜通しエプロン作りが執り行われた。
→地下室から見る外の夜空に浮かぶ月と、輝く星の景色
Wにとって、この地下室は紛れもなく自分だけの世界に没頭できる場所であり、ひときわ集中力の増す特別な居場所で、ここが彼の好きな場所だった。