【脚本編】そして、Oは占い師を真剣な目で見た後、彼女の占いを半信半疑で、それでいて外国での行方にも思いを馳せた。その運勢が気掛かりだったが、どうも腑に落ちない点があったからだ。凶は嫌だが、できれば吉のことをもっと考えたい。その点で、プラス思考で未来を見つめたほうがいいだろうと思った。

そのことを占い師に言ったOは俄然表情が明るくなり、これでもかと占い師に聞いてみる。

O:「それで吉となるほうは?」

占い師:「ああ、そうだな。それもあなたにとって重要事項だ」

すると、占い師は正方形のテーブルに接着した壁に掛けられてある熊本の写真を見た後、じっくりと目の前の丸い球に手をかざして、目を閉じてはじっくりと瞑想にふけるがごとく占いを再開した。そして、おもむろに言葉を発する。

占い師:「聖書の話になるが、世界で最初のクリスマスのお客は地味だった」

O:「えっ?」

占い師:「イエスは大工ヨセフとマリアの子として産まれる。ただし、マリアは聖霊によって身ごもったとされているため、ヨセフとイエスは血縁上の関係はないことになる。では、ヨセフは不要だったかというと、そうでもない」

占い師は真剣な目でOの運勢を占い、類稀な技量で聖書の中の預言者を引き合いに出し、メシア誕生の時(クリスマス)に言及した。それは今年のクリスマスを占うかのように。

占い師:「ヨセフとマリアはナザレに住んでいたが、住民登録のため、ヨセフの故郷ベツレヘムは旅行中だった。だが、宿はどこもいっぱいで、泊れる部屋はなかった。頼み込んでも泊めてもらった宿は雨露をしのげるだけの場所で、その夜、イエスが生まれた。イエスの誕生を最初に祝ったのは貧しい羊飼いだった。一方で、唯一華やかなのは、東方の学者たちが、高価な贈り物を持って赤ん坊のイエスに謁見する場面だ。彼らは星占いで救世主の誕生を知り、祝いに来た」

O:「そうだったんだ」

占い師:「まもなく、救世主の誕生を知ったヘロデ王がベツレヘムで男の子皆殺しの命令を出す」

O:「そんな非情な…」

占い師:「夢のお告げでそのことを知ったヨセフはマリアとイエスを連れてエジプトに逃れるの」

それを聞いたOは占い師の吉と凶が混在した聖書の物語はまるで自分の占いのことで、この先の自分の人生を言っているようでもあると思った。少なからず、そのことを感じ取ったOはこの占いで大いに収穫があって、占い師に深々とお礼を言うと、占い師はにこやかに笑顔を見せて、正面のOを柔和な目で見た。

まだこの先に何があるか分からなかったOだが、この占い師を信じることで、自分の未来にある難も逃れることができるような気がした。Oは少し人間不信になっているところもある。

そして、Oは時間も迫っていたので、もう一度お礼を言って、席を立ち、店を出て行こうとすると、占い師がOの背中に向かって言った。

占い師:「神のご加護を。今年のクリスマスは良い日になるといいわね」

それを聞いたOはクスっと笑い、占い師を背中で見送ると、駆け足で駅の改札へと向かっていった。この時すでにOはアメリカへの人事異動を快く引き受ける覚悟でいた。