まずは前回の続き。John Hawken絡みでRenaissance草創期のことを書いたので、更に何か深掘りできるものはないかとYouTubeを探索していたところ、"Renaissance (transitional line-up)"と銘打たれた、Anne-Marie "Binky" Cullom (vo) - Terry Crowe (vo) - Michael Dunford (g) - Neil Korner (b) - Terry Slade (ds) - John Tout (p)という顔ぶれのライブ画像に行き当たりました。括弧書きは最初「伝説の」かと思いましたが、よく見ると「過渡期の」でした。この後一旦裏方に回るダンフォードがテレキャスターを持って、剰えソロまで弾いています。

同時に、「伝説の」オリジナル・ルネッサンスのライブ画像も発見しました。色々言われてはいるものの動画サイトの有難みを感じるとともに、これほどの貴重な音源がケータイ一つで見聞きすることができるあまりの万能ぶりに「個人でレコードを所有する」ことが無意味に思えてきます。

 

※ キュロムの姿を初めて見ました。タウトは写っていませんが、画面左手外でピアノを弾いています

 

さて、お話変わって今回は、カナダ出身で英国で活躍した金管奏者Kenny Wheeler (1930 - 2014)について。Floating Points編の"LateNightTales"でカバーされたウィーラーの曲を久々に聴いて、いっちょう振り返ってみるかという気になりました。

ウィーラーは、出身地トロントの王立音楽院(ちなみに、カナダの国王は英国と共通で、現在はチャールズ3世です)で作曲を学んだのち'50年代前半に渡英、ジャズ界で活動し始めますが、私が彼のファンになったきっかけは、'78年Bill Brufordの"Feels Good to Me"への客演でした。アルバム第2面のインスト曲"Either End of August"や"Springtime in Siberia"でのフリューゲル・ホーンは独特の音色をしていて、本体クァルテットのみの演奏で作り出される緊張感とは一線を画した豊かな詩情を醸し出しています。

ブルフォードとウィーラーはこのアルバムが初めての共演ですが、知り合ったのはそれから10年近くも前、ブルフォードがまだYesでたたいていた時のようです。その時期、'60年代後半~'70年代前半の英国ジャズは、先鋭的な音楽家がおしなべてロック音楽との融合を志向し、それを支える管楽器奏者は(シーンの規模が大きくないために)あちこちのアルバムで名前を見かけることとなりますが、ウィーラーもご多聞に漏れず、'68年にThe John Dankworth Orch.との共演でソロ・デビューして間もなく、'69年のMike Westbrook "Marching Song"や'70年のMichael Gibbsソロ第1作に参加しているのを確認できます。一方、ブルフォードには当時から既にジャズ志向があって、その筋の音楽家との交流を始めていたようです。今思えば、イエスにおけるブルフォードの(決してジャズ・マナーではありませんが)軽妙に感じられる演奏も理由があったんですね。

 

※ ウィーラー'80~'97年のECM作品群。これらの範囲内で書かせてもらっております

 

最初に聴いたウィーラーのレコードは'80年の"Around 6"で、ここでの彼の演奏はブルフォードを聴いての期待に違わぬものでしたが、この後聴き進めていくうちに、彼への興味は「演奏者」に対するそれから「作曲者」としてのものに徐々に移っていきました。特に、'90年の"Music for Large & Small Ensembles"のうち"Large"において、John Abercrombie (g、この人も米バンドDreams以来贔屓にしています)、John Taylor (p) / Norma Winstone (vo) (この夫妻とウィーラーはAzimuthでの縁も深い)、Henry Lowther (tp)、Paul Rutherford (tb)、Ray Warleigh / Evan Parker / Stan Sulzman (sax)らを擁して展開する"The Sweet Time Suite"は、先にふれた英国ジャズ作曲家の大御所ウェストブルックやギブズの作品に比肩する素晴らしい出来となっています。

 

(6/15/2024)