待合室用の音楽ソフトを大量に購入した4月から一転、5・6月は「これは」というものがなく、いきおい弊ブログのネタが不足していました。そんな中、さる筋から「RenaissanceのBBCライブDVDが出る」という情報を得てその周辺を色々と調べていたら、「ルネッサンスがルネッサンスになる前」のピアニストJohn Hawkenが5月15日に84歳でなくなっていることがわかりました。

「なんだまた『蓋棺録』か」というご意見もあろうかとは存じますが、あらためて彼の経歴を時系列で精査していくうちに、やはりこれは書いておかなければという思いが強くなりました。

(1) The Cruisers Rock Combo (1960~'62)

クラシック・ピアノからロケンロールに転向して参加した初めてのバンドですが、そこには後のルネッサンスの主宰Michael Dunfordが既に居たようで、ホークン本人は想像もしていなかったでしょうが、ダンフォードとの絡みで彼のおおまかなキャリアはここで決まっていたのかもしれません。

(2) The Nashville Teens ('62~'68)

クルーザーズに歌手2名が加わりナッシュビルズに発展し、ダンフォードは早々に辞職するもののホークンは残って活動し、'64年には"Tabacco Road"のヒットが生まれ、映画"Pop Gear"にも出演します。

ナッシュビルズには'63年に「第三の歌手」としてTerry Croweが、'66年にベース奏者としてNeil Kornerが参加しており、彼らは後に「ルネッサンスと、ルネッサンスにになる前のルネッサンスとのつなぎ」に顔を出すこととなります。また、ホークンとコーナーが掛け持ち活動をしていたFrankie Reid & The Powerhouseには、はるか後日のIllusionのギター奏者John Knightsbridgeが在籍しており、この頃築いた彼の人脈は長く有益なものになったようです。

 

※ "Pop Gear"出演中、24歳のホークン(左下)。

映画のMC…Jimmy Savileの悪行がその後暴かれた所為で、もう公には見ることができない画像かもしれません

 

(3) ルネッサンス ('68~'70)

最初はホークンとChris Dreja (元The Yardbirds)・B.J. Cole (名高いペダル・スティール・ギター奏者)の3名がKeith RelfとJim McCartyが主導するヤードバーズ解散後のプロジェクトに参加する形で始まったルネッサンスは、第2作の制作中にレルフとマカーティが辞めたため、ホークンが親玉となってかつての仲間…ダンフォード、クロー、コーナーに協力を依頼して完成に漕ぎつけますが、今度はホークンがSpooky Toothから参加を乞われ、彼は自分の後継者としてピアニストJohn Toutを指名してから辞職します。このあたりの彼の動き方には、「立つ鳥跡を濁さず」ロック音楽家らしからぬ丁寧さがうかがえますが、ここでダンフォードとタウトが遂に揃って「ルネッサンスがルネッサンスになる」わけですね。

ホークンが加入したトゥースは間もなく解散。彼はThird World WarやVinegar Joeを経て、'73~'75年の間Strawbsに在籍しますが、TWWでは先述のナイツブリッジと再度合流しています。

(4) イルージョン ('76~'79)

初期ルネッサンスの再現形であるイルージョンは、ホークン(p, kbd)、マカーティ (ac-g, vo)にJane Relf (vo)、Louis Cennamo (b)、Eddie McNeil (ds)の5名だと楽器編成が後期(ダンフォードの)ルネッサンスと全く同じになりますが、ここに強力なギター奏者のナイツブリッジを加え「本家色」を打ち出そうとしたと思われます。ただ、バンド・サウンドの鍵は分家と同じくピアニストが握っていて、特に、初期ルネッサンスの楽曲をイルージョンで再演した"Face of Yesterday"でのホークンのピアノの調べは、英国ロック音楽の中でも有数の美しさをたたえています。

 

以上振り返ってみると、ホークンはピアニストの立場で、'60年代のビート音楽から'70年代のクラシカル・ロックまでを、決して派手な活動で湧かせることはありませんでしたが、限られた機会を活かしながら長い付き合いの、かつ多才な友人とともに走り切った、という印象です。'80年代に米国に移ったホークンの実質最後といっていいプロジェクトは、'01年、マカーティ/レルフ/セナモとの共演、Renaissance-Illusionの"Through the Fire"ですが、ここでは電子鍵盤楽器を遍歴してピアノに回帰した彼の寛いだ演奏を聴くことができます。

 

(6/8/2024)