2022年に7'角のフレキシ・ディスク"Her Winter Coat"と"A Kiss Like This"を発表して以降音沙汰のない、英バンドSaint Etienne。いつも看板歌手Sarah Cracknellの後ろに控えている男二人Bob StanleyとPete Wiggsは、'17年頃から「元音楽ジャーナリスト」としての知識を活かして、他の音楽家の楽曲を用いての特定の主題に基づく編集盤の制作に余念がないようで、今般彼らの最新作"Incident at a Free Festival"が出たのを機に、それと4作前、'20年発の"The Tears of Technology"を聴いてみることにしました。

このスタンリー/ウィッグスによる編集盤は私の知る限り全部で9作ありますが、Amazonで購入する際には各盤のジャケット裏面の収録曲を確認して、自分の守備範囲内のものを選びました。スタンリー筆のライナーによれば、"Incident"は「Isle of WightやGlastonbury Fayre等有名なロック・フェスの陰に隠れたDeeply ValeやBickershaw等『中小』フェスの主役達による、架空(『'72年Berkshireにて開催』)のフェスのプレイリストを想定して」、一方"Tears"は「シンセサイザーをポップスに(実験的にではなく)抒情的に取り込んだ'80年代初頭の先駆者達の足跡を辿る目的で」、各々編集したとのことです。

 

※ 裏ジャケットの写真もつけました。これがあれば「一目瞭然」ですね

 

第1期Deep Purpleの"Chasing Shadows"で始まる"Incident"は、それ以降Manfred Mann Chapter IIIやAndwella等、先述の編集方針に沿った「1.5流」ハード・ロッカーの演奏が続き(DPも第1期は「1.5流」ですよね)、名前を聞いただけではその路線から外れていそうなCurved AirやBarclay James Harvestからも、ハード寄りの曲が選ばれています。全体を通してはドラム以外の打楽器が活躍する曲が多く、いかにも「野外映え」しそうです。シングル3枚しか出していないJames Hoggの曲が選ばれているあたりは、選者の二人にとっては「さすが」と言わせたいところなのでしょう。

"Tears"は、有名どころであるSimple MindsやThe Human Leagueの初期曲も含めて、インダストリアル音楽臭が抜けきれていない「叙情派シンセ・ポップ」で統一されています。収録曲中唯一リアルタイムで聴いていたJohn Foxxの"Europe after the Rain"はとても懐かしく感じましたが、当時はここで選抜された音楽家以外にも、シンセ活用の方法論を身につけてデビューしたものの無名に終わった同傾向の人達が沢山いたように記憶しています。また、これらの曲を一挙にまとめて聴いているうちに、臭気を抜ききったこの手の音楽の「始祖」はThe Bugglesなのではないか、とも徐々に感じ始めました。

 

(4/6/2024)