新年早々明るくない事象が頻発していますが、弊ブログの方は引続き音楽ネタで更新してまいります。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

☆ 年末にNHKBSでDanny Boyle監督の映画"Yesterday" (2020年)を放送していたのを見逃して、急遽DVDを買い求めました。

スーパー・マーケット店員兼業の売れない音楽家が、突然の時空の歪みによってThe Beatlesの存在しない世界に放り込まれ(注…The Rolling Stonesは存在しています)、そこでビートルズの楽曲を次々と披露して一躍スターダムにのし上がっていくが、…という物語ですが、折々に差し込まれる主役Himesh Patel(コメディアン)の歌いっぷりがとても新鮮なのと、脚本がよく練られているのとで、大人のお伽噺として可憐に成立しています。皆さまも是非。

※ Ed Sheeranも本人役で出ています

 

☆ 「またその話かい!」と思われるかもしれませんが、前回素通りしたColosseumの「新譜」"Upon Tomorrow"のCD1枚目のうち初出の実況録音('70年5月14日@Questors Theatre)は、TV番組用フィルムからの抽出で、クレジットに従うとJon Hiseman / Dick Heckstall-Smith / Dave Greenslade / Clem Clempson / Mark Clarkeの5名、即ちChris Farlowe加入直前の顔ぶれで演奏されたという"Downhill and Shadows"と(ドラム・ソロを挿んで)"The Valentyne Suite"が収められています。

既に書きましたとおり、クレムが歌う希少な"Downhill and Shadows"、いつになく凄い力感のハイズマンのソロ、"Sunshine of Your Love"のリフを入れたりしながらグリーンスレイドが突っ走り原型をとどめていない"February's Valentyne"を含む"The Valentyne Suite"、と史料価値・聴きどころが満載ですが、「史料」として指摘するならば、この時期ベースを演奏しているのは、既に辞める意向を親分ハイズマンに伝えているものの後任(クラークではなくLouis Cennamo)が見つかるまでお付き合いしていた(実際にバンドを離れたのは約1ヶ月後の)Tony Reevesが正しいと思われます。

前回ふれたCD2枚目「本編」録音データの点も含め、今回のRepertoireの復刻はやや詰めが甘いのではないでしょうか。

 

☆ 「まだその話かい!」と思われるかもしれませんが、ギターリストBrian Goddingの遺作群のおそらく最後のピース… ジャズ・ロック・ユニットMirage唯一のアルバム"Now You See It..."をCDにて入手いたしました。

 

※ アナログLPは諾・Compendiumから出されてすぐ廃盤になったようですが、私は輸入盤店で何度も見た記憶があります

 

詳細なデータは記載されていませんが、おそらく'76年、ゴディング(g) / Nisar Ahmad "George" Khan (sax, fl) / Steve Cook (b) / Dave Sheen (ds)の4名による録音で、LP全6曲(ゴディングが2曲、カーンが4曲を提供)に加えて「ボーナス」としてGeoff Castle (kbd)とJohn Mitchell (per)も加えた6名編成でのライブが2曲追加されています。

アルバムについて先に語ってしまうと、「英国産ジャズ・ロック」というよりは「武骨な米フュージョン」という印象で、ゴディングはやや引き気味であり、カーンの書く曲が甘口でリズムに大胆さが感じられないので、メンバーから想像されるほどには音は尖っていません。一方で、ボーナスの「ジャム」2曲は結構起伏があって、なかなか面白く聴かせてくれます。

CD化にあたり付けられたゴディング自身のライナーによれば、彼は'73年にGary Boyleの後任としてMike Westbrookのバンドに参加するかたわら、そこでのバンドメイトだったカーンを誘ってミラージュを結成したようで、この後ウェストブルックとの活動に戻る際はクックを伴っています。

この時期のゴディングの録音活動を追っかけていくと、彼の周囲の音楽家のものも含めて、作品を次表のとおり「使い回し」していることが興味深いです。

Artists / Albums

 

 

Songs (Writers)

Mirage

“Now You See It”

(1976)

Chris Hunter

“Early Days”

(1980)

Brian Godding (GLS)

“Slaughter on Shaftesbury Avenue”

(1981)

Mike Westbrook

“The Cortege”

(1982)

“Elephants’ Tales”

(George Khan)

Godding / Khan / Cook / Sheen

Godding / Hunter (sax) / Phil Cranham (b) / Robin Smith (kbd) / Dave Early (ds)

 

 

“July 79”

(Mike Westbrook)

 

As above

 

Godding / Westbrook (p) / Hunter / Cook / etc.

“Happy Endings”

(Brian Godding)

 

As above

Godding / Sheen / Steve Lamb (b) / Steve Bull (kbd)

 

ただし、ここまで彼の作品を逆走した結果、私が彼のことを「尖ったギターリスト」の範疇に入れていた、そのきっかけがはっきりしなくなってしまいました。おそらく、一番最初に聴いた上表"Early Days"での印象が大きいのだと思いますが…。

 

(1/7/2024)