2020年に発表されたColosseumのCD6枚組"Transmissions - Live at the BBC"を聴いて一番驚かされたのが、Disc 6、'71年9月10日付"Sounds of the 70s"での4曲で、いずれも放送当時未発表だった"Jumping off the Sun"、"Sleepwalker"、"The Pirate's Dream"、"Upon Tomorrow"が演奏されていたことです。親分のJon Hisemanはつねづね「我々は、新曲もライブでさんざん演ってからスタジオに入るので、スタジオ作の録音には時間がかからないんだ」と語っていましたので、これら未発表曲のスタジオ版が作られたかどうかは定かでなかったのですが、最近コラシアムの音源発掘に熱心なRepertoireが「'71年8月1日@Lansdowneと同月13日@Advision、両スタジオでの録音からなる、幻の第4スタジオ作"Upon Tomorrow"」としてまとめました。

CD2枚組のうちDisc 1は、TV番組"Supershow" ('69年3月26日、彼らのレコード・デビュー2日前の出演だったそうです)での2曲と、これまたTV向けだった'70年5月14日Questors Theatreでの実況2曲、合計31分程度のボリュームで、後者に含まれるClem Clempsonが歌う"Downhill and Shadows" (極めてChris Farloweに近い上手さ)や"Short Version"にした(しかもかなり形を崩した)意図が掴みかねる"The Valentyne Suite"等、非常に興味深い録音なのですが、今回それは本題ではありません。

 

※ 写真撮影はGered Mankowitz。ジャケット裏の背景はドラム設置前、ハイズマンの居ない舞台を同じ角度からやや引いて撮ったものですが、何故こんな写真があるのか、不思議に思えます

 

ハイズマンの伝記本2冊の著者でもあるMartyn Hansonによるライナーを読みながらDisc 2を聴いています。クレジット表記は次のとおり。

(アルバム名?) "Upon Tomorrow" (トラック1~5)

1) Upon Tomorrow

2) Jumping off the Sun

3) Sleepwalker

4) The Pirate's Dream

Advision Studios、 '71年8月13日

5) Thank God for Things That Grow

Lansdowne Studios、'71年8月1日のデモ

6) The Pirate's Dream

7) Upon Tomorrow

8) Thank God for Things That Grow

コラシアムはそれまでランズダウンを常用していたのですが、このときハイズマンは6)~8)の出来が気に入らず、スタジオをアドビジョンに変更して5)を録り直した模様です。

上記のクレジットの仕方では1)~4)が何処で録られたのか聴き手が厳密に判断できないのでは…、という点が腑に落ちなかったのですが、先述の"Transmissions" Disc 6と聴き比べると歌・演奏に寸分の違いもないので、これら4曲は'71年9月2日(データはハンスンのハイズマン本"Playing the Band"から)、BBC9月10日放送用に録られたスタジオ音源(@アドビジョンか?BBCか?)そのものと考えられます。あらためて今聴いてみると依然としてラフ・ミックスのようで、正式にアルバムに入れるにはもうひと手間必要な印象を受けますが、1)~5)で計40分49秒、LPにするには時間的に充分な素材ではあります。

・後にTempestの第1作においてPaul Williamsの歌、Allan Holdsworthのギター(とバイオリン)で披露される"Upon Tomorrow"は、作曲者クレムスンのギターが低音のリズムから高音のソロまで全編冴えわたっているほか、Dave Greensladeがメロトロンを大胆に使っていること、Mark Clarkeが美声のコーラスを付けていることより、コラシアムの曲としては非常に新鮮に聞こえます。

・'71年の編集盤"The Collectors Colosseum"にバージョン違いが収められた英国のジャズ・ピアニストMike Taylorの曲"Jumping off the Sun"に続く「完全未発表曲」"Sleepwalker"は、グリーンスレイドが主導する曲で、メロトロンやエレピを多用しているためかコラシアム解散後の彼のバンドの音像に近いものとなっています。

・"The Pirate's Dream"は、後日Dick Heckstall-Smithのソロ作"A Story Ended" ('72年)に、ギター…Chris Spedding、鍵盤…Graham Bond以外は旧コラシアムのメンバーが担ったバージョンが収められます。中間部のギター/サックス/鍵盤/コーラスが完全一体となった怒涛の如き演奏パートが先に作られたような曲ですが、ここでのコラシアムのバージョンももはや完成形で、幻のアルバムのタイトルになる見込みだったことが理解できる「名曲の名演」です。

・「完全未発表曲」その2…"Thank God for Things That Grow"は、主題が異なるものの"Sleepwalker"と共通する演奏部分が多く、原曲にあたるものとも思われます。時系列に従い8)→5)→3)の順で聴いていくと、コラシアムらしさがどんどん減り、グリーンスレイドっぽくなっていくのがわかります。

さて、何故コラシアム(ハイズマン)がこれらの豊かな曲をアルバムにすることなく解散したか? 私が知っている限りでは、まずクレムスンがバンドに居ることに楽しめなくなりHumble Pieに移ることを決意し、それを聞いたハイズマンが「彼に代わるギターリストなし」と早々と判断、ハイズマン自身も、バンドが「ジャズマン」と「ロッカー」に分裂しつつあり一体としてのさらなる維持が困難と感じたため、というものですが、当時手掛けていた1)~5)の曲群を聴いていると、確かにクレムスン/グリーンスレイド/D.H.-S.各々の志向が拡散してしまって、R&Bをルーツとするオリジナル曲に漂うコラシアムらしさがうかがえなくなった点が大きかったのでは、と感じます。

一大絵巻"The Pirate's Dream"を一度作ってしまったら、新しく取り組む課題がもうあまり残されていないと感じても仕様がないかもしれませんが、解散の後、ハイズマンが「"Upon Tomorrow"をこのまま埋もれさせてしまうのは惜しい」と、テンペストで(彼が理想としたとおり)より絞った編成で世に出した心情、D.H.-S.がソロ作で"The Pirate's Dream"をコラシアム版を忠実になぞった心情は、ともによくわかります。この2曲のレコード化のため採用したギターリストがいずれも超一流のホールズワースとスぺディングだったというのは、ハイズマンとD.H.-S.の「今はもう居ない」共作者クレムスンに対する最大の賛辞だったのではないでしょうか。

以上、CDが届いた直後、取り急ぎ聴いての感想を述べさせていただきました。本盤については年末年始にかけて次なる発見がありそうな気がしていますが、弊ブログは今回の更新を年内最終とさせていただきます。今年も一年間お付き合いいただき、ありがとうございました。佳きクリスマス&新年をお祈り申し上げます。

 

(12/23/2023)