先日雨の日、自転車で通うのを諦め自家用車でスタジオに出勤したとき、書類かばんと昼食の包みと、トランクから取替え用のトイレット・ペーパー1ダースを引っ張り出してスタジオのドアを開け、ペーパーはちゃんと事務所兼倉庫に収めたのですが、その日帰るときなぜか突然「あっペーパーを出すのを忘れてた」と思い、車に取りに行くつもりで一旦スタジオの鍵を閉めたところで「朝搬入済み」であることに気付きました。「間もなく65歳。いよいよアレが始まったか」と、腹の底が冷えるような思いでした。

こういう時は新しい音楽を聴いて頭の中を刷新したいのですが、最近これは、というのに中々巡り合えません。申し訳ありませんが、今回も旧譜のレビューです。

私が好きな米・テキサスのバンドMidlakeが編集した2011年のコンピ"Late Night Tales"は、彼らが影響を受けたと思われる音楽家の曲で占められていて、これも私の愛聴盤となっています。私はロック/ポップ愛聴歴50年余に至っていますので、そこに収められているだいたいの音楽家は知っているのですが、全く未知のBread, Love and Dreamsなるユニットの"Time's the Thief"という収録曲が可愛いメロディのフォーク・ロックだったので、俄然興味を抱きました。

ネットで調べてみると'69~'71年に活動したスコットランドのバンドであることが判りましたが、この辺は少なくともユニットの存在くらいはおさえている自負があった中、虚を突かれたようで、取り敢えず上記曲を含む'71年の第3(最終)作"Amaryllis"(原盤はDecca)を聴いてみることとしました。

 

※ 紙ジャケットの国内盤が出ていることも知りませんでした

 

リーダー兼作曲者のDavid McNivenが歌う"Time's the Thief"は、彼の唱法・声質がPentangleのBert Janschに似ており、おまけに同バンドのDanny Thompsonがベースで客演しているものですから、「ジャンシュが歌う、ややジャズっ気を抜いたペンタングル」という表現がぴったりです。一方で、LP第1面を占める3部構成の組曲"Amaryllis"はもっとサブカル色が強く、マクニーブンが歌を分け合っているもう一人のメンバーAngie Rewの唱法・声質はIncredible String BandのLicorice McKechnieに近いので、こちらは「Mike HeronとLikkyが組んだ、二分の一のI.S.B.」という印象です。

ミッドレイクによる発掘から既に12年。B.L.D.はここにきてCDやアナログLPの再発など、再評価の動きが出てきていますが、本アルバムを何回か通しで聴いていると「現役当時何故注目されなかったか? それから長い間何故顧みられなかったのか?」が何となく解ってきます。一聴して他の音楽家のことが容易に想起される点がずっとマイナスにはたらいていたと思いますが、時を経てそのような難点を超えるメロディの瑞々しさが大きく前面に出てきたのではないでしょうか。

 

(3/3/2023)