今年は「昭和98年」にあたります。この2年後に、私が小学校3年生のときの「明治100年」の如く「昭和100年」が盛んに騒がれることとなるのでしょうか。片や「坂の上の雲」、一方は「軍靴の足音」というそれぞれの時代背景を考えると、振り返りがあったとしてもあまり明るいものにはならないかもしれません。

私が通っていた小学校は昭和の初め「軍人子弟向けの学校」として有名で、校舎だけではなく厳格な教育方針や「剣道必修」等独特のカリキュラムにその名残りがありましたが、学校の雰囲気は「戦争放棄・高度成長」を背景にした明るいものでした。そのような環境の中で、私の中には「~昭和19年…古い時代、昭和20年(太平洋戦争の終戦)~…新しい時代」という物差しができ、小学校卒業後に聴き始めたポップ/ロック音楽家についても、1944年生まれか'45年生まれかで「年寄り/若いヒト」と無意識に区別している気がします。

年が変わって以来「年寄り音楽家」の訃報が続く中、The Yardbirdsの初代(Jeff Beckの前々代)リード・ギターリストAnthony "Top" Tophamがこの23日にベックの後を追いました。でも、彼は'47年生まれでしたから意外にも「若いヒト」だったのです。トッパム/ベックふたりの間に挟まれた「年長組」Eric Claptonには、あまり急いでもらいたくはありません。

 

前置きが長くなりました。今回は、'47年生まれのIan Anderson、'46年のMartin Barre、Jeffrey Hammond、'48年のJohn Evan、'49年のBarriemore Barlowと、全員「若いヒト」からなる(ほんまかいな!)Jethro Tullの"Thick as a Brick"について。

このアルバムは何故か私とは縁が薄かった印象です。ちょうどロック音楽を本格的に聴き始めた'72年春の発表で、米Billboardアルバム・チャート第1位(本作がトップとは、驚異的なハナシだと思います)をはじめとして英・欧でも軒並み一桁台にランク・イン、私が即飛びついても不思議はない状況だったのですが、当時は見事にスルーしています。理由として思い当たるのは、1) LP両面通して1曲、というのはいかにも重そう、2) メンバーの見た目がいかにも埃っぽそう、3) 本邦発売直後の来日公演評(確か「ミュージック・ライフ」掲載)が「テントがあって、バーとバーロウが一緒に入っていき、出てきたらズボンが入れ替わっていた」などとステージ上の寸劇に引っ張られていて、それを読んでも彼らがどのような音楽を演っているのか見当がつかなかった、というところでしょうか。私はその後もタルの順調な活動のことを気にしながらスルー状態が続き、初めて真剣に向き合ったのは5年後のアルバム"Songs from the Wood"からでした。ようやく大学時代半ばに友人から"Brick"や"Aqualung"を聴かせてもらい「これは凄い連中だわ」と気が付きましたが、その時もアルバムを買うには至らず、"Brick"の紙ジャケットCDを手に入れたのは発表から40年後、一方で同じ年に作られていた「発表40周年記念リミックスCDボックス」は、情報を得られず見事に買い逃しています。

今また同作の「50周年記念リミックス・アナログ盤」が現れているようですが、これまでのいきさつからすると多分縁がないんだろうなあ…。

 

※ 私にとって唯一の"Thick as a Brick"。CDサイズながら、12頁の「新聞」は読むことができます。

アンダースン曰く「ジャケット制作の方が時間がかかった」

 

私のCDでは、旧LP第1面が22分39秒、第2面が21分10秒と計時されています。アンダースンによれば「他のバンドの大作主義のパロディとして、手持ちの素材をわざわざ繋いで1曲にした」ということなので、私の聴き方は彼の仕掛けを尊重し、意識を小分けにせずに全体の流れを楽しんでいるのですが、とはいえ長く聴いているうちに、LP第2面後半(CDではトラック2、12分30秒あたりから)に私にとってのヤマの部分が出来ました。「40周年ダウンロード版」ではLP各面を更に4分割して仮題を付ける形を採っていますが、それに従えば"Track 7 - Tales of Your Life"とされる部分です。2つの主題が速いリズムと複雑なブレイクを挟みながら繰り広げられる楽曲で、バンドが一丸となった演奏が聴いていて非常に刺戟的です。録音時はまだエヴァンの使用楽器が殆どオルガンとピアノに限られているのですが、その限定された音色を用いての演奏が、曲の求心力に寄与していると感じます。私にとっては、The Who "Tommy"の中の"Amazing Journey/Sparks"のような存在ですね。

あらためて聴いていて思うのは、このバンドは基本的にアンダースンの曲を演るための存在なのですが、その作品は他のバンドのように「主題(歌)→ギターや鍵盤のソロ→主題」といった簡素なものは少なく、主題間の演奏部分も予め細かく練られていて、その部分に対するアンダースン以外のメンバーの("No Credits"での)貢献は大きい、ということです。'70年代の実況録音ではアンダースンが束の間引っ込んで残りの4(5)名で"Instrumental"を披露することがままありますが、その部分の充実ぶりが前述した「貢献」を証明しているのではないでしょうか。

ひとつ残念なのは、現在"Brick"の実況録音は様々なCDやDVDで聴くことができますが、私が持っているソフトでは全てバンド自身が自発的に「ダイジェスト版」にしてしまっていて、この"Tales of Your Life"の部分を演奏しているものがありません。ブログをお読みの方でこの部分のライブ録音/録画の存在を知っておられたら、是非ご教示いただきたいです。

 

(1/29/2023)