明けましておめでとうございます。本年も弊スタジオを宜しくお願い申し上げます。

初日の出を見ることができた、穏やかな新年となりました。ブログ書き初めは、ここしばらく待合室で流している新着ソフトについて、添付写真の左から順にまとめてみます。

☆ Stud "September"

大韓民国Big Pinkレーベルの紙ジャケット再発シリーズの新譜。ビッグ・ピンクは過去にLighthouseの初期RCA盤をまとめて出したりして、私の琴線にしばしば触れてくれますが、今回はPre-FamilyとPost-Familyの二人の音楽家の遭遇ドキュメントを届けてくれました。

Pre-Familyの人はJim Creganというギターリストで、Blossom Toesを辞めた後、Rory Gallagher's Taste解散後のリズム隊…Richard McCracken/John Wilsonと組んでこのバンドを作ったもので、2作目の本盤から4人目のメンバーとして、Post-Familyの人で本業はベースマンのJohn WeiderがG/Pf/Vlnで参加しています。

クリーガンは後にベースマンとしてファミリーで、その解散後はCockney RebelやRod Stewart band(3人ギターリスト期のひとり)で活躍します。また、ウィーダーがベースから持ち替えて弾くバイオリンは、この時期のファミリーの音の肝でした。ということで、私は初聴のこの盤に大きく期待していたのですが、音は米国カントリー風味がやや強すぎて尖ったところが無く、この二人が主となって書いている曲も、これといった特徴に欠けるものでした(嗚呼、SWチームChapman-Whitneyの偉大さよ!)。原盤は独BASFで、内ジャケットのメンバー写真には名前/担当楽器だけでなく「元テイスト」「ファミリーから参加」等の注釈付きで異常に説明的ですが、実際に聴いてみると本盤を本拠英国では出せなかった理由が何となく解りました。

☆ Frank Zappa "Waka/Wazoo"

ザッパ師が1972年、大怪我からのリハビリ中に手掛けたビッグ・バンド形式の2作…"Waka/Jawaka"、"The Grand Wazoo"の「発表50周年記念盤」で、CD4枚に大量のアウトテイク/ミックス違い/ライブ等を収録、更にオリジナルをオーディオDVD1枚に収めています。オリジナルの2作はインストゥルメンタル曲を中心とした名盤ですが、それの変異版が沢山聴けるということで、非常に満足度が高い箱となっています。

私は今回、師のギターと曲作り、George Dukeの鍵盤、この時期のバンドの「飛び道具」だったSal Marquezのペットとやさぐれた歌、という前線の聴きどころに加えて、Disc 1・2のAynsley Dunbarのドラムと、彼が英国から引っ張ってきた"Erroneous" a.k.a. Alex Dmochowskiのベースを楽しんでいます。ダンバーは、師が掲げた"Electric Orchestra"という概念を完璧に理解しているようで、オーケストラ・ジャズ・ドラムの手法を基本とし、リズムを維持しながら曲に合った変態的な仕掛けとおかずを随所に盛り込んでいます。一方相棒のドゥモチョウスキも、ブクブクした音色の、出過ぎず引っ込み過ぎない、絶妙の頃合いの演奏を聞かせていて、他の楽器が少し引いてこの二人だけの対話になる部分は、まさに至福の瞬間です。

Disc 3の後半とDisc 4は、アルバム録音後に行った20人編成の"The Grand Wazoo"、10人編成の"Petite Wazoo"名義のライブの記録ですが、「ワズー」を名乗るわりには元アルバムの収録曲は含まれていません(演っていない可能性も)。ここではJim Gordonがドラムを叩いていて、ダンバーとは肌合いが異なり直球勝負の印象を受けるものの、流石The Wrecking Crew出身というべきか自在の演奏を展開しています。

 

※ Spot the Difference; 1枚だけ本当のジャケットと異なるものがあります

 

☆ Twenty-Five Views of Worthing "Rare Studio Recordings 1972 - 1977"

Disc Unionに忽然と現れた「Canterbury Soundの埋もれた名品」という謳い文句であれば、試聴しないわけにはいきません。大阪店でも売っているのでは…と思いましたが、横着をかまして情報提供者である弊東京駐在員に購入を依頼しました。

題名通り5年間、メンバー変遷を行いながらのスタジオ録音記録ですが、活動の前半はギターリスト不在だったこともあり鍵盤と管が中心になって組立てた音は、真面目さと諧謔が同居しているカンタベリー・サウンドの特徴を有しており、更に後期の作品には"Six"期Soft Machineの直接的な影響がうかがえます。

ただし、既知のカンタベリー人脈とはつながりがなさそうであり、何故今この音源が発掘されたのかは依然不明のままです。面白いのは、「ギリシアのカンタベリー・サウンド」Ciccadaの'21年作"Harvest"と音の作りがよく似ていて、年代と地域を隔てた隔世遺伝となっていることでしょうか。

☆ Christine and the Queens a.k.a. Redcar "Les Adorables Etoiles"

4種のうち唯一の新録は、フランスのパンセクシュアル音楽家Héloïse Adélaïde Letissierが「男性(Redcar)」として発表した通算3作目のアルバムです。私はこの人の作る静謐かつエレクトロな味付けをされたポップなメロディを贔屓にしていて、4年前の前作"Chris"(これも別の別名)、2年前のEP"La Vita Nuova"等かかさず聴いていますが、本盤は前掲した「性変更」の話題が先行し、聴く前は正直にいうと音楽の「変化」を恐れたのですが、いつもの優雅さが変わらず、ほっとしています。

本盤は昨年11月に発表されたばかりですが、"Prologue"の位置付けで早くも続編が予定されていて、そちらも楽しみです。

 

(1/7/2023)