本ブログは、今回の投稿が実質「153号」となります。毎週末更新していて最近とみに思うのは、新譜・再発ともに「これは」という盤が減っていることで、そのような新着ネタを採りあげる機会も極端に少なくなっています。買ったばかりの「レコード・コレクターズ」を読んでときめいたのが、サンターナ「キャラバンサライ」のSQミックス・7’紙ジャケット再発くらい、というのは大変残念です。

年末に向けて明るい話題がくるでしょうか。楽しみにしながら、今回はシリーズ"P"と"Q"を。

☆ "P"の最初は'70年代央のジャズ/ロック・バンドPacific Eardrumの2枚です。英国ベースといいながらも、Dave McRae (kbd/AUS)・Joy Yates (vo/NZ)・Brian Smith (sax/NZ)・Isaac Guillory (g/USA)・Billy Karaitiana a.k.a. Billy Kristian (b/NZ)・Jeff Seopardie (ds/GB)という多国籍ぶりで、「太平洋の鼓膜」なるバンド名も納得です。2作目のアルバム"Beyond Panic"('78)がカラリと明るい出来で、1作目しか知らなかった大学の友人に聴かせると「こんなに良くなったのね」と驚いていました。

☆ Pattoは、第二期TempestにおけるOllie Halsall八面六臂の活躍を聴いて興味を抱き、唯一市場で見かけたIsland盤"Roll 'em, Smoke 'em, Put Another Line Out"を買いました。パットー通算では3作目にあたりますが、「前2作のように大人しく演ってたんでは目が出ない」と言わんばかりに、ハルソールだけでなくMike PattoやJohn Halseyのクセの強さをそのまま封入したような出来で(外部プロデューサーMuff Winwoodは何をしていたのか…)、その破天荒さやとりとめの無さが逆にこの盤の強い魅力となっています。

☆ Pavlov's Dogは米・セントルイス出身のバンドで、'75年、Blue Oyster Cultと同じMurray KrugmanとSandy Pearlman制作の本盤"Pampered Menial"でデビューしました。歌手David Surkampの特異な声質と唱法、ヴァイオリンとメロトロンの専任奏者を置いた独特なアンサンブル、オリジナル曲のドラマティックさ等、将来有望なバンドでしたが、2作目で早くも結束が崩れセッション・ユニット化した(ただし、Bill Brufordが準メンバーとしてドラムを叩いています)のは惜しまれます。

☆ Caravanでベースを弾いていたJohn G. Perryは、'75年にRupert Hine率いるQuantum Jump("Q"の欄にアルバム2枚)に移り、そこで、世界一長い単語"Taumatawhakatangi­hangakoauauotamatea­turipukakapikimaunga­horonukupokaiwhen­uakitanatahu"(NZにある丘の名前)を歌詞に含むヒット曲"The Lone Ranger"を生みだすとともに、ハインの制作でオーガニックなソロ作"Sunset Wading"も発表します。私は彼の特に熱心な「追っかけ」ではありませんが、'70年代後半に聴いていたAviator、Cafe Jacques、Gordon Giltrap等のアルバムに正式メンバーあるいはセッション・マンとしてまめに登場するので、とても「近しい」気がします。

クォンタム・ジャンプの2作は、Mark Warnerという速弾きギターリストが居る1作目と居ない2作目とでは随分感触が異なりますが、ハインのバンドとしての本領はよりリラックスした2作目にあるのでしょう。ジャンプとウォーナーの関係(バンド内に「らしくない」達人が居る)は、前回"O"でふれたOrchestra LunaとそこのギターリストRandy Roosのそれに似ています。

☆ Trevor Horn主宰のZTTレーベルからソロ"Everything Could Be So Perfect..."('85)を発表した仏人Anne Pigalle。確か、当時来日してのプロモーションの際は「何事につけても高ピーである」とあまり評判が良くなかったと記憶していますが、このアルバムは、恋人?Nick Plytasの助力を得て作られた綺麗なメロディがふんだんに含まれていて、私はとても気に入っています。相棒プリタスもこの時期の日本で、お洒落なソロ音楽家として注目されていました。

☆ 私より1歳上のPaddy McAloonのバンド…Prefab Sproutを聴き始めたのは、2作目"Steve McQueen"が本邦発売された'85年初夏でしたが、当時は本当に不思議でした。十数年にわたって様々な形態のロック音楽を聴いてきた自分が、何故(今更)このように素朴な3ピースのギター・バンドが作り出す音楽に魅せられるのか…。遅れて入手した1作目"Swoon"を聴いて判ったのは、

・マカルーンのくねくねとしたメロディ作りが複雑ながら覚えやすくて、装飾の少ない形で提示することでかえってその良さが際立つ

・2作目以降では、同世代のプロデューサーThomas Dolbyがマカルーンの曲の特性を完全に理解した上で、プレイヤーの立場で上品で効果的な彩色を施している

ということでした。

彼らのアルバムはどれも絶品ですが、メロディの複雑さは1作目が最上で、それにドルビーの手が初めて加わった2作目が作品として一番優れていると考えます。

 

※ "P"と"Q"。「大物」Pink FloydとQueenは、申し訳程度に並んでいます

 

☆ "Q"の項は枚数が少ないのですが、その中ではQuatermass。E.L.P.と同じキーボード・トリオ編成で、少しクラシカル・プログレ風味のあるハード・ロックを演っています。メンバーはいずれも強者で、Peter Robinsonはこの後ややジャズ寄りの分野(Morris Pertとのコラボ、Brand X等)で、リズム隊のJohn GustafsonとMick Underwoodは(元々Deep Purple人脈であるのを活かして)英国ハード・ロック業界で、各々活躍を続けますが、みな「主役級」にならなかったのは少し残念です。

唯一のアルバムの制作時期はシンセサイザー等鍵盤楽器革新期の直前なので、この顔ぶれでもう少し頑張ってもらい「クェイターマス2」を聴きたかった気がしますが、その後のロビンソンの志向を考えればSun Treaderの一連の作品がそれに該当するのかもしれません。

 

(11/19/2022)