❝だって……だって、こんな時代、
こいくらいしてなきゃ、
生きていくのは苦しすぎるじゃないか……。❞
「レイモンド・チャンドラー」著の『長いお別れ (原題:The Long Goodbye)』(1953年)が日本でテレビドラマ化——。
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佳境に入って来た第4話「墓穴にて」をご紹介します。
繰り返しますが、数日で削除される恐れがありますので、お早めにご視聴して下さい。
よろしくお願いします。
❝原田平蔵「お前のような小物ほど、みみっちい正義を振りかざしたがる。しかし私はと思えば、そんなことは一向に恥とはせんのだ。なぜだか分かるか?」
増沢磐二「(首を横に振る)分かりませんが、知りたくもありませんね」
原田平蔵「おのれの使命があるからだ。歴史に名を残す人間と言うのは、目的の前にいちいち手段を悩まん。
つべこべ言わずに(テレヴィジョンを)観ろ」平蔵の秘書がテレビの音量を上げる。
原田平蔵「戦争で負けてこの国にはどでかい穴があいた。その穴をこれから、このテレヴィジョンが埋める。
かつて我々が信じるべきとされていたもの、仁義、礼節、忠誠、そういう何もかんもがあの戦争で全て灰になった。
大衆どもには、それが不安で堪らんらしい。一種のクセだ。みんな血眼になって、次にすがるべきものを探している。
だが私に言わせれば、クセそのものを直せば良いのだ。
詮無いことに思いわずらうのを止め、ただただテレヴィジョンを観る。
プロレスに興奮し、音楽とともに踊り、落語に笑えば良い。
頭を空っぽにするのだ。ただ空っぽに——。
そこに、テレヴィジョンという風が流れている。悩みを忘れ、笑いと興奮に満たされ……」増沢磐二「いやいやいや……」
原田平蔵「えっ?」
増沢磐二「正気ですか?」
原田平蔵「何だと?」
増沢磐二「この国の頭を空っぽにして回る。正気でそれが自分の使命だと?」
原田平蔵「悪いか? ゴミが詰まるよりは空っぽの方がずっとマシなんだよ」
増沢磐二「冗談じゃない。飢えた子供に酒を与えるようなもんですよ。
なるほど、苦痛はまぎれるかもしれない。頭という頭はすぐに空っぽになるんですからね。
ただそれは人間にとって、この国にとって、最も大事なものを奪い潰して回るということじゃありませんか」原田平蔵「うるせえよ! そら、そのお前の頭こそゴミ溜めだって言うんだよ!
ご立派なご高説で腹が膨れんのだ。お前のような男こそ百人いたって、ガキひとり食わせられねえんだよ。
能無しのクソッタレは、今すぐこの国から追放してやろうか? あっ? 馬鹿野郎!」❞