こんばんは、はるとです。
きょうも、ひとりぶんの転職の話をさせてください。
思い出したのは、28歳の男性のこと。
地方銀行に勤めていた人です。
入行したばかりの頃は、地域の役に立てる仕事だと思っていたそうです。
企業の資金繰りを支える。家を買う人の相談に乗る。
将来へ向けた資産形成を手伝う。
堅実で、信頼される仕事に憧れていたと言います。
でも、配属された支店では、営業目標がすべてでした。
投資信託、保険、クレジットカード、ローン。
毎月、一人ずつ細かいノルマが割り振られます。
達成状況は、支店の壁に大きく貼り出されました。
未達の項目には、赤い色がついていたそうです。
朝礼で、名前を呼ばれる日もありました。
「今月、保険ゼロだね」
「お客様に提案してないの?」
「地域のお客様の将来を考えているなら、自然に数字は出るはず」
商品を売ることが、お客様のためだと教えられてきました。
でも実際には、必要かどうかより、目標の達成が優先されていたそうです。
高齢の顧客へ投資商品を勧める。
満期を迎えた人へ、保険への切り替えを迫る。
断られても、何度も電話をかける。
いつの間にか、顧客の顔が数字に見えるようになっていったと言います。
この人なら保険一件。この会社なら融資額いくら。この家族ならカードを何枚。
自分でも、その変化には気づいていたそうです。
月末が近づくたび、支店長から言われました。
「親戚や友人でもいいから、見込み客を出して」
最初は、断ったそうです。
個人的な関係にまで、仕事を持ち込みたくなかったから。
それでも、こう返されました。
「銀行員なのに、家族の資産相談にも乗れないの?」
「身近な人を幸せにできない人が、顧客を幸せにできる?」
ついに彼は、母に頼んだそうです。
クレジットカードを作ってほしい。使わなくていいから。目標のために必要なんだ。
母は、「大変なんだね」と言って、申し込んでくれました。
その帰り道のことを、彼はよく覚えているそうです。
達成した数字を見ても、うれしくなかった。
ただ、胸のあたりが重くなっただけだったと言います。
支店長からは、「さすが。これで達成だね」と褒められました。
褒められて、うれしくなかったのは初めてのことだったそうです。
その夜、母から電話がありました。
「あのカード、結局どうやって使えばいいの?」
使う予定のないカードの使い方を、母は本気で調べようとしていたそうです。
その声を聞きながら、初めて気づいたと言います。
数字のために動かした相手の中に、母がいた。
それだけのことに、なぜかずいぶん時間がかかったそうです。
面談での第一声は、こうでした。
「僕、人を数字だと思うようになってました」
私は、こう聞きました。
「その数字を追いかけて、あなた自身の生活は良くなりましたか」
彼は、しばらく黙ってから、首を横に振りました。
——ここが、いちばんの山でした。
ノルマそのものが、悪いわけではありません。
でも、身近な人にまで数字を求めさせる組織は、社員を大切にする気がないという証拠です。
母に頼ませてまで達成させたい数字は、誰のためのものでもありません。
彼が次に選んだのは、法人融資に特化した信用金庫でした。
個人向けの投資信託や保険のノルマはなく、企業の資金繰り支援だけに集中できる仕事です。
年収は、少し下がったそうです。
面接では、前職での出来事も正直に話したと言います。
担当者は、「うちは、家族に頼らなくても数字が作れる仕組みです」とだけ答えたそうです。
その一言で、決めたと言っていました。
ただ、家族に何かを頼むことは、もうありません。
半年ほど経った頃、彼はこう言っていました。
「母に、あのカードを解約してもらいました」
母は、「そんなに気にしなくていいのに」と笑っていたそうです。
でも彼にとっては、あのカードを解約する電話が、けじめのようなものだったと言います。
いま、身近な人にまで数字を求められている、あなたへ。
その要求は、あなたが冷たい人間になったサインではありません。
組織が、社員の生活と信頼を区別できなくなっているサインです。
数字のために、大切な人を利用する必要は、どこにもありませんよ。
では、また明日。
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【今日のブログのおまけ】
「ノルマの中身を見極める」考え方は、私が本業で運営しているサイトにまとめています。
元面接官として、転職サービスを実名で辛口レビューしています。
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