思考の柔軟性 | はったブログ

思考の柔軟性

 今日(9/25)は学外日で、久しぶりに懸案になっている仕事を片付けようとまだ薄ぐらい5時前にデスクに向かった。ところが、USBをコンピュータが認識しないのである。引き抜いて再度差し込む作業を何度かしたが事態は改善しない。別のPCに差し込んでみても認識されない。家内のPCででも同じことであった。USBが壊れたのである。大学のPCは自動的に終了時にバックアップできるようにしてもらってあるので、大学に行けば作りかけのスライドファイルは保存されているはずなので,昔のように大騒ぎするほどでもないのだが、一日の予定は狂うこととなり、この原稿を書いているわけであります。スケジュール通りにはなかなか人生は運ばないのであります。
 いきなりびろうな話で恐縮だが、先週左足の指の付け根の当たりに少し痒みを感じた。足が蒸れたのであろう、靴を脱げば症状は軽減するのではないかとの仮説はすぐに間違いであることがわかった。痒みは増悪こそすれ無くならなかったからである。持ち歩いている常備薬の中にかなり以前に使った水虫の軟膏の使いさしがあるのを思い出して塗布してみた。少し痒みは治まった。しかし、翌日も左足の痒みは治まらず、寝る前にも気になって寝入りにくいので水虫の軟膏の塗布を続けた。痒みは、10分ほどは軽減するが、ぶり返すのであった。軟膏は残りが少ない。水虫の薬は高価だけども、かかりつけの医者のところには先週血圧の薬をもらいに行ったところなので(僕は投薬を受け治療中の身でもあるのです)水虫を老内科医に見てもらうのは如何かと思い、薬局に行って購入せねばなるまいと考えていた。この間の時間経過はほぼ3日である。
 3日目の夜、突然水虫ではないのかも、という仮説が頭を過ぎった。2年前に水虫であると自分で診断して市販の薬を塗ったり,振りかけたりしても一向に改善の兆しが見られないので、満を持して国分駅前の皮膚科を受診したことがある。常備薬の中にあったのはその頃の軟膏の残りである。若い女医さんは皮膚を削って顕微鏡を覗いた後、「水虫菌はいない、この赤くただれているのは湿疹です」と言って湿疹治療薬を処方してくれた。湿疹に水虫の薬を塗って症状を増悪させていたのである。処方されたのは赤いラベルの薬で医家向けの強い薬であることを後日知ったのだが、ほぼ2日で僕が長い期間水虫薬を塗布して悪戦苦闘していた状況は霧散し解消した。あまりに改善が早かったために再診する必要がなかったくらいである。「生兵法は怪我のもと」という格言はこう言うときに使うのだろうと自省していたエピソードを急に思い出したのである。そこで、ひきだしの奥に残っていたそのときの赤いラベルの軟膏を探し出して塗ると,左足の指先の痒みは一気にうそのように消失したのである。痒みの原因は水虫ではなく湿疹であったのだ。なぜ、女医さんの件をすぐに想起しなかったのか判らない。水虫と思い込み,それに対応する行動を3日もしていたのである。
 「水虫の話など」と顔をしかめる事勿れ。僕が言いたいのは、如何に思い込みは人間の行動を縛り間違わせるか、最初の思い込みは,一度くらいの訂正を経験しても残存することの不思議についてなのである。先週の僕の左足騒動は、最初に「足の指先が痒い→水虫だ→水虫薬での処方」というスクリプトを一旦獲得すると(実は自分での実体験でない場合であっても)、その思考回路から逃れることはなかなか困難であることを実体験したことになる。もっとも、そんな人はアンタだけでしょうという声が聞こえそうではあるが、そうではない。科学神話の間違いに関する本を翻訳出版したが、その中に記載される間違い(思い込み)はメディアから、口コミからの間接的情報源からもたらされるもので、情報の信頼性や妥当性の検証なしに「手間ひまかけずに日常生活を送りたいという「人間の怠け者特性」に原因があるのである(「本当は間違っている心理学の話」、化学同人、2014年刊、を購入しお読み下さい)。

 何故こんな話を書くのかというと、対人認知においても同じであることを経験したからである。我が大学は近い将来に新学部を創立すべく作業中である。ここで具体的な話を紹介するわけにはいかないのだが、その作業に関わって先週は数人の教員と面談する機会があった。最初に人間が獲得したスクリプトから逃れることは、ずいぶんと難しいのだという感想を持つことが何度もあったの。人はなかなか他人に優しくするように変われないものであることも思い知らされた。「自分に自信がない人間は他人に優しくはなれない」というどこかで目にしたフレーズの妥当性が脳裏に何度も行き交うのであった。作業記憶の中に暴れているフレーズを閉じ込めておかねばならないのに心的リソースを使った様な気がしている。

 何事もスケジュール通りには物事は簡単には運ばないということであろう。「troubles make your journey memorable」と教えてくれた先生の言葉を杖にして前に進むしかないが、大学のPCのバックアップ機能も予定通りには行かない、ということがないようにと連日の涼しい日々が台風の影響で蒸し暑いなあと思いつつ原稿を書いているのであります。