選択@千歳空港 | はったブログ

選択@千歳空港

9月の後半には日本神経心理学会(@東京パシフィックホテル)と日本心理学会(@北大)が続いてあり両方の学会に参加した。前者の学会は今回が実質的な30周年記念大会ということで、詩人の谷川俊太郎氏を呼ぶなど例年よりもにぎやかなプログラムとなった。記念パーティで過去の学会活動の歴史を振り返るスライドを見て、2年前に引き受けた名古屋学会は大変だったなあ,と改めて思い返したりした。
元々は神経内科医や精神科医らが始めた学際的な学会であるが最近では医者の占める割合が変わらないのに対して言語療法の研究者、作業療法の研究者らの参加が増え1,800名規模となっている。心理学研究者の占める割合は依然として低迷している。これは早くからの役員であった私の宣伝不足・能力不足によるところが少なくないが、心理学者はどうも医学者との共同作業は苦手なようで、誘っても関わりたがらないようである。
続いて参加した心理学会でも類似した神経心理学的なテーマの発表がないわけではないが、研究のレベルには差異が否めない(というと叱られるかもしれないが)。日本の心理学では脳の話を基本的に教えないので、心理学の研究者も神経心理学会は敷居が高いのかも知れない。最近の欧米の心理学研究では脳に言及することは認知心理学だけでなく,社会心理学の分野でも一般的になっている(というと言い過ぎかもしれないが)。

今回は学会の話を書くつもりはなく、旅行中に経験した選択場面での話である。
タレントが始めた牧場が発売して大人気である製品が千歳空港で売られている。8月半ばに来たときにも尋常でない規模の行列ができていたが、9月末でもそれに勝るとも劣らない規模の行列ができていた。「生キャラメル」の購入を目指しての行列である。商品を実際に販売する店から数メートル離れたホールに行列が出来ており、数人の整理員が慌ただしく行き来している。ホールのこの行列が「生キャラメル」相手であることは8月のときに知った。一定時間が経つと、時間内にお一人様何個という制限付きで製品を買い込み、その店から追い出されて次のグループが購入先の店舗に移動するのである。
立ちすくんで行列を眺めていると3時間半待ちであると、辺りの人が言う。辺りの人とはホールの前の店員で、「生キャラメル」を2種類販売しているのだ。「味は同じだと思うのですけどねえ」ということなので、気の毒なので1箱購入した。味が違うのかは比較しなければ分からないが、3時間半待つこととすぐ買えることとの違いを埋めるほどの差はあるまい。
日本人の付和雷同性の高さは「…もいろいろ」などと叫んでいた,言葉の重さは皆無で、乱暴な物言いを一般化した政治家(というと叱られるかもしれないが)がいた頃にも認識はしていた、これほどのものかと実感したことであった。
飛行機に乗る3時間半も前に空港に来るほどまでに購入したいのがキャラメルであるというのは、何というか信じられないものがある。甘味が全くなかった終戦前後の日本人でも3時間は待たないだろう。他のもっと生きるのに大事なことをするはずである。
日本神経心理学会の前日の役員会で、大会長と理事長の共編の「社会活動と脳:行動の原点を探る(医学書院刊)」をいただいて通勤電車で読んでいるのだが、その中にこのような選択をする人の脳機能を理解するヒントがあった。近時報酬と未来報酬を扱った「衝動と脳」について章の記述である。味が評判の店に出かけたが1時間待ちだというので隣の店に入るか辛抱強く待つか、という選択は前頭葉(内側部、眼窩面皮質)、側座核の機能が成せる業であるという。また、セロトニンという神経伝達物質の分泌と関連が強いということである。この種の研究は最近欧米で流行の「Neuroeconomics」に含まれる。経済活動の研究に心理学の手法を持ち込んでノーベル賞を受賞されたKahneman & Tverskyの行動経済学が進化した領域なのだろう。
近時報酬を衝動的に選択するのは前述の脳部位の損傷患者が見せる症状ということなので、並んで待つことなどあり得ず、近くの店の類似品で満足する私よりも、3時間半も行列してキャラメルを購入する人たちは前頭葉機能が悪くないということなのだろうか。未来報酬が得られるまでの時間が常識以上に長いのは、一旦選択したことの方向転換ができない固着行動とも見なせる。これは前頭葉損傷患者の示症状でもある。
私と、行列でキャラメルを買う人とどちらの前頭葉機能が病的なのか、にわかには決めがたいが、今年の夏の千歳空港は異様な光景を呈していたことは確かである。来年の夏にも北海道には行く予定なので,タレントショップがその時どうなっているのか楽しみではある(というと叱られるかもしれないが)。
ということで、今回は叱られるかもしれない言い回しが多くなった。抑制が利かなくなって来たのかも知れない。あたしの前頭葉の方が危ない?